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退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界

2015-02-26 06:35:48 | 韓で遊ぶ



世の中で一番やさしい手

田舎の小さな村に暮らす貧しい家の末っ子が大学生になりました。
末っ子は一日でも早くうっとうしい現実から抜け出したかったのですが、暮らしが苦しくて、毎日2時間かかる汽車通学をすることになりました。
その日も汽車時間に合わせようと朝早く起きた娘は、探してみてもぼろぼろになった服しかない洋服ダンスから大事にしておいたスカートを見つけてはきました。
「これくらいなら、いいわ、、、」
ですが、ストッキングが問題でした。いくつもないストッキングが全部破れて伝線していたのでした。脱いだ時まではなんともなかったのに。娘はストッキングを持ってぶしつけに母親を責めました。
「母さん、これは一体何なの。」
「あれまあ、それは、私が洗濯をしたからそうなんだね。私の手が熊手のようだから。どうしたらいいかね。」
娘は、すまない気持ちでどうしていいかわからない母親の前に、ストッキングの塊を放り投げました。
「母さん、二度と私のストッキングに触らないで。これからは私が洗うから。」
母親は娘の怒りを言葉もなく受け取りましたが、その後本当に娘のストッキングには手を触れませんでした。
その年の夏休みになって娘が家でごろごろしていた時、役場から電話がかかって来ました。
「えっ、家の母の指紋が磨り減っているですって。」
母の住民登録証を新しく作らなければならないけれど、指紋が磨り減って押印できないので、どうか何日間か仕事をしないようにということでした。
娘はしばらく呆然と空を眺めました。
なぜストッキングを使えなくするほど荒れた母の手を、ただの一度も握ってあげることができなかったのか。
娘は、畑へ母を捜しに行きました。
日陰もなく照りつく日差し、くの字のように曲がった背中、、、
生涯をそうやって田んぼに縛られ畑に縛られ、ススキのようにオオバコのように生きてきた母でした。娘は言葉もなく近づいて母を抱きしめました。
「母さん、、ううう、、」
「おやまあ、うちの末っ子がどうしの、畑まで来て、」
訳のわからないまま母親は娘を抱きしめました。
母の手はたとえ日に焼けて、でこぼこし土がついる手だけれど、それは世の中で一番やさしい手だったのでした。
コメント
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