5分だけでも
田舎の家に一人の軍人が訪ねて来ました。
「ごめんください。ここが、、、」
「どなた。」
洗濯物を干していた母親は、見覚えのない軍人が渡してくれた1通の手紙を受け取りました。それは息子の戦死通知でした。
戦地で、苦しみの中で死んでいった息子の姿を思い浮かべる母の胸は、張り裂けるように痛みました。
「ううう、、、ううう、、、」
とても大事に育てた息子、支えであり、希望であった息子なのに、、、
肩を震わせて泣く母の胸には、息子の姿が鮮明に浮かびました。
母親は懇切に祈りました。
「あぁ、一度だけでも息子に会うことができたら、ほんの5分だけでも、、、」
そばで母親の祈りを聞いた軍人が訊きました。
「息子さんに5分間だけでも会うことができたら、お母さんが会いたい息子さんの姿はどんな姿ですか。」
母親は息子と供に過ごした日々を思い浮かべました。母親の記憶の中には、本当にいろいろの姿の息子がいました。
よちよち歩きを覚えた幼い頃の天真な姿も、学校の壇上に上がって優等賞を受けた誇らしげな姿も、いい事をして家族を喜ばせた姿もありました。ですが、母親がもう一度会いたい息子は、その時の息子ではありませんでした。
話を聞いていた軍人は気使いながら訊きました。
「軍人として勇敢に戦った姿ですか。」
「違います。それは、、私が会いたいのは、、、」
母親は、すごくゆっくり記憶を探るように言いました。
「いつだったか、とっても大きな間違いをしでかして、どうしていいかわからなくて泣いた、その時の息子と5分だけでも会うことができたら、、、」
母親は涙をこらえながら話を続けました。
「あの子は、その時、あまりにも幼くてとても怖がっていたのよ。」
母親は涙で汚れた息子の顔を拭いてやりたいと言いました。苦しくて大変だった時の息子にもう一度会って胸に抱いて傷をなでてやりたいと言いました。