もう一度生まれたら
脳性まひの息子を持つ母親がいました。
ともすると、友達に馬鹿にされたりする息子、母親は息子が心だけは健やかにまっすぐな人になってほしいと、いつも肯定的な考えをするように助けてあげ、学校も特殊学校ではなく一般学校に入学させました。
不自由な身体で、その中に簡単に入って行けると思った訳ではありませんが、時間が解決してくれると信じました。
母親は息子が授業をしている間、いつもはらはらしながら運動場の隅で息子を待っていました。ですが息子は他の子供たちにのけ者にされ、からかわれ耐えることができず、段々閉鎖的でゆがんだ性格に変わっていきました。
まるで戦争のような一日一日でした。何時間かに一回ずつ服を汚し、洗濯物が山のようになっても、学校へ行かないと泣いて駄々をこねても、母親は怒ることが出来ませんでした。
ですが、母親の献身的な努力は無駄ではありませんでした。苦痛と試練の中で息子は中学校を卒業し高校に入学したのでした。
高校に通う3年間、母親はただの一日も欠かさず息子と一緒に登校し一緒に下校しました。
そして卒業式の日、息子は、この間母親の心を痛めてきた自分を省みました。授業が終わるまで、窓の外に立って自分を待ちながら暖かい励ましのまなざしを送ってくれた母。その母の胸を痛める釘をどれほどたくさん打ち込んだかわかりません。息子は卒業式場の片隅で心の中で泣いている母親にゆっくりと近づいて行って言いました。
「母さん、僕がもしもう一度生まれることができたならば、その時は母さんの母さんとして生まれてきたいよ。」
あれだけ強く見えていた母の目にも涙が浮かびました。
息子がまた言いました。
胸が恨みで一杯になり、ゆがんだ道を行こうとする度に自分を摑まえて抱きしめてくれた母さん、、その大きくて深い愛に恩返しするためには母さんの母さんとしてもう一度生まれるしかないということです。