声の主はN主任だった。
「だいじょうぶです」
M子は無理に立ち上がろうとしたが、から
だが思うように動かない。
思わず、よろめいてしまい、わきにあった
机に両手をついた。
「ちょっと待って。ぎっくりかもしれない
からね」
(ぎっくりって、ああいやだ。それじゃう
ちのお父さんが、この間やったわ。そんじゃ
動けないじゃないの)
NさんはつかつかとM子のもとに歩いて来
るなり、彼女をひょいと抱きかかえた。
ごつい腕だ。
なんでも郵便局員になる前は、山仕事をし
ていたらしい。
ぷんと汗のにおいがした。
M子は目をつむったまま、薄青色のジャー
ジの上着の袖口から突き出た両手を、Nの首
にまわした。
「すみません」
消え入りそうな声で言った。
「だいじょうぶだよ。人間、生きてるとい
ろんなことがあるのさ」
(大人の男の人って、なんて強くてたくま
しいのだろ)
休憩室の畳の上で、M子はしばらく横たわっ
ていた。
三十分もそうしていただろうか。
M子はそろっと起き上がろうとした。
痛みはずいぶん薄らいでいる。
(良かった。シップを貼ってもらったおか
げだわ)
背中に両手をまわし、乾いてかぱかぱになっ
たシップを二枚、そろそろと外した。
「どうなの?」
ふいにガラス戸が静かに開き、男の声が休
憩室にとびこんで来た。
N主任の声ではない。
もっと若々しい、どこかで聞いたことのあ
るものだった。
「この子が心配げだったからね」
N主任が彼の背後に立っていた。
「あっ、Yくん」
気恥ずかしいのか、Yは左手でしきりに頭
をかいた。
「配達、もう済んだの?」
「ああ、たった今、帰って来たところ」
M子とYは同級生である。
「バス停まで歩けるかい。家まで送ってや
れたらいいんだけどちょっと忙しいからね」
N主任が問うと、
「はい、歩けそうです」
と、M子が答えた。
「Yくん、きみ、そこまでいっしょに行っ
てやってくれるかい」
N主任の問いに、Yは黙ってうなずいた。
「だいじょうぶです」
M子は無理に立ち上がろうとしたが、から
だが思うように動かない。
思わず、よろめいてしまい、わきにあった
机に両手をついた。
「ちょっと待って。ぎっくりかもしれない
からね」
(ぎっくりって、ああいやだ。それじゃう
ちのお父さんが、この間やったわ。そんじゃ
動けないじゃないの)
NさんはつかつかとM子のもとに歩いて来
るなり、彼女をひょいと抱きかかえた。
ごつい腕だ。
なんでも郵便局員になる前は、山仕事をし
ていたらしい。
ぷんと汗のにおいがした。
M子は目をつむったまま、薄青色のジャー
ジの上着の袖口から突き出た両手を、Nの首
にまわした。
「すみません」
消え入りそうな声で言った。
「だいじょうぶだよ。人間、生きてるとい
ろんなことがあるのさ」
(大人の男の人って、なんて強くてたくま
しいのだろ)
休憩室の畳の上で、M子はしばらく横たわっ
ていた。
三十分もそうしていただろうか。
M子はそろっと起き上がろうとした。
痛みはずいぶん薄らいでいる。
(良かった。シップを貼ってもらったおか
げだわ)
背中に両手をまわし、乾いてかぱかぱになっ
たシップを二枚、そろそろと外した。
「どうなの?」
ふいにガラス戸が静かに開き、男の声が休
憩室にとびこんで来た。
N主任の声ではない。
もっと若々しい、どこかで聞いたことのあ
るものだった。
「この子が心配げだったからね」
N主任が彼の背後に立っていた。
「あっ、Yくん」
気恥ずかしいのか、Yは左手でしきりに頭
をかいた。
「配達、もう済んだの?」
「ああ、たった今、帰って来たところ」
M子とYは同級生である。
「バス停まで歩けるかい。家まで送ってや
れたらいいんだけどちょっと忙しいからね」
N主任が問うと、
「はい、歩けそうです」
と、M子が答えた。
「Yくん、きみ、そこまでいっしょに行っ
てやってくれるかい」
N主任の問いに、Yは黙ってうなずいた。