突然、どこからともなくわきだした黒雲が
空をおおいはじめた。
稲妻がピカピカと光っては、ゴロゴロと鳴
り、ジェーンの妹たちを怖がらせた。
夏ならいつ、にわか雨があったとしてもお
かしくない。
だが今は秋の終わり。
もうすぐ冬を迎えるのである。
(これはあの時のお天気と似てるわ。ひょ
っとして・・・)
メイはちょっと前の、いまわしい出来事を
思い出し、ぎゅっと唇をかんだ。
それは、世界中の幼い子らが何人も、ふっ
といなくなり、いくら探しても発見できなかっ
たことである。
日本では神隠しと呼ばれ、恐れられた。
「みんな、こっちへ来るのよ。雨が降りそ
うだからね」
メイはおだやかに話しかけた、
ジルとミルは、ひろい集めた木の実を、わっ
とばかりに投げ出すと、ジェーンの足もとに
かけよった。
「おねえちゃん、どうしよう。雨宿りする
とこなんて、あるかしら?どの木もみんな折
れていて、頼りになりそうもないわ」
ミルよりふたつ年上のジルが、今にも泣き
だしそうな眼で、ジェーンを見た。
「だいじょうぶよ、ジル。メイちゃんがな
んとかしてくれるわ」
ジェーンはそう言って、すぐそばにたたず
むメイを、すがりつくようなまなざしで見た。
「うん、そうよね。なんとかなるわ。絶対
そうしなきゃね」
メイは自分自身を励ますように、そう言い
ながら、辺りを見まわした。
(一難去って、また一難か。アライグマは
どこかに立ち去ってしまったけど。今度は土
砂降りの雨か。ずぶぬれになったりしたらみ
んな風邪をひいてしまう)
「そうだわ、アライグマだわ。あの子は一
体どこに逃げ込んでしまったのでしょう」
ひとりごとながら、メイはジェーンたちに
聞こえるような声で言ってしまった。
メイの視線はしばらく林の奥をさまよって
いたが、それは間もなく、ある場所に焦点を
定めた。
焼け焦げた木がいく本も折り重なり、地上
をおおっている。
幸いにも、杉やヒノキがそれらの葉をほと
んど残したままでいる。
「見つけたわよ、みんな。あそこなら大し
て濡れることはなさそうよ。さあ急ぎましょ
うね」
メイがそう指図すると、
「そうよね。雨宿りできるところなんてほ
かになさそうだし。洞窟があれば一番いいの
だけどね。この辺りの地理はよくわからない
し」
ジェーンがメイの気持ちを察した。
メイとジェーンがおそるおそる、倒木の間
にもぐりこんでから、ジルとミルを呼んだ。
「ジルは、メイちゃんのそば。ミルはわた
しのそばに来て。ふたりともよく聞いて。わ
たしたちが傘代わりになってあげるから」
「だめっ。ポッケがいないわ」
ミルが大きな声で言った。
彼女の声が聞こえたのだろう。
ポッケがみゃああと鳴いて、ミルのそばに
近寄ってきた。
「ほら、あなたはわたしが抱いててあげる」
ミルがやさしくポッケに語りかけた。
間もなく、雨がやってきた。
初め弱く、次第に強い降りに変わった。
雨のしずくが倒木という倒木をつたってき
て、メイとジェーンのからだを少なからず濡
らした。
もっと奥、自分の巣穴にでも、アライグマ
が逃げ込んだのだろうか。
運のいいことにアライグマが暴れないでい
てくれた。
あまりに雨音がうるさかったので、四人全
員、耳を両手でふさいだ。
いつしか雨音が遠ざかって行き、あたりが
明るくなった。
「もう大丈夫みたい。わたしが様子を見て
くるから」
ジェーンは木のかげからようやくはい出た
とたん、彼女が何も言わなくなった。
「どうしたの、ジェーン。何かあるの」
メイがたずねても、ジェーンは応えない。
「やっぱり何かあるのね。よおし、それな
らわたしが」
メイが見たのは、ジェーンが赤や黄色の花
々の間ですわりこみ、それらの香りを楽しん
だり、摘みとったりしているところだった。
「なにやってるのよ、ジェーン。それどこ
ろじゃないでしょ。うかうかしてると敵に見
つかってしまうじゃない」
「だってわたし、ひさしぶりなんですもの。
こんなにきれいな花を見るのは」
(あの賢明なジェーンがわれを忘れている。
これは何かあるぞ)
わるい予感がしたメイは、用心してあたり
を観察しはじめた。
白い霧が倒木の林の中をすうっと流れて行っ
てしまうと、メイは大きすぎて正体がわから
ないような黒いものが、花園の向こうにある
のに気づいた。
「メイ、わたしよ。おひさしぶりね」
唐突に、メイが前から会いたいと思ってい
た女の声がした。
空をおおいはじめた。
稲妻がピカピカと光っては、ゴロゴロと鳴
り、ジェーンの妹たちを怖がらせた。
夏ならいつ、にわか雨があったとしてもお
かしくない。
だが今は秋の終わり。
もうすぐ冬を迎えるのである。
(これはあの時のお天気と似てるわ。ひょ
っとして・・・)
メイはちょっと前の、いまわしい出来事を
思い出し、ぎゅっと唇をかんだ。
それは、世界中の幼い子らが何人も、ふっ
といなくなり、いくら探しても発見できなかっ
たことである。
日本では神隠しと呼ばれ、恐れられた。
「みんな、こっちへ来るのよ。雨が降りそ
うだからね」
メイはおだやかに話しかけた、
ジルとミルは、ひろい集めた木の実を、わっ
とばかりに投げ出すと、ジェーンの足もとに
かけよった。
「おねえちゃん、どうしよう。雨宿りする
とこなんて、あるかしら?どの木もみんな折
れていて、頼りになりそうもないわ」
ミルよりふたつ年上のジルが、今にも泣き
だしそうな眼で、ジェーンを見た。
「だいじょうぶよ、ジル。メイちゃんがな
んとかしてくれるわ」
ジェーンはそう言って、すぐそばにたたず
むメイを、すがりつくようなまなざしで見た。
「うん、そうよね。なんとかなるわ。絶対
そうしなきゃね」
メイは自分自身を励ますように、そう言い
ながら、辺りを見まわした。
(一難去って、また一難か。アライグマは
どこかに立ち去ってしまったけど。今度は土
砂降りの雨か。ずぶぬれになったりしたらみ
んな風邪をひいてしまう)
「そうだわ、アライグマだわ。あの子は一
体どこに逃げ込んでしまったのでしょう」
ひとりごとながら、メイはジェーンたちに
聞こえるような声で言ってしまった。
メイの視線はしばらく林の奥をさまよって
いたが、それは間もなく、ある場所に焦点を
定めた。
焼け焦げた木がいく本も折り重なり、地上
をおおっている。
幸いにも、杉やヒノキがそれらの葉をほと
んど残したままでいる。
「見つけたわよ、みんな。あそこなら大し
て濡れることはなさそうよ。さあ急ぎましょ
うね」
メイがそう指図すると、
「そうよね。雨宿りできるところなんてほ
かになさそうだし。洞窟があれば一番いいの
だけどね。この辺りの地理はよくわからない
し」
ジェーンがメイの気持ちを察した。
メイとジェーンがおそるおそる、倒木の間
にもぐりこんでから、ジルとミルを呼んだ。
「ジルは、メイちゃんのそば。ミルはわた
しのそばに来て。ふたりともよく聞いて。わ
たしたちが傘代わりになってあげるから」
「だめっ。ポッケがいないわ」
ミルが大きな声で言った。
彼女の声が聞こえたのだろう。
ポッケがみゃああと鳴いて、ミルのそばに
近寄ってきた。
「ほら、あなたはわたしが抱いててあげる」
ミルがやさしくポッケに語りかけた。
間もなく、雨がやってきた。
初め弱く、次第に強い降りに変わった。
雨のしずくが倒木という倒木をつたってき
て、メイとジェーンのからだを少なからず濡
らした。
もっと奥、自分の巣穴にでも、アライグマ
が逃げ込んだのだろうか。
運のいいことにアライグマが暴れないでい
てくれた。
あまりに雨音がうるさかったので、四人全
員、耳を両手でふさいだ。
いつしか雨音が遠ざかって行き、あたりが
明るくなった。
「もう大丈夫みたい。わたしが様子を見て
くるから」
ジェーンは木のかげからようやくはい出た
とたん、彼女が何も言わなくなった。
「どうしたの、ジェーン。何かあるの」
メイがたずねても、ジェーンは応えない。
「やっぱり何かあるのね。よおし、それな
らわたしが」
メイが見たのは、ジェーンが赤や黄色の花
々の間ですわりこみ、それらの香りを楽しん
だり、摘みとったりしているところだった。
「なにやってるのよ、ジェーン。それどこ
ろじゃないでしょ。うかうかしてると敵に見
つかってしまうじゃない」
「だってわたし、ひさしぶりなんですもの。
こんなにきれいな花を見るのは」
(あの賢明なジェーンがわれを忘れている。
これは何かあるぞ)
わるい予感がしたメイは、用心してあたり
を観察しはじめた。
白い霧が倒木の林の中をすうっと流れて行っ
てしまうと、メイは大きすぎて正体がわから
ないような黒いものが、花園の向こうにある
のに気づいた。
「メイ、わたしよ。おひさしぶりね」
唐突に、メイが前から会いたいと思ってい
た女の声がした。
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