長かった梅雨があけ、まもなく、はるとが
待ち望んでいた夏休みがやってきた。
はるとはあまり運動を好まない。
朝から晩まで、じぶんの部屋で過ごすこと
が多い。
そんなとき洋子は、はるとが、やれゲーム
に興じているんじゃないか、とか、問題集の
下に漫画本をしのばせ、ひそかに楽しんでい
るのではないかと思ってしまう。
これらはほとんど、洋子の取り越し苦労な
のだが、時には、度を越してしまうから始末
がわるい。
母親の洋子にとって、長い休みがはだいの
苦手だ。
いっとき、はるとに塾通いを勧めた。
塾にさえ通っていれば、はるとが勉学に励
んでいると安心していられたからである。
だが、彼はがんとして聞き入れなかった。
「それは僕なんかのためじゃなくって、お
母さんのためだろ?」
はるとに足もとを見られてしまった。
実際、この休みに入ってから、はるとは終
日、部屋にこもっていることが多い。
洋子にとって地獄の日々である。
「お母さんの顔って、なんだか見にくいよ。
もっとじぶんの子どもを信じてよ。塾なんか
に行かなくったって、ぼくはじぶんで勉強し
てる。テストなんて、いつだってほとんど百
点でしょ。この間の学力テストなんて、トッ
プだったんだぜ、忘れた?」
いつの間にか、洋子ははるとに口負けする
ほどになっていた。
この日まで洋子のいらいらは、つのる一方
だった。
洋子はノックもせず、はるとのドアを開け
ようとして思いとどまった。
こんなときはいつでも、中からロックがか
かっているからだった。
「はあちゃん、いる?」
ともすればかんしゃくを起こしそうになる
のをこらえ、おだやかにいった。
だがはるとが返事をしない。
「中にいるんでしょ?外はいいお天気なんだ
し、そうだ、公園にでも行こうか。涼しいし
ね。そうだ、はあちゃんのお気に入りの猫ちゃ
んを連れて行けばいい」
洋子はドアのそばに、しばらくたたずんだ
まま、はるとからの返答を待った。
だが、部屋の中はしんとしたままだった。
ついに洋子が爆発した。
「もうっ、あんたがそこにいるのはわかって
るんだから、早く出てらっしゃい」
洋子はトアノブを右に左に、急いで回しだ
した。
ドアがすうっと内側に開いた。
部屋の中はがらんとしていた。
「はると、ママとかくれんぼしたいんだ。よ
おしそれなら」
洋子はまず押入れを開けたが、はるとはい
なかった。
「ここにいないんだ。そうねそれじゃ窓ぎわ
かしら?」
洋子の夫健一は家に趣向をこらした。今ど
きの若い人が好むような建て方でなく、些細
なところにまで金に糸目をつけず、工夫をこ
らした。
夫の健一は三男、彼の両親は長男家族とと
もに東海地方のS市に住んでいる。
どうやら健一は、ふるさとが恋しかったら
しい。
結局、洋子ははるとを発見できなかった。
「ふとんはきちんとしまわれてるし、まっ
たくどこへ行ったのかしら?朝食はともにし
たんだし、そんなに心配はいらないと思うけ
ど、いつの間に出て行ってしまったんだろ」
数分後洋子は支度を整え、家をでた。
最寄りの公園に、はるとを探しに行くこと
にした。
(実家に行ってから、なんだかはるとの様
子がおかしくなったみたいだわ)
不安がたちまち彼女の胸にこみあげてきて、
たまらなくなった。
待ち望んでいた夏休みがやってきた。
はるとはあまり運動を好まない。
朝から晩まで、じぶんの部屋で過ごすこと
が多い。
そんなとき洋子は、はるとが、やれゲーム
に興じているんじゃないか、とか、問題集の
下に漫画本をしのばせ、ひそかに楽しんでい
るのではないかと思ってしまう。
これらはほとんど、洋子の取り越し苦労な
のだが、時には、度を越してしまうから始末
がわるい。
母親の洋子にとって、長い休みがはだいの
苦手だ。
いっとき、はるとに塾通いを勧めた。
塾にさえ通っていれば、はるとが勉学に励
んでいると安心していられたからである。
だが、彼はがんとして聞き入れなかった。
「それは僕なんかのためじゃなくって、お
母さんのためだろ?」
はるとに足もとを見られてしまった。
実際、この休みに入ってから、はるとは終
日、部屋にこもっていることが多い。
洋子にとって地獄の日々である。
「お母さんの顔って、なんだか見にくいよ。
もっとじぶんの子どもを信じてよ。塾なんか
に行かなくったって、ぼくはじぶんで勉強し
てる。テストなんて、いつだってほとんど百
点でしょ。この間の学力テストなんて、トッ
プだったんだぜ、忘れた?」
いつの間にか、洋子ははるとに口負けする
ほどになっていた。
この日まで洋子のいらいらは、つのる一方
だった。
洋子はノックもせず、はるとのドアを開け
ようとして思いとどまった。
こんなときはいつでも、中からロックがか
かっているからだった。
「はあちゃん、いる?」
ともすればかんしゃくを起こしそうになる
のをこらえ、おだやかにいった。
だがはるとが返事をしない。
「中にいるんでしょ?外はいいお天気なんだ
し、そうだ、公園にでも行こうか。涼しいし
ね。そうだ、はあちゃんのお気に入りの猫ちゃ
んを連れて行けばいい」
洋子はドアのそばに、しばらくたたずんだ
まま、はるとからの返答を待った。
だが、部屋の中はしんとしたままだった。
ついに洋子が爆発した。
「もうっ、あんたがそこにいるのはわかって
るんだから、早く出てらっしゃい」
洋子はトアノブを右に左に、急いで回しだ
した。
ドアがすうっと内側に開いた。
部屋の中はがらんとしていた。
「はると、ママとかくれんぼしたいんだ。よ
おしそれなら」
洋子はまず押入れを開けたが、はるとはい
なかった。
「ここにいないんだ。そうねそれじゃ窓ぎわ
かしら?」
洋子の夫健一は家に趣向をこらした。今ど
きの若い人が好むような建て方でなく、些細
なところにまで金に糸目をつけず、工夫をこ
らした。
夫の健一は三男、彼の両親は長男家族とと
もに東海地方のS市に住んでいる。
どうやら健一は、ふるさとが恋しかったら
しい。
結局、洋子ははるとを発見できなかった。
「ふとんはきちんとしまわれてるし、まっ
たくどこへ行ったのかしら?朝食はともにし
たんだし、そんなに心配はいらないと思うけ
ど、いつの間に出て行ってしまったんだろ」
数分後洋子は支度を整え、家をでた。
最寄りの公園に、はるとを探しに行くこと
にした。
(実家に行ってから、なんだかはるとの様
子がおかしくなったみたいだわ)
不安がたちまち彼女の胸にこみあげてきて、
たまらなくなった。
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