徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

最高級軍刀拵

2012-11-03 02:52:32 | 拵工作
最新作の軍刀拵が完成しました!

当該軍刀拵は、98式と呼ばれ昭和13年に旧陸軍によって制式に採用された軍刀様式です。従来の94式と比べ、佩鐶が一つになっていることが特徴です。



現存する98式の大半が、物のない時代の粗悪な材料を用いて作られており、非専門家による雑な作り込みが特徴です。
そのため、状態の良い拵えを拝見することは稀で、切羽の番号がそろっている軍刀拵などは数が少なくなってきているのも事実です。



この度のご依頼では、戦時中に科学的な研究によって作り出された特殊な刀身に、ご提供いただいた軍刀拵を着せるというものでした。

お預りした拵えからは、無加工で使用できる部品は鉄鞘の外側のみという非常にきびしい状態でしたので、鞘の入子を調整し、柄前は部品のみを用いて下地から新たに作りました。



当該拵えを制作するにあたり、様々な考えや思うところがあり、靖国神社へ何度も足を運びました。
最終的に方向性が定まり、戦時中の軍刀拵のレプリカを作るよりも、英霊への鎮魂の意を込めて太刀拵えの風格を加味し、気品と格式に重点を置くことといたしました。



戦時中の軍刀は、刀身のナカゴが長くて棒状であることが多く、そのような刀身に合わせて作られた外装は非専門家でも作りやすい様に棒柄状になっています。
これはほぼ量産型の軍刀に共通しますが、一部の高級将校や華族の方の差料では、特注による刀装具を用いており、刀身には上古刀などの家伝の宝刀が仕込まれたものを拝見することがあります。
以前、当工房にて修復をおこなった華族の末裔の方の軍刀拵は、そのような高級仕様のお刀でした。

そこで今回の拵工作では、過去のデータを参考に最高級軍刀拵を着せることで、軍刀の品格を後世に伝えたいという思いで制作いたしました。
シルエットが、衛府の太刀の様に腰反りになっていることが、お分かりになりますでしょうか?

後はお祓いを済ませ、納品を待つばかりです!