門前の小僧

能狂言・茶道・俳句・武士道・日本庭園・禅・仏教などのブログ

逆もまた真なり。【逆説名言辞典】

2022-07-14 18:27:23 | 名言名句

【言の葉庵】ホームページは名言名句をご紹介するサイトです。

千年の日本語を読む【言の葉庵】能文社 (nobunsha.jp)

中世日本を中心に、世界中からこれまで多くの偉人の格言をご案内してきました。

今振り返ってふと気づいたのが、本来の意味と真逆の言い回しを意図的に使用する“逆説的”な名言が多いことです。

「急がば回れ」などのように、ストレートに表現しないことで、注意を呼び、深く意味を考えさせる逆説表現。一瞬、誤りのようですが、立ち止まって思いを巡らすと偉人の深い意図に至り、長く心に刻まれるものです。

【言の葉庵】HP過去掲載分も含め、いくつかの味わい深い逆説的名言をご紹介しましょう。







【逆説名言辞典】



『風姿花伝』世阿弥



・上手は下手の手本、下手は上手の手本。

上手が下手の手本になるのは当たり前。だが、下手を見て、上手が「あんな下手から何を学ぶのだ」という自身の慢心に気づかせてくれるから先生となりお手本となる。



・秘すれば花なり。

本当の秘伝は、いままで誰も気づかなかったからこそ秘となり、絶大な効を発する。その内容ではない。



・初心忘るべからず。

初志貫徹という意味ではない。その時々、年代のもっとも得意であったもの(芸や考え)を「あれはもう幼い、古い」と捨てず、自分の中に保ち続け、必要に応じて取り出して応用する。





『歎異抄』親鸞



・善人なをもて往生す、いわんや悪人をや。

浄土宗の教えでは、自らを救済できる善人でも亡くなれば往生できる。ましてや自らを救うすべのない極悪人こそ、阿弥陀様がもっとも哀れに思い救ってくださるのだ。





『源平盛衰記』平敦盛



・仇をば恩で報うなり。

人と人とは前世の縁で導かれるもの。もともと敵同士であったわけではないので、仏の慈悲で敵にも報うのだ。





『葉隠』鍋島直茂



・わが気に入らぬことが、わがためになるなり。

良薬口に苦し、のたとえの通り。トップの耳に入るのは追従の言葉が多く、忠義無私の諫言は、受け入れ難いもの。



・大事な思案は、軽くすべし。

重要な議案は会議のメンバーすべて、日頃から熟慮に熟慮を重ねているはず。提議されれば、すばやく一決し、実行に移されるような意思決定システムを作っておくこと。



・耄碌は、得意な分野から進んでくる。

人は加齢とともに記憶力が衰えても、自負心だけが強いままである。





『紹鷗遺文』武野紹鷗



・すべての芸に、下手の名をとるべし。

一芸の名人になるためには、他芸に目移りしてはならない。





『山上宗二記』千利休



・上を粗相に、下を律儀に。

賓客には飾らず接し、並みの客は丁寧にもてなすべし。





『貞観政要』唐の太宗



・楽しみは極むべからず。楽しみを極めれば悲しみを生ず。





『スッタニパータ』釈迦



・人々が安楽と称するものを、聖者は苦しみであるという。





『道徳経』老子



・知る者は言わず、言う者は知らず。 第五十六章

高い見識のある者は誤りを恐れて無口となり、

浅薄無知なものほど聞きかじったことを得意げにぺらぺらしゃべるものだ。



・学を絶てば憂い無し。

学ぶことによって、かえって苦悩が深くなる。 第二十章



・曲なれば則ち全し、枉がれば則ち直し。第二十二章

まっすぐな木よりも、曲がっている木こそ、その天寿を全うできる。



・道は常に無為にして、而も為さざるは無し 第三十七章

道は常に何事もなさないが、それでいて全てを成し遂げている。



・知りて知らずとするは上なり。 第七十一章

知っていても知らないとするのが最上である。
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【言の葉庵】千利休講座、4/5読売新聞に掲載されました。

2022-04-06 10:31:51 | カルチャー講座
4/16(土)11:00~ 

 よみうりカルチャー 大手町スクール

 「生誕500年 千利休が残した茶の湯の歴史」 

講師:水野聡(古典翻訳家)

https://www.ync.ne.jp/otemachi/kouza/202204-18011010.htm



千利休の生涯と、利休が大成した茶道の歴史をたどる初心者向け茶道史講座です。

※2022/4/5 読売新聞 朝刊(都内版)に、講座の記事が掲載されました。







【言の葉庵】カルチャー情報

http://nobunsha.jp/img/kozalist.pdf



4/8(金) 10:00~16:15

〈東京新橋 寺子屋 素読ノ会〉 

※言の葉庵オフィシャル定期講座

講座名:Aクラス『葉隠』 第二金曜日 10:00~11:30 

     Bクラス『能狂言入門』 第二金曜日 13:00~14:30

     Cクラス『南方録』 第二金曜日 14:45~16:15

http://nobunsha.jp/img/terakoya%20annai.pdf





4月19日(火) 10:30~12:00

〈東京都港区・NPO法人 新現役ネット〉

NEW! 定期講座:古典に学ぶ 『風姿花伝』を通読(オンライン対応講座)

https://www.shingeneki.com/common/details/forumevent/3455





4/21(木)  10:30-12:00

〈東京都渋谷区・よみうりカルチャー恵比寿〉

〔定期講座〕 千利休と侘び茶の世界

~千宗旦の茶書を読む~

 「江岑夏書」と四代江岑宗佐

https://www.ync.ne.jp/ebisu/kouza/202104-01510201.htm





4/26(火) 13:00~14:30

〈東京都港区・日本文化体験交流塾〉

定期講座:歴史上の人物を踏まえた「禅と日本文化」(鈴木大拙著)講読会

 第4回 第2章/禅と美術②

https://www.ijcee.jp/culture/mizuno-zen-japanese-culture2022/





4/27(水)  13:00-14:30

〈東京都目黒区・自由が丘産経学園〉

定期講座:お能鑑賞 はじめの第一歩

 ~白洲正子が愛した能。~

 第四回正子と能面

https://www.sankeigakuen.co.jp/search/detail.php?SC=16&CC=427663&OS=00





5/3(祝) 10:30-12:00

〈横浜市・よみうりカルチャー横浜校〉

定期講座:千利休に学ぶ茶の湯  ~千利休の侘び茶の世界~

 利休の逸話。長闇堂記

https://www.ync.ne.jp/yokohama/kouza/202204-01510201.htm



#千利休

#よみうりカルチャー

#言の葉庵 
#茶道史
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名言名句第七十二回 君看よ双眼の色、語らざるは愁い無きに似たり。

2022-02-20 11:03:24 | 名言名句
君看よ双眼の色、語らざるは愁い無きに似たり。 ~出典不詳。『槐安国語』に白隠の句あり


江戸中期の禅の高僧、白隠慧鶴(はくいんえかく)の名句です。
臨済宗大徳寺派の祖、大燈国師の語録に、白隠が評語と下語を付した、『槐安国語』に収められています。(ただし白隠のこの句の出典は不詳とされています。くわしくは下記リンクを参照してください。)

◆良寛「君看雙眼色 不語似無憂」の典拠について(ぱぽ書房)
https://bit.ly/3rUbjy5

同書より、大燈国師の元の句(千峯雨霽露光冷から始まる、左の七字四行の句)と、それに付した白隠の句(右の君看雙眼色。不語似無愁以下の四行)をご紹介しましょう。


千峯雨霽露光冷   君看雙眼色。不語似無愁
月落松根蘿屋前   眼中無見刺。耳裏絶聞塵
擬寫等閑此時意   若識琴中趣。何勞絃上聲
一溪雲鎖水潺潺   莫嫌襟上斑斑色。是妾燈前滴涙縫


禅語はそもそも詩や文学ではなく、悟りを開くための修行として唱え、学ぶべきもの。
和歌や漢詩のように、解釈し、観賞するものではありませんが、時としてその語感の美しさに、祖師の深い教えに到達できなくとも、感動し、魂がふるえることがあります。

「君看よ双眼の色」も、禅修行者はもとより、古くから書家や文学者に愛唱され、度々引用されてきました。
もっとも有名なのが、良寛の書であり、二行双幅のものと、一行のものがあります。榊莫山はこの一行ものを良寛の「涅槃の境」と称しています。
芥川龍之介はこの句を好んで自ら色紙に書き、『羅生門』の扉を飾らせ、作中人物にも書かせています。

君看よ双眼の色、語らざるは愁い無きに似たり。

人は悲しみや苦悩が深ければ深いほど、静かに澄んだ目をしているように見える。
名句の解釈は、語り手自身の底を見せてしまうものですが、今一度声にも出して味わってみたいものです。

『禅林句集』(岩波文庫)の解説では、禅に傾倒した詩人、高橋元吉の次の詩が、この句を思い起こさせるようだ、としています。


みづのたたえのふかければ おもてにさわぐなみもなし
ひともなげきのふかければ いよよおもてぞしづかなる

(『高橋元吉詩集』昭和37年)



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本日放送、NHK Eテレ〈美の壺〉鬼

2022-01-30 13:53:37 | 能狂言

本日、1/30(日)23:00~ NHK Eテレにて〈美の壺〉~鬼が

放送されます。

世阿弥の鬼の芸について、【言の葉庵】(水野聡)が取材協力

いたしました。

同放送は2016年の番組の再放送です。



◆【言の葉庵】関連リンク



千年の日本語を読む【言の葉庵】能文社: 10/14 NHK〔美の壺〕にて言の葉庵「佐渡状 現代語訳」を放映!
リンク
nobunsha.jp


千年の日本語を読む【言の葉庵】能文社: 第八回 世阿弥絶筆「佐渡状」を読む。
リンク
nobunsha.jp
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名言名句 第七十一回 孟子 道は近きにあり、しかるにこれを遠きに求む。 

2021-12-14 10:31:30 | 名言名句
道は近きにあり、しかるにこれを遠きに求む。 ~『孟子』離婁上 十一


中国戦国時代の儒家、孟軻(孟子)の名言です。
出典は四書の一、『孟子』の離婁上 十一より。
以下、原文、読み下し文、解釈をご紹介しましょう。


【原文】
道在爾而求諸遠
事在易而求諸難
人人親其親
長其長而天下平

【読み下し文】
道は近きにあり、しかるにこれを遠きに求む。
事は易きにあり、しかるにこれを難きに求む。
めいめいその親を親とし、
その長を長として、しかるに天下平らかなり

【解釈】
人の道、正しい道は、実はすぐ近くにある。
しかし人は、高遠な理想を追って遠くを見がちだ。
物事のあり方も本体はいたってシンプルなもの。
なのに、もってまわってより複雑に考えたがるのである。
ただ祖先を敬い、年長者を大切にすれば人の道は平らかになる。


人はとかく、遠く高みにあるものに憧れ、ありがたがるものです。
また、頭脳明晰な人ほど選択肢が多いので、物事を分析しすぎ、
かえって複雑にしてしまいがちです。


大切なのは、自分の近くにあることに、今一所懸命に取り組むこと。
より早く、より遠くに行こうと、はるか彼方を見て走ると
足元の小さな石につまずきます。

 看脚下 ―

人生が急に闇に包まれてしまった時、「まず足元を見よ」と禅の公案が教えてくれます。
(『碧巌録』 圜悟克勤)

若い時にはなかなか気づきませんが、自分の為すべきこと、すなわち道は、年を取れば、意識し始める前に「なんだ。もうすでに歩いていた」と悟るはず。

「道」とは何か。
孟子の趣旨から少し離れますが、例えばこの句の「道」を「幸せ」に置き換えてみましょうか。

 幸せは近きにあり、しかるにこれを遠きに求む ―

理想のパートナーを求めて。あるいは、誰も成し遂げられなかった偉大な目標に向け、若者は情熱を傾けることがある。
それがかなえば死んでも悔いはない、と。

歌人、与謝野晶子は、ひたむきに仏の教えを語る、若き出家に恋をする。
そしてこんな歌を贈りました。

 やわ肌のあつき血汐にふれも見で さびしからずや道を説く君
 (『みだれ髪』)

すぐ近くにある幸せに気づきもせず、人の道から仏の道へと渡ってしまった君。
今も君の肌の下に、あつき血汐が脈々と流れているのではないですか ―

いまだ仏道と人道の間で揺れ動く「君」の本心を見透かすように晶子は高らかに歌います。

煩悩を断ち、難行苦行のすえに高僧となり、衆生を済度する仏の道。
近くの人と結ばれ、子を為し、家族睦みあい、平凡ながら実り豊かに過ごす人の道。

いずれも立派な道です。

愚直に己の業に生涯励み、妻を愛し、子を慈しみ、親へ尽くす。
たとえ偉業を達成できなくとも、それが幸せであり、まごうかたなき人の道です。
道には、小さな道や大きな道などありません。
人の前には、ただ一本の道しかないのですから。

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