門前の小僧

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現代語訳『十牛図』(能文社)発刊

2014-05-01 10:05:14 | 読書
十枚の牛の絵で悟りを導く、禅の古典名著『十牛図』。能文社より、全文現代語訳をリリースしました。
【言の葉庵】ホームページから、どなたでもご覧になれる電子ブック(PDF版)です。
本書「まえがき」を抜粋して以下に概略をご案内いたします。


◆まえがき

本書は、南宋の廓庵禅師『十牛図』の全文現代語訳です。
わが国にもたらされた現存唯一の伝本、五山版『五味禅』廓庵和尚十牛図一巻(国会図書館)を底本としました。

〝悟り〟というと、現代人である私たちにとって、何か縁遠く、神秘的なもののように思われます。しかし、それは本来の自己を見つけ、わが心の内に確認することと分かち難く結びついているのです。

自分を見つけること―。

言うは易し、行なうは難し。このことは一見至極簡単なように思えますが、「これが本当の自分だ」と自分自身明確に指し示し、人に断言することができるでしょうか。
一般人はもとより、禅寺で修行するお坊さんたちにとっても、これは大難題。中国で、日本で、古来何百万人、何千万人もの修行僧が、公案問答をし、座禅を組み、額に脂汗をにじませ、悩み、苦しみ、追い求めてきました。

『十牛図』は、一匹の牛を〝見失ってしまった本来の自己〟になぞらえています。牧人が、牛を尋ね、探し当て、その手に捕らえることによって、悟りへと導かれていく様を十枚の絵と短い詩文であらわしたもの。
誰にでもたやすく、目で見て直観し、悟りを開くことのできるイメージトレーニングツールとして創作されました。

悟りを開くことは、禅宗徒でもない私たちにとって日常的にどうしても必要とはいえないかもしれません。
しかし十牛図では、牧人が牛をわがものとするその過程において、人間として一生涯成長していくことをまず教えたものなのです。さらに、自分はなぜ成長しなければならないのか、成長の果てにどうなるのか、何をすべきか、そしてそもそも人は何のために生まれ、存在しているのか…。
その答を探すための、自分探しの成長マニュアル本としての性格もあわせもった作品といえましょう。

それゆえ、『十牛図』は鎌倉以降、禅宗僧侶をはじめ、武士や貴人、芸術家や庶人などにも広く受け入れられ、周文の作品を代表とする日本画の画題としても好んで取り上げられるようになります。

『論語』為政第二の「子曰く、われ十有五にして学に志す、三十にして立つ」、『風姿花伝』の年来稽古條々、『山上宗二記』の又十体「茶湯の仕様、十五から三十までは万事坊主に任せる。三十から四十までは我が分別を出し」など、わが国では各分野で、心の成長をたどる指標が考案され、伝えられてきました。

何かを目指している、何かを獲得したい、と一度も考えたことのない人はごく少数ではないでしょうか。その何かを見つけ、そこにたどり着く過程の、いったいどのあたりに自分は今いるのか。次のステップは何か、あるいは今後どんな展開が待ち受けているのか。
実年齢に関係なく、自分の現在の成長段階を『十牛図』でイメージすれば、今後の長い道のりを歩いていく上で、またとない〝旅の手引き〟になるのかもしれません。


※電子ブック本文は、以下のリンクよりご覧になれます。

◆現代語訳『十牛図』(PDF形式) 廓庵師遠著 水野聡訳
(2014年4月29日 能文社)
http://nobunsha.jp/img/juugyuuzu%20denshibook.pdf