茶の湯が禅宗によるということは、紫野の一休禅師よりはじまった。南都称名寺の珠光は一休禅師の法弟である。日々茶の湯に精進していたが、一休これを見て
「茶は仏道の妙所に叶うものである」
と、点茶に禅の心を移し、自己の本性を観じるための茶道が成ったのである。
それゆえ茶事の行い、用法すべて禅の修業と変わるところはない。「無賓主の茶」「体と用」「露地」「数奇」「侘び」などをはじめとして、その他すべて茶の湯の用語は禅語から出ているのだ。詳細は後段を参照されたし。たとえば、ある詩句に「茶味と禅味をあわせ知る」とあるが、まこと格言とはいえよう。すなわち奇貨珍宝を愛し、酒食の美を尽くし、あるいは結構に茶室を造作し、庭の樹石を玩んで遊宴のしつらえとすることなどは、茶道の本意に背くもの。ただひとえに禅茶に没し、修行してこそ、この道の本懐たりえるのだ。
『禅茶録 現代語訳』寂庵宗澤著、水野聡訳 能文社 2010.12
〔茶禅一味〕思想の代表書とされる、『禅茶録』。上は、2009年言の葉庵最新翻訳版の一部を抜粋しました。
茶禅一味、剣禅一如、俳禅一致…。中世に創始、または大成された日本文化・芸道の多くが、その芸道精神の根本を禅によっていることは、日本文化史上周知のことです。とりわけ桃山時代、千利休によって大成された茶道、侘び茶は、禅抜きでは成立しえないほど、深く禅道に多くを恃んでいる。いや、それはむしろほとんど禅そのものといっても過言ではないほど、茶の湯発生の創成期より、禅とは深く密接な関係にあります。これを言い表した言葉が、〔茶禅一味〕。
『禅茶録』は 1828年(文政11年)に寂庵宗澤(略歴不詳。大徳寺系の僧と推測される)が、『茶禅同一味』という書を補足編集して著したものといわれます。
『茶禅同一味』は 千利休の孫であり、また侘び茶人として名高い千宗旦の遺書といわれるもの。〔茶禅一味〕つまり「茶道と禅道の真髄は同じ」という茶の湯の精神を説いています。『禅茶録』は、民藝運動の父・柳宗悦をして「すべての茶人の座右に置くべき名著」と言わしめたという茶書です。
『禅茶録』は次の十章からなります。
1.茶事は禅道を宗とする事
2.茶事修行の事
3.茶の意の事
4.禅茶器の事
5.佗の事
6.茶事変化の事
7.数奇の事
8.露地の事
9.体用の事
10.無賓主の茶の事
宗旦『茶禅同一味』と、上の1.2.3.4.8.の各章がほぼ同内容です。
■茶禅一味とは
茶道と禅宗では、その修行の形態や目的は異なるが、その根本は別物ではなく、人間形成の道という面から見れば、両者は不二一如である、とする説。
■茶禅一味の根拠
1.茶道は、禅院茶礼に源を発する。
2.茶道成立以前の喫茶習慣に、禅院茶礼の反映が見られる。
3.茶人は禅宗徒である。
4.主な茶書は「茶禅一味」を主張する。
5.茶道において、禅師の墨蹟が悟入の具として重用される。
「禅と日本文化 その一味性の根拠」金子和弘 昭和63年
■茶人と禅宗(大徳寺)
茶道は鎌倉時代、栄西による茶種の輸入にはじまり、室町時代に村田珠光が、一休宗純に参禅して体得した禅の精神を持って、それまでの喫茶と禅院茶礼の諸方式を統合したものです。
珠光以降、武野紹鴎、北向道陳、今井宗久、津田宗及、千利休等、各時代の代表的な茶匠は、臨済宗大徳寺歴代住持に帰依し、参禅しています。
■茶書に見る茶禅一味
室町より各時代の代表的茶書には、主要部分に必ず「茶禅一味」の思想が見られます。そもそも「茶禅一味」の言葉は、大林宗套の武野紹鴎画賛にまずられ、以降、『山上宗二記』『南方録』『茶話指月集』等、各時代の茶書に茶人の言葉として頻出。徐々にその内容、精神が深められていきます。そして江戸後期、『禅茶録』により、「茶禅一味」思想はその究極の形へと純粋化され・完成されるのです。以下、時代に沿って茶書から「茶禅一味」の文言を集めてみました。
【室町時代】
・武野紹鴎
「料知す。茶味と禅味同じなること。松風を吸い尽くして、こころいまだ汚れず」
(紹鴎画への大林宗套の賛)
【安土桃山時代】
・千利休
「すべて茶湯風体は禅也」
「茶湯は禅宗より出でたるによって、僧の行を専らにする也。珠光紹鴎みな禅宗也」
「道陳、宗易は禅法を眼とす」
(山上宗二記)
「小座敷の茶の湯は第一仏法を以って修行得道する事也」
(南方録)
【江戸時代】
・千宗旦
「茶道は本来禅によるがゆえに禅と同じく言語道断であり、さらに示すべき道もない」
(茶話指月集)
「茶意は即ち禅意也。故に禅意をおきて外に茶意なく、禅味を知らざれば茶味も知られず」
(禅茶録)
↓
茶禅一味思想の確立
・以下に『禅茶録 現代語訳』2009能文社版を公開します。1.茶事は禅道を宗とする事 2.茶事修行の事 3.茶の意の事 4.禅茶器の事 5.佗の事の前半五章の本文、全文をお読みいただけます。なおPDF公開は、言の葉庵読者のみ、2010年1月7日までの期間限定となります。書籍版の発行予定は後日改めてお知らせいたします。
『禅茶録 現代語訳』能文社版2009.12 (底本 茶道古典全集第十巻 淡交社)
http://nobunsha.jp/img/zencharoku%20gendaigo.pdf
※当書の無断引用と転載は著作権法により禁じられています。
「茶は仏道の妙所に叶うものである」
と、点茶に禅の心を移し、自己の本性を観じるための茶道が成ったのである。
それゆえ茶事の行い、用法すべて禅の修業と変わるところはない。「無賓主の茶」「体と用」「露地」「数奇」「侘び」などをはじめとして、その他すべて茶の湯の用語は禅語から出ているのだ。詳細は後段を参照されたし。たとえば、ある詩句に「茶味と禅味をあわせ知る」とあるが、まこと格言とはいえよう。すなわち奇貨珍宝を愛し、酒食の美を尽くし、あるいは結構に茶室を造作し、庭の樹石を玩んで遊宴のしつらえとすることなどは、茶道の本意に背くもの。ただひとえに禅茶に没し、修行してこそ、この道の本懐たりえるのだ。
『禅茶録 現代語訳』寂庵宗澤著、水野聡訳 能文社 2010.12
〔茶禅一味〕思想の代表書とされる、『禅茶録』。上は、2009年言の葉庵最新翻訳版の一部を抜粋しました。
茶禅一味、剣禅一如、俳禅一致…。中世に創始、または大成された日本文化・芸道の多くが、その芸道精神の根本を禅によっていることは、日本文化史上周知のことです。とりわけ桃山時代、千利休によって大成された茶道、侘び茶は、禅抜きでは成立しえないほど、深く禅道に多くを恃んでいる。いや、それはむしろほとんど禅そのものといっても過言ではないほど、茶の湯発生の創成期より、禅とは深く密接な関係にあります。これを言い表した言葉が、〔茶禅一味〕。
『禅茶録』は 1828年(文政11年)に寂庵宗澤(略歴不詳。大徳寺系の僧と推測される)が、『茶禅同一味』という書を補足編集して著したものといわれます。
『茶禅同一味』は 千利休の孫であり、また侘び茶人として名高い千宗旦の遺書といわれるもの。〔茶禅一味〕つまり「茶道と禅道の真髄は同じ」という茶の湯の精神を説いています。『禅茶録』は、民藝運動の父・柳宗悦をして「すべての茶人の座右に置くべき名著」と言わしめたという茶書です。
『禅茶録』は次の十章からなります。
1.茶事は禅道を宗とする事
2.茶事修行の事
3.茶の意の事
4.禅茶器の事
5.佗の事
6.茶事変化の事
7.数奇の事
8.露地の事
9.体用の事
10.無賓主の茶の事
宗旦『茶禅同一味』と、上の1.2.3.4.8.の各章がほぼ同内容です。
■茶禅一味とは
茶道と禅宗では、その修行の形態や目的は異なるが、その根本は別物ではなく、人間形成の道という面から見れば、両者は不二一如である、とする説。
■茶禅一味の根拠
1.茶道は、禅院茶礼に源を発する。
2.茶道成立以前の喫茶習慣に、禅院茶礼の反映が見られる。
3.茶人は禅宗徒である。
4.主な茶書は「茶禅一味」を主張する。
5.茶道において、禅師の墨蹟が悟入の具として重用される。
「禅と日本文化 その一味性の根拠」金子和弘 昭和63年
■茶人と禅宗(大徳寺)
茶道は鎌倉時代、栄西による茶種の輸入にはじまり、室町時代に村田珠光が、一休宗純に参禅して体得した禅の精神を持って、それまでの喫茶と禅院茶礼の諸方式を統合したものです。
珠光以降、武野紹鴎、北向道陳、今井宗久、津田宗及、千利休等、各時代の代表的な茶匠は、臨済宗大徳寺歴代住持に帰依し、参禅しています。
■茶書に見る茶禅一味
室町より各時代の代表的茶書には、主要部分に必ず「茶禅一味」の思想が見られます。そもそも「茶禅一味」の言葉は、大林宗套の武野紹鴎画賛にまずられ、以降、『山上宗二記』『南方録』『茶話指月集』等、各時代の茶書に茶人の言葉として頻出。徐々にその内容、精神が深められていきます。そして江戸後期、『禅茶録』により、「茶禅一味」思想はその究極の形へと純粋化され・完成されるのです。以下、時代に沿って茶書から「茶禅一味」の文言を集めてみました。
【室町時代】
・武野紹鴎
「料知す。茶味と禅味同じなること。松風を吸い尽くして、こころいまだ汚れず」
(紹鴎画への大林宗套の賛)
【安土桃山時代】
・千利休
「すべて茶湯風体は禅也」
「茶湯は禅宗より出でたるによって、僧の行を専らにする也。珠光紹鴎みな禅宗也」
「道陳、宗易は禅法を眼とす」
(山上宗二記)
「小座敷の茶の湯は第一仏法を以って修行得道する事也」
(南方録)
【江戸時代】
・千宗旦
「茶道は本来禅によるがゆえに禅と同じく言語道断であり、さらに示すべき道もない」
(茶話指月集)
「茶意は即ち禅意也。故に禅意をおきて外に茶意なく、禅味を知らざれば茶味も知られず」
(禅茶録)
↓
茶禅一味思想の確立
・以下に『禅茶録 現代語訳』2009能文社版を公開します。1.茶事は禅道を宗とする事 2.茶事修行の事 3.茶の意の事 4.禅茶器の事 5.佗の事の前半五章の本文、全文をお読みいただけます。なおPDF公開は、言の葉庵読者のみ、2010年1月7日までの期間限定となります。書籍版の発行予定は後日改めてお知らせいたします。
『禅茶録 現代語訳』能文社版2009.12 (底本 茶道古典全集第十巻 淡交社)
http://nobunsha.jp/img/zencharoku%20gendaigo.pdf
※当書の無断引用と転載は著作権法により禁じられています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます