自分の親父が小学校の時、学校で先生が植物の育成を学ばさせる為に小さなうちわサボテンのピースを生徒達に配った。児童達は各自小さな容器にそのサボテンを植えて教室の中でサボテンが成長するのを観察し続けたそうだ。やがて、そのサボテンは土に根付きミッキーマウスの耳の様に増殖をはじめ、その先に小さな花を咲かせた。その現象にえらく感動した親父の人生はその後植物にはまってしまった。3度の飯よりも植物が好き、仕事よりもそっち、という完全な趣味人、趣味人生が続いた。
セドナの岩場を歩くと足元にはうちわサボテンの群集が幅を利かせ、頭上には Ocotillo と呼ばれる砂漠の植物が美しいオレンジ色の花を咲かせ、その長い茎の揺れを風の気分にまかしている。親父の植物趣味が実際に花を咲かせたのは定年と呼ばれる年を大きく過ぎてからである。人は何か好きになる、夢中になる対象があると活き活きしているものだという事を背中で教えてくれた。時々、野に咲く花を観ると変わり者であった親父の世界が、花に秘められた言葉というものでは表現不可能な宇宙への関心で有った事を感じる。親父のうちわサボテンはその後も繁殖を継続し続け現在ではこのセドナに茂る群集の様になり実家の庭の一角を占領している。