■宇宙戦艦ヤマト2199の二次創作小説です。
このお話には「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」のネタバレとノーマルカップリング要素を含んでます。
閲覧はくれぐれもご注意下さい。
「お客さん、こんなところで降ろしていいんですか?」
タクシーの運転手が怪訝そうに尋ねる。
「いいのよ、ここに用があるんだから」
そう言って若い女性はタクシーを降りた。ガミラス軍の軍服をまとい、胸には授与されたばかりの勲章が輝いていた。
彼女の名はネレディア・リッケ。ガミラス軍第8警務艦隊の元指揮官である。
なぜ「元」なのかといえば第8警務艦隊は数週間前小マゼラン銀河近傍の銀河間空間においてかねてより度々ガミラス領を脅かしていたガトランティス軍と交戦、艦隊の半数以上の艦を失い旗艦としてネレディアが乗艦していたゲルバデス級航宙戦闘母艦もミランガルも大破。
艦隊が事実上解散した状態になっていたのだ。
ネレディアは大損害を出したもののガトランティス軍の主力艦隊を撃滅したことと漂流していた味方残存艦(ガイペロン級多層式航宙母艦ランベア)救出の功績を認められ、ヒス副総統から勲章を授与されたその帰りだった。
元々彼女は受勲には否定的だった。ガトランティスとの戦闘において彼女自身は戦闘指揮にあたっておらず、別の人物がミランガルに座乗し指揮を執っていた為に彼こそが受勲に相応しいと考えていたものの当の本人が頑なに拒否。
代わりに自分が受け取ることになったこの勲章を見せびらかしてやろうと彼が入院(ガトランティスとの戦闘で負傷し一ヶ月程の入院を言い渡されていた)している病院を訪ねたのだが、彼の姿が病室にない。
そこで、彼が立ち寄りそうなこの場所にやってきたのだ。
<いつ来ても殺風景ね>
ネレディアがそう思いながら見渡す視線の先には無数の墓標。人の気配はほとんどなく、空は今にも雨が降り出しそうな雲行きだった。ここはガミラスの首都バレラス近郊の軍人墓地。
ガミラス軍の軍人やその家族が眠るその場所は同じ軍人の道を歩み戦死したネレディアの妹メリア・リッケの眠る地でもあった。
<恐らく彼もそこにいる>
そう確信したネレディアは妹の墓へ向かった。そして彼女の読み通り、一人の男がメリアの墓の前に立っていた。
「やっぱりここにいたのね、フォムト」
そうネレディアに声を掛けられ振り返ったのはガミラス軍元第6空間機甲師団幕僚のフォムト・バーガーだった。
「よう、ネレディ。お前も来たのか」
「よう、じゃないわよ。まだ動き回るなってドクターに言われたの忘れたの?」
「なに、こんな傷・・・っ!」
『大したことないさ』と身体を動かそうとしたバーガーだったが傷の痛みで言葉に詰まった。ガトランティス軍との戦いで受けた傷がまだ治り切っておらず包帯だらけのバーガー。
「バカね、無理するからよ」
そういいながら妹の墓に目をやったネレディアは真新しい弔いの花束をそこに見つけた。
「これ、フォムトが持ってきたの?」
「あ、ああ」
「ありがとうフォムト」
最近は任務に追われ妹の墓参りも出来ていなかった事を思い、ネレディアはフォムトに感謝の言葉を掛けた。
「なに、最近会いに来れてなかったからさ」
そういうバーガーの声は悲しげでもあった。バーガーとメリアはかつて恋人同志の関係だった。しかし同じ赴任先でガトランティスの強襲を受け彼の目の前でメリアが戦死。
メリアを助けられなかった負い目から彼女の墓を訪れる機会がなくなり、バーガーにとってはしばらくぶりの墓参だった。
「メリアと何を話したの?」
ネレディアが尋ねる。
「また生き延びてそっちに行けなくなった詫びをな。それともう1人のメリアに会えた事をな」
もう1人のメリア。ガトランティス軍との戦闘の真っ只中に「メリアに会えた」とバーガーが語った時、ネレディアは意味が分からず混乱した。
そして戦闘後にガミラス軍と共闘したテロン(地球)の宇宙戦艦ヤマトを訪れた時、ネレディアはバーガーが言った言葉の意味をようやく理解出来た。
ヤマトの乗組員に妹と瓜二つの女性、桐生美影がいたのだ。
ネレディアは後になって知ったのだが、バーガー達が謎の惑星「シャンブロウ」に調査に向かった際に記憶を操作され、すでに滅びたと思われていたジレル人の1人ラーレライがネレディアに化けて同行していたのが偽ネレディアが妹そっくりの桐生の姿を見ても何の反応も示さなかった事が偽者の存在を気づかせる手掛かりになっていたのだ。
妹と瓜二つのテロン人の存在はネレディアを心底驚かせた。そしてネレディアにはもう一つ驚いた事があった。バーガーの様子がすっかり変わったのだ。
元々バーガーは気性が荒い方ではあったがメリアを失ってからはさらにとげとげしい性格になり、漂流中だったランベアで再会した時にばドメル将軍や同僚の命を奪ったヤマトへの復讐心でさらに荒んだように見受けられたのだ。
それがシャンブロウから帰還後にはヤマトと共闘するという考えもしなかった行動に出た上に今までのとげとげしさがすっかりなくなっていたのだ。
ネレディアはバーガーにあの惑星で何があったか詳しくは聞こうとしなかった。同行していたヴァンス・バーレンからジレル人の手によってヤマトの乗組員達をザルツ人だと思い込まされ7日間(実際には半日程度しか時間が経過していなかった)の共同生活を送ったとは聞いていたが、バーガーとヤマトの乗組員達、そして桐生美影とどのようなやり取りをしたかはあえて聞こうと思わなかった。
ただただバーガーがテロン人への闇雲な怒りを捨てかつての彼がが戻って来てくれた事がネレディアには嬉しかったのだ。
「本当に妹にそっくりだったわね、あの桐生美影という娘さん」
「ああ、世の中不思議なものがあるもんだな」
そこまで言ってバーガーはネレディアの胸の勲章に気づいた。
「そういや今日が授与式だったんだな、その胸の勲章」
「これ、本当なら貴方が貰うべきものなのよ」
「よせよ、俺はそういうガラじゃないんだ」
「私だって、ヒス副総統だけじゃなくユリーシャ様までいる中で勲章を戴くなんて緊張しちゃって」
そうネレディアがグチる。遥か16万8千光年彼方のテロンから宇宙戦艦ヤマトの来訪はガミラスに途方もない変化をもたらした。
それまで大ガミラス帝星を治めていた総統アベルト・デスラーがヤマト来訪を口実に首都バレラスと大ガミラス帝星を滅ぼさんとし自滅。
総統の暴挙にガミラス国民が動揺する中、それまで崇拝の対象であったイスカンダルから第三皇女ユリーシャ・イスカンダルを国民の象徴としてガミラスに迎え、ルドフ・ヘス副総統の元で新たなガミラスが動き始めていた。
そんな中での叙勲という事で流石のネレディアもユリーシャを前に緊張が避けられなかったのだった。
「ネレディが緊張するとはね」
バーガーが苦笑いする。
「怒るわよフォムト」
そんなバーガーに少なからず不機嫌になるネレディア。
「わりぃ」
と頭を下げるバーガー。
「まったく、今回ばかりは妹の前だから大目に見てあげるわ」
そこまで言ってネレディアは話を切り替えた。
「そうだわフォムト。授与式の時に話が出たんだけど、私近く現場に復帰するわよ」
「そいつはいいじゃないか」
「今のガミラスは猫の手も借りたい状況なのよ。休暇もそろそろ終わりね」
ヤマトとの戦いでそれまでガミラスの支配を支えていた超空間ネットワーク(ゲシュタムの門)が大打撃を受け、大ガミラス主義の撤廃、ガトランティス軍への対応などガミラス軍の動向はこれまで以上に活発になっていた。
有能な将兵を遊ばせておく理由は今のガミラスにはなかった。
「そういうわけだからフォムト、貴方にも頑張って貰うわよ」
「へいへい」
ネレディアの言葉を軽く受け流すバーガーの頬を冷たいものが打つ。とうとう雨が降ってきたのだ。
「ほらフォムト、そんな格好じゃ風邪引くわよ。病院まで送るわ」
「ありがとうな」
迎えの車で病院に戻ったあと担当医にこっぴどく怒られるバーガーだった。
ー三ヶ月後ー
すっかり傷の癒えたバーガーの元に辞令が届いた。
中佐への昇進と新たに編成される小マゼラン方面警務艦隊旗艦への赴任。
ガトランティス相手にまた戦える
そんな思いを胸にガミラス軍のドッグに到着したバーガーを待っていたのは思いがけない艦だった。
「なんだいこりゃ」
思わず声をあげるバーガー。一見するとガミラス軍でおなじみのガイペロン級多層式航宙母艦なのだが、最下層と第三層の飛行甲板が潰され、三連装陽電子カノン砲の砲台や密閉式格納庫が設置されもはや別物になっていたのだ。
そして何よりも驚かされたのがその色だった。かつて乗艦し大破したネレディアの乗艦ミランガルと同じ赤・白・黒の3色迷彩塗装だったのだ。
「どう?私のミランガルII世は?」
聞き覚えのある声にハッとなりバーガーが振り向くとそこにネレディアの姿があった。
「私の、ってこれがネレディの新しい乗艦なのか?」
「そうよ、それに貴方もこの艦の事は良く知ってるはずよ?」
「?」
「ランベアよ」
「なんだって?俺が乗っていたランベアがこのミランガルII世だっていうのか?」
「まだ使える艦を遊ばせておくほどガミラスに余裕がないのよ。それに二度も激闘を生き残った艦を上が気に入ったみたいね」
「これがあのランベアとはねぇ」
ヤマトとの戦いで半ば捨て駒的に充てがわれた旧式空母だったが戦いを共に生き延びたランベアをバーガーは気に入っていたが、旧式艦であるが故にすでに一線から退いたとばかり思っていた為、思いがけない再会となった。
「それにミランガルII世はあなたの艦でもあるのよ」
「な、なんだって!?」
「あら?聞いてなかったの?貴方はミランガルII世旗艦の新第8警務艦隊への配属、このミランガルII世の艦長なのよ」
「ネレディ、ちょっと待て。新編成の警務艦隊への配属は聞いていたがお前の指揮する艦隊だなんて初耳だぞ」
「嫌なの?」
「ち、違う!」
「それにメリアの墓で聞いたわよね?『貴方にも頑張って貰うわよ』って。あの時あなた『へいへい』って答えたわよね?妹の前でウソをついたの?」
「!!」
流石のバーガーもかつての恋人の名をその実の姉から出されては黙るしかなかった。実のところ妹を死なせた負い目から姉のネレディアを避けていたバーガーだったが、桐生美影らヤマト乗組員との出会いでその負い目も今は和らいでいた。
「そうとなれば今日からびっしり頑張って貰うわよ、バーガー艦長どの」
ネレディアがお決まりのガミラス式敬礼でバーガーに敬意を示す。
「ざ、ザーベルク」
どこかばつが悪そうに敬礼を返すバーガー。
<なぁメリア、俺とお前のお姉さんを天国から見守ってくれるか?>
心の中でつぶやくバーガー。その言葉にメリアが嬉しそうに微笑んむ、そんな姿がバーガーの脳裏に浮かんだ。
End
■先日、宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟を観てバーガーと新キャラのネレディアのカップリングが気に入ってしまい久方ぶりに二次創作小説を書いてみました。
ランベアのくだりとか妄想全開ですが二度に渡る激戦を生き残った幸運艦に頑張って欲しいという思いもありました。
ラブラブはメリアの存在もあって難しいかなぁと思い、このようなお話になりましたが、少しでも気に入って貰えれば幸いです。
1/1000 ガイペロン級多層式航宙母艦「ランベア」 (宇宙戦艦ヤマト2199) | |
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