【はじめに】本稿は、松風散史編『千葉繁昌記』(明治28年)の「千葉地方裁判所、千葉区裁判所」の項を現代語訳したものです。記述の大半は裁判所の権限についてですが、これは裁判所構成法をそのまま述べたものであり、あまり面白いものではありません
裁判所は千葉町吾妻町三丁目にあるとされています。おそらく現在(千葉市中央区中央4丁目)と変わらない位置だったと思われます。
「庁舎は昨年新築されたもので、法廷や会議室、事務室ともに立派で、関東でも一番と評されている。」等の記載や職員の名前が記載されており、後に大審院長となった横田秀雄の名が見えます。
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○千葉地方裁判所
○千葉区裁判所
地方裁判所は千葉町吾妻町三丁目にあり、区裁判所は同じ敷地内にあって、庁舎は互いに連絡している。昨年新築されたもので、法廷や会議室、事務室ともに立派で、関東でも一番と評されている。
・地方裁判所の権限
【民事事件】
1 「第一審」として、区裁判所の権限や裁判所構成法第38条に定められた控訴院の権限に属するものを除き、その他の請求を扱う。
2 「第二審」として、
(イ)区裁判所の判決に対する控訴
(ロ)区裁判所の決定および命令に対する法律に定めのある抗告
【刑事事件】
1「第一審」として、区裁判所の権限や大審院の特別権限に属さない刑事訴訟
2「第二審」として、
(イ)区裁判所の判決に対する控訴
(ロ)区裁判所の決定および命令に対する法律に定めのある抗告
・区裁判所の権限
【民事事件】
1 100円を超えない金額または価値100円を超えない物に関する請求
2 価格に関係なく、
(イ)住居やその他の建物の受け取り、明渡等(ロ)不動産の境界に関する訴訟
(ハ)占有のみに関する訴訟など
【非訟事件】
1 後見人や管財人の監督
2 不動産や船舶に関する権利関係の登記
3 商業登記や特許局に登録された特許、意匠および商標の登記
【刑事事件】
1 違警罪
2 本刑50円以下の罰金を付加し若しくは付加せざる2月以下の禁錮、または100円以下の罰金に該当する軽罪
3 刑法第2編第1章を除く軽罪で、罰金200円以下または禁錮2年以下に該当する軽罪または300円以下の罰金に該当し、その情状が2に掲げた刑より更に重い刑 に処することを要しないと認め地方裁判所若くはその支部の検事局より区裁判所に移付したるもの等
このように千葉町は人事百般の裁決を下す所であり、弁護士や代書人、訴訟当事者が多く住み、また行き来するため、町の繁栄にも寄与している。
千葉町の裁判所の沿革
明治6年6月に印旛裁判所と木更津裁判所の二ヶ所が合併して千葉裁判所が設置される。
明治9年10月にその名称が廃されて東京裁判所千葉支庁と改められ、この時に千葉区裁判所が設置される。
明治15年1月には東京裁判所千葉支庁が廃止され、千葉県始審軽罪裁判所に改称され、千葉区裁判所は千葉治安裁判所に改められた。
明治22年11月、裁判所構成法の施行により、千葉地方裁判所と千葉区裁判所に改められた。
明治27年9月5日時点の職員は次の通りである。
従六位 所長判事 渡辺 暢
正七位勲六等判事 宮地美成
正七位判事 坂口直
従七位判事太田拡
従七位判事 大熊米太郎
正八位判事 平野正富
正八位判事 上松操
監督書記 大野秀之
書記(略)
検事局職員
正六位勲六等 検事正検事 大井治義
従七位検事 諸岡良位
監督書記内田有方
書記(略)
千葉区裁判所職員
監督判事 中岡藹
従七位判事 高橋良之輔
従七位 検事渡辺助治郎
司法官試補 検事代理藤波元雄
監督書記 芝沼明
書記(略)
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