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徒罪について・仮刑律的例 46

2024年10月31日 | 仮刑律的例
徒罪について・仮刑律的例 46
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(要旨)
・徒罪の年限は1年、1年半、2年とされたい。
・窃盗50両以上100両未満は徒罪
・徒罪を受けている者の拘束の方法や恥ずかしめを与える方法は各藩の裁量に任せる
・女性も徒罪を科すことができる

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【鳥取藩からの伺い】
明治2年3月6日、 鳥取藩からの伺い

先般、刑律御改正がありましたが、次の点についてお伺い致します。
【伺①】どのような罪状の場合に徒罪を言渡したらよいでしょうか。

【返答】
徒罪の年限は1年、1年半、2年とされたい。また、その他の犯罪は、以下を参考にしてして決めていただきたい。
火附・強盗人ヲ殺ス者⇒梟首
強盗・百両以上窃盗・強奸⇒刎首
窃盗五十両以上⇒徒罪
同二十両以上⇒笞 百
同一両以上⇒笞 五十
同一両以下⇒笞 二十

(コメント)
鳥取藩からの徒罪についての一般的な問合せです。徒罪は現代の懲役刑に相当すると説明されることが多いのですが、この伺いを見ていくと、現代とは様々な相違点があることに気がつきます。
【伺①】は、どのような罪状の場合に徒罪を言渡したらよいかというものです。明治政府が明確に示したのは、窃盗50両以上100両未満の場合は徒罪ということだけで、その他の犯罪は、示したものを参考にしてして決めよという、ほぼ丸投げ状態です。


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【伺②】
一 徒罪を執行したときに、首に鐶(かせ)をかけたり、斬髪をしてもよいでしょうか。なお、これは、古髠鉗(こりょうかん)と呼ばれる刑罰によるものです。鐶(かせ)は銅・鉄・真鍮等で作るということでよいでしょうか、またその製法があればお教え下さい。
一 斬髪というのは、髻(もとどり)から斬るという方法だけでよいでしょうか。剃下げや惣髪にすることはいけないということにして良いでしょうか。

【返答】
徒罪を受けている者の拘束の方法や恥ずかしめを与える方法については、現時点では取決めがないので、各藩の裁量で取り扱うこととしてよい。

(コメント)
【伺②】は、徒罪を受けている者の拘束の方法や恥ずかしめを与える方法についてです。懲役刑は、刑務所に収容して自由を奪い、労務作業(木工、印刷、洋裁など) を義務づけるものですが、その他の「恥ずかしめを与える方法」等は想定されておりません。しかし、鳥取藩は首に鐶(かせ)をかけたり、斬髪をするという方法で、徒罪に服していることを明らかにしておきたかったようです。明治政府は、現時点では取決めがないので、各藩の裁量で取り扱うこととしてよいと、鳥取藩の自由裁量を認めています。

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【伺③】
一、婦人も徒罪に処して良いでしょうか。

【返答】
良い。なお、婦人徒罪における苦役方法は、各藩の独自の裁量で取り扱ってよい。

(コメント)
女性に対して徒罪(徒刑)を科してよいとの明治政府の考えは、「仮刑律的例24」(京都府からの明治元年12月26日付け伺い)により明らかになっています。
https://blog.goo.ne.jp/lodaichi/e/133cb0047bf2f05e8879cae5ff01a305
仮刑律的例24では笞刑を女性に科すことは相当ではないので、徒刑でよいかとの伺いに対して、明治政府がこれを是認し、女性の徒刑は、場所を区別して行うのが最も良いこと、徒刑の場所を整備する迄は、過怠牢舎で代替してもよいことという返答がなされています。

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【伺④】
一、流罪に処するのはどのような犯罪の場合でしょうか。

【返答】
流罪は、死罪よりも軽く、徒罪よりも重い犯罪に対して科される刑罰である。

(コメント)
明治初年にはまだ流罪(流刑)が残っていました。新しく徒罪(徒刑)が導入されたため、鳥取藩としてはどのような場合に流罪を適用したら良いのか迷っていたようです。
明治政府の返答は、徒罪〈流罪〈死罪 という関係を示した素っ気ないもので、これだけでは鳥取藩も困ったことでしょう。仮刑律的例23では、「流刑にすべき者:追放刑にしたのに追放場所から戻った者、女犯の僧、15歳以下で死罪にあたる罪を犯した者。それ以外は一つ一つ答えることはできない。」との考えを明治政府は示しているのですが、鳥取藩にはこの返答を示しておらず、明治政府内でも明確な方針が打ち出せていなかったようです。
なお、他の仮刑律的例での流罪事例は次のとおりです。
・高額窃盗事案(被害額100両超)であり、本来死罪とすべきところ、大赦があったことを理由として流罪7年とした事例(仮刑律的例 17、度会藩)
・兵庫県の判事の下男が、2名の者に脇差しで切り付け、一名を死亡させ、一名に重傷を負わせたことにつき、流罪としたもの(仮刑律的例 27、兵庫県)


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