読書の秋というわけではないのですが、本の話をしましょう。F1を題材にした小説というのも多く出版されていますね。有名、無名問わず、また完全なフィクションだったり、チーム、ドライバーが実名で出てきたりするものもあります。なかなか紹介されることがないものも含めて、私のお気に入りをいくつか。
「No.13 魔のレッドゾーン(ケン・ヴォース著)」は光文社文庫から日本語訳が出ておりました。なかなか設定が面白く、1989年にターボエンジンが禁止されて3.5リッター自然吸気エンジンに統一された際に多く誕生した弱小新興チームが舞台となっており、主人公が失踪した父の謎を追いかけながらシーズンが展開する、という小説です。ミステリーとしてはごく普通の作品ですが、チームの雰囲気、パドックやピットの様子などは丁寧に描かれていて、F1を舞台とした小説としてはリアルさがあってよくできており、主人公とチームに感情移入することができました。実際に1989年の新NA規定では様々なチームが誕生しており、残念ながら「一発屋」にもなれずに消えてしまったチームもありました。この小説の舞台となったチームと主人公がその後どうなったのか、残念ながら邦訳はないようですが、続編を読みたくなりました。
海外ものではボブ・ジャッドという作家が90年代にF1関連の小説をいくつか発表し、日本語訳も出ていますが、70年代に「あの」アリステア・マクリーンも「歪んだサーキット」というF1を舞台にした小説を書いています。「ナバロンの要塞」、「女王陛下のユリシーズ号」といった名作(私も大好きです)を残した作者の手による小説ですが、ひと昔前あたりにテレビ東京の「二時のロードショー」で放映してそうなミステリー・スリラー映画のような小説でした。
日本でもF1ブーム以前から小説の舞台に使われたり、さまざまな作品が生まれていますが、私のお気に入りは「紺碧海岸(松本隆著)」です。著者は伝説のバンド「はっぴいえんど」のメンバーとして、また作詞家として多くの作品を生んでおり、説明の必要もありませんが、ちょうど1990年頃には「没落貴族のような生活」をしており、指揮者のチェリビダッケとF1のセナの追っかけをしていた、と何かのインタビューで読んだ記憶があります。
この本は1990年モナコから1992年南アまでの8つのレース、そして1994年の大晦日のパリが舞台となる短編集です。それぞれの主人公はセナのファンで、サーキットで、テレビ画面の前でセナを応援しています。しかもみなセナのような天才でもなく、どこか生きにくいものを抱えていたり、欠点を持ったりしている人間たちです。
各編とも実際のレースが舞台になっており、私もテレビで見て覚えているシーンが出てきますが、サーキットの内外の出来事の中には著者本人の経験がかなり反映されているのではないかという場面も出てきます。私もこの中でも特に好きな一編「永遠の一瞬、一瞬の永遠」にインスピレーションを受け、フジミ1/24のポルシェ911とタミヤ1/24のホンダNSXを作って並べました。なぜこの二台なのかは本書をお読みいただければわかるかと思います。この時代のF1をリアルタイムで見知っている方なら、それがたとえテレビ観戦だけであっても共感できるものがたくさんあるのではと思います。
以前、本書を手にして鈴鹿サーキットを訪れ、スタンドでこの本を読んだことがあります。自己満足といえばそれまでですが、やってみたかったのです。
他にも実際のレースが登場するものですと「百万ドルの幻聴(メロディ)(斎藤純著)」もあります。こちらは音楽が縦糸に、F1が横糸に織り成すミステリーです。やはりセナが走っていた頃のF1が舞台となっています。
実際のレースの場面はほとんど出てきませんが「帰郷(海老沢泰久著)」も印象深い作品です。作者はこの作品で直木賞を受賞しています。主人公はホンダの工場の組立工からメカニックとしてグランプリを転戦し、刺激的な、そして忘れられない日々を送りますが、再び工場に戻ると・・・という小説です。作者は80年代の第二期参戦期にホンダチームに密着し、桜井淑敏監督の傍らで取材を続けていたことから、他のチームから「彼はホンダチームのナンバー2か?」と誤解されたほどだったそうです。そのときの取材は「F1地上の夢」、「F1走る魂」として結実していますが、こちらの小説は表に出てこない話をすくいあげ、フィクションとして書き上げたという感があります。
F1を舞台にした作品はたくさんありますが、F1ブームと呼ばれた頃は実際のグランプリ、ドライバー達の織り成すドラマの方が面白く、フィクションの方が負けていたこともありました。あの頃からグランプリの世界もだいぶ変わりましたが、味のある短編やあっと言わせるスリラーが出てくることを期待しましょう。
「No.13 魔のレッドゾーン(ケン・ヴォース著)」は光文社文庫から日本語訳が出ておりました。なかなか設定が面白く、1989年にターボエンジンが禁止されて3.5リッター自然吸気エンジンに統一された際に多く誕生した弱小新興チームが舞台となっており、主人公が失踪した父の謎を追いかけながらシーズンが展開する、という小説です。ミステリーとしてはごく普通の作品ですが、チームの雰囲気、パドックやピットの様子などは丁寧に描かれていて、F1を舞台とした小説としてはリアルさがあってよくできており、主人公とチームに感情移入することができました。実際に1989年の新NA規定では様々なチームが誕生しており、残念ながら「一発屋」にもなれずに消えてしまったチームもありました。この小説の舞台となったチームと主人公がその後どうなったのか、残念ながら邦訳はないようですが、続編を読みたくなりました。
海外ものではボブ・ジャッドという作家が90年代にF1関連の小説をいくつか発表し、日本語訳も出ていますが、70年代に「あの」アリステア・マクリーンも「歪んだサーキット」というF1を舞台にした小説を書いています。「ナバロンの要塞」、「女王陛下のユリシーズ号」といった名作(私も大好きです)を残した作者の手による小説ですが、ひと昔前あたりにテレビ東京の「二時のロードショー」で放映してそうなミステリー・スリラー映画のような小説でした。
日本でもF1ブーム以前から小説の舞台に使われたり、さまざまな作品が生まれていますが、私のお気に入りは「紺碧海岸(松本隆著)」です。著者は伝説のバンド「はっぴいえんど」のメンバーとして、また作詞家として多くの作品を生んでおり、説明の必要もありませんが、ちょうど1990年頃には「没落貴族のような生活」をしており、指揮者のチェリビダッケとF1のセナの追っかけをしていた、と何かのインタビューで読んだ記憶があります。
この本は1990年モナコから1992年南アまでの8つのレース、そして1994年の大晦日のパリが舞台となる短編集です。それぞれの主人公はセナのファンで、サーキットで、テレビ画面の前でセナを応援しています。しかもみなセナのような天才でもなく、どこか生きにくいものを抱えていたり、欠点を持ったりしている人間たちです。
各編とも実際のレースが舞台になっており、私もテレビで見て覚えているシーンが出てきますが、サーキットの内外の出来事の中には著者本人の経験がかなり反映されているのではないかという場面も出てきます。私もこの中でも特に好きな一編「永遠の一瞬、一瞬の永遠」にインスピレーションを受け、フジミ1/24のポルシェ911とタミヤ1/24のホンダNSXを作って並べました。なぜこの二台なのかは本書をお読みいただければわかるかと思います。この時代のF1をリアルタイムで見知っている方なら、それがたとえテレビ観戦だけであっても共感できるものがたくさんあるのではと思います。
以前、本書を手にして鈴鹿サーキットを訪れ、スタンドでこの本を読んだことがあります。自己満足といえばそれまでですが、やってみたかったのです。
他にも実際のレースが登場するものですと「百万ドルの幻聴(メロディ)(斎藤純著)」もあります。こちらは音楽が縦糸に、F1が横糸に織り成すミステリーです。やはりセナが走っていた頃のF1が舞台となっています。
実際のレースの場面はほとんど出てきませんが「帰郷(海老沢泰久著)」も印象深い作品です。作者はこの作品で直木賞を受賞しています。主人公はホンダの工場の組立工からメカニックとしてグランプリを転戦し、刺激的な、そして忘れられない日々を送りますが、再び工場に戻ると・・・という小説です。作者は80年代の第二期参戦期にホンダチームに密着し、桜井淑敏監督の傍らで取材を続けていたことから、他のチームから「彼はホンダチームのナンバー2か?」と誤解されたほどだったそうです。そのときの取材は「F1地上の夢」、「F1走る魂」として結実していますが、こちらの小説は表に出てこない話をすくいあげ、フィクションとして書き上げたという感があります。
F1を舞台にした作品はたくさんありますが、F1ブームと呼ばれた頃は実際のグランプリ、ドライバー達の織り成すドラマの方が面白く、フィクションの方が負けていたこともありました。あの頃からグランプリの世界もだいぶ変わりましたが、味のある短編やあっと言わせるスリラーが出てくることを期待しましょう。