今日は書評です。先日書店で「評判の新書」ということで紹介されていた「転売ヤー 闇の経済学」(奥窪優木著 新潮新書)を買いました。このブログの内容が、模型や趣味にかかる話がメインですから、コレクションだったり、レアアイテムだったり、転売ヤーだったりといった言葉は身近にあるかと思います。私も今の勤務地が秋葉原ですので、裏通りで「並び屋」が買ってきたものを回収している元締めを見たことがありますし、表参道のブティックの前にバンを止め、ブランド物の商品をたくさん積んでいる外国人を見たことがあります。品物を買ってこの人物に渡しているのもおおよそブランド物のお店に入って買い物をするような身なりの人物ではないので、そういうことかな、などと思うわけです。
本書にはまず、ポケモンカードのレアを探し出す日本人が出てきます、彼らは玩具商の経営権を持っており、そういう意味では「まっとうなルートで」ポケモンカードを仕入れているわけですが、金属探知機から精密な秤まで用いてレアのカードをサーチします。レアなカードが高値で転売されている実態は、ポケモンカードに疎い私よりも、読者の方々の方がご存じかもしれません。しかし、こうした仕組みがマネーロンダリングに使われているのも、事実です。昔観た映画で、お金を隠すために希少な切手を使うというのがありましたが、あれを地で行くような話です。
最初に登場した彼らはそれでもまっとうな方ですが、「定番の」ディズニーグッズを買いあさり、それを転売する中国人グループに筆者は同行取材し、どのようにたくさんの商品を入手し、どこに、誰に対して売っているのかを追っています。当然ディズニーランド側も対策を立てているのですが、それをかいくぐる方策を彼らも考えており、いたちごっこは続きそうです。中国には「上に政策、下に対策」などということわざもあると聞きますが、こういうのを読むとその論理を私たちの国に持ち込んでくれるな、というのが本心であります。そういうことをやらかす人たちが、飛行機でわずか2-3時間の距離にいるから、厄介なのですが。
もちろん、こういった「ものを買い占めて、どこかに高値で流す」といった原始的なものだけてなく、SNSを巧みに使って日本の美容商品を売っている中国人もいます。自ら商品を手に取って、試し、本国にいる中国人に勧める「ライブコマース」で売っている人たちです。日本企業の中にはこういった「元・転売ヤー」たちを「インフルエンサー」として活用し、それで商売の足しどころか、大きな顧客にしているケースもあるようですから、どっちもどっちなのですが。本書の内容から離れますが、ハンドメイド系の展示会、イベントなどではライブコマース禁止と謳っているところもあると聞きます。各ブースを回って商品を紹介して発注して、ということを繰り返すのですが、展示物にベタベタ触れたうえで何も買わず、反応の悪い商品について粗末に扱ったりするしょうもない「インフルエンサー」もいるみたいで、その対策らしいですね。
本書に戻りまして、通信の規制緩和で登場した格安スマホを大量に契約、購入、それを流していると思われるベトナム人、それから他人のカード情報を盗み出して購入した商品を転売するという、完全に犯罪の方に行ってしまっている事例も出てきます。スマホの転売は犯罪の温床にもなっているようですから、良い事ではありません。規制があるというのは、やはり必要な理由があるからで、それをなんでも撤廃したらどうなるか、それを進めた人は責任を取っていただいた方が、と思うわけです。
また、本書には日本人の転売ヤーとして、デパートの外商の顧客となって高級洋酒を買い、それを高値で転売するビジネスマンの話や、定職に就かず転売ヤーを生業としている青年の話も出てきます。酒などの嗜好品が高値で転売というのはよく聞きますが「高い金を払って飲む」ことが目的となっているようにも思えます。お酒の味が分かっているのかどうかも定かでない人が、これはいくらしたんだぜ、的に飲んでいたらどうでしょうか。
さらに各地域のプレミアム付商品券が転売の温床になっている(これは私でも想像がつきましたが)といった話も出てまいります。特に本人確認、住所確認がいらず、スマホだけで申し込め、商品券が入手できる仕組みを悪用しているケースもあるようです。そんなことまでしてやる必要がある施策なのか、と思います。それに関連して紙おむつや粉ミルクの買い占めを行い、中国に転売している事例が出ています。自分の国の製品が信用できないから海外の製品を買い占めればいいという行為が許されるわけではないのですが、それに手を貸す日本人もいるみたいですね。孔子批判と一緒に仁や礼をどっかに置いてきたのか、もともとそういうマインドがないから孔子の教えが広がったのかはしりませんが、本当に必要な人のためのものまで奪う行為は、やはり許されないと思うわけです。5年前の今頃になりますが、コロナの流行とともにマスクが品薄になった際も、SNSを通じて「●●にマスクがある」とスーパー、薬局のマスクを買い占めている外国人たちがいたことを考えると、彼らの間でしか通用しないSNSというのが、安全保障上の脅威にもなりうるし、現在、決して「友好国」とは言えなくなっている中で大きな不安・懸念でもあります。政治的なことは書きたくないし、あんまりこういうことを書くとポピュリズム政党の主張みたいなので嫌なのですが、政治的には中庸でありたいと思う人間でさえ、そういう気持ちを持ってしまうわけです。
話題をもう少し柔らかくしまして、転売と言うとガンプラなども問題になっていますが、本書では「ポケモンカードに比べるとスモールビジネス」なのだそうです。私の方の専門のスケールモデルでも、新品がたまにアマゾンなどで高価転売されていたりもします。また、鉄道模型については最近は落ち着きましたし、大量生産のはずのNゲージでも予約販売が増えていますので、確実に入手したいものなら模型屋さんに予約すればたいがいは入手できます。一時は今日お店に並んだ新製品が、翌日には中古屋さんに並んでいる、ということもありました。決して高値でもない場合が多く、誰が、何のためにあんなことをするのかよく分かりませんが、何かのからくりがあったのでしょうね。
本書では弁護士さんのコラムも載っており、法的に見た転売行為についても触れていますが、そこにもあるとおり「消費者にできることは、少なくとも不正が介在していることが明らかな商品を購入しないこと、買うことによって転売に協力しないようにすること」なのです。もしかしたら、ア●ゾンやメ●カリに出ていた商品が、高値で転売できなくて仕方なく在庫処分しているものを買っている可能性はあるのですが・・・。
転売の法的規制というとスポーツ、コンサートなどのチケットに関しては規制が加えられています。昔は鈴鹿サーキットのF1や東京体育館のバレーボールの試合前などに「券余ってないかな、余ったら買うよ~」というだみ声のおっちゃんたちとそれを取り締まるお巡りさんの姿を見かけたものですが、あれで済んでいた昔が、ちょっとばかり懐かしくも感じてしまいます。