昔はもう少し分かりやすかったと思う。僕が買ったレコードは僕のものだし、君にプレゼントしたレコードは君のものだ。30cmのビニールの円盤にブルーススプリングスティーンやジャニス・ジョプリンといったアーティストたちの曲が刻み込まれていた。
ここにレンタルレコードと言うものが現れる。「貸与権」といった著作権法の修正があったにせよ、これもそんなに複雑なことはなかった。レンタルショップでレコードを借りて、(違法だけれど)カセットテープにダビングしてウォークマンで持ち歩く。限られたお小遣いで買えるアルバムなんて限られていたから、それまでならば欲しい曲はFMから録音したり、友達から借りたりしていたものに、「レンタル」という新しい選択肢が加わった。
これがレンタルビデオならもっと簡単だ。最近でこそセルビデオもやすくなったけれど、当時セルビデオを購入する人間なんてそんなにいなかったし、カセットテープと違ってビデオデッキ2台を揃えてダビングする人間なんて更に稀だから、家庭で「映画」を手軽に見るためのメインの選択肢となった。
例えば「スカパー」のPPVやインターネットを通じた「動画配信」が始まったからといって、心理的な抵抗感はともかく、基本的には「レンタルビデオ」のバージョンが変わっただけだ。300円で一泊二日だったり一週間だったりで映画を見る。問題は、消費者側で容易にデジタルコピーができるという環境が普及したということだろう。
品質の劣化を伴わないデジタルコピー。
8mmビデオの登場以来、家庭でデジタル録音・録画が可能となって以来の言われてきた問題ではあるけれど、これまでは8mmビデオにしろMDにしろ、メディア(カセットやMD)とそこに乗るコンテンツが結びついているということが前提だった。8mmビデオに録るためにはデッキとテープが必要であり、ダビングをするためにはデッキとテープが2対必要であった。
ここに来て大きな問題となった背景には、PCの普及によって、あるいはデジタル家電と呼ばれるものとPCの間の境界線が喪失したことによって、「コンテンツ」と「メディア」とが分離したことにある。お気に入りの曲をMP3にさえしてしまえば、ネットワーク越しに友人に複製することもできるし、CD-RだろうがHDDプレイヤーだろうがいくらでもデジタルコピーできるのだ。
コンテンツ業界側からは、しかしそうした技術主導で生み出された状況に対して必ずしも好意的であったわけではない。例えばCCCDなどは個人の私的利用の範囲を制限してまでもデジタルコピーを防ごうという業界側の抵抗であったし、最近ではPC向けストリーミング配信でもDRMによる利用者・利用機種の制限をかけているものも増えてきている。そうした動きの1つとして「BS/地上デジタル放送」によって用意されたのが「コピーワンス」機能だ。コピーワンスでは、番組に「1回だけ録画可能」という制御信号が付加されており、1回録画すると、後はHDD→DVDなどの移動(ムーブ)しかできない。
しかしこのコピーワンス、結果的に、業界側が「コンテンツ」自身の所有を認めたことを意味する。つまりセルDVDであればユーザーはDVDというメディアに焼かれた「コンテンツ」を所有するのだが、このコピーワンスの場合、「MOVE」という概念がありDVDやHDDといったメディアに関係なく「コンテンツ」そのものの所有することになる。違法コピーの防止のために、あえて「コンテンツ」そのものの所有を実現したと言える。
このことは微妙な状況を作り出したのではないか。
例えば「コンテンツ」の販売権はどこにあるのだろうか。
ある映画がDVDに焼かれていればそのDVDの販売権が存在する。あるいはネットで配信する場合は配信権が存在する。それらは単に「コンテンツ」というよりもメディアと結びついたものだ。コンテンツそのものが欲しい場合は誰がどのように販売してくれるのだろうか。今の音楽配信が行おうとしていることは、つまりこういうことだ。
「YahooBB!光無線パック」で孫正義が掲げたアイデアというのは非常に面白いものだった。それは無線LANを通して(アナログ)地上波放送やDVDを、自宅の中で再送信するというものだ。これによってPCでテレビ放送を見たり、DVDプレイヤーで再生させる映画を違う部屋のPCで見る(録る)ことができるという。
本来であれば、放送波の再送信やましてDVDをIP化して無線で送信するなどというのは、認可の問題や権利面で様々な問題を有しているのだが、今回はあくまで私的利用の範囲ということで問題がないようだ。
またこの席上で、孫正義は(YahooBBの)ネットワーク上にて個人の録画したものを預け入れるサービスを検討していると発表した。これによってインターネットに繋がれば、PCや場所に関わらずネット上の自分のライブラリーから見たい映像を見ることができるという。これはまさにメディアやデバイスにか関わらずコンテンツそのものをユーザーが所有していることといえるだろう。一度はPCなどで録画した映像(コンテンツ)をネット上に保管して自由に利用するというのだから。
片方で、既存の販売ルート・販売チャネルではメディアやデバイスとコンテンツを結びつけることで既存のビジネスモデルを頑なに守ろうとし、片方ではコンテンツとメディアを分離させ、コンテンツそのものが流通しようとしている。あるいはそういう状況を新しいビジネスモデルに育てようとしている。
果たしてどちらの状況が今後の趨勢になっていくのだろうか。
ユーザーにすればセルDVDを購入するのはDVDメディアが欲しいのではなく、コンテンツそのものが欲しいのだと言うであろう。より美しく、より便利に、より安く利用できるのであれば、必ずしもセルDVDという形式にこだわる必要はない。
しかし「音楽」であればそもそも身近に所有するということが当たり前のようになっていたが、「映像」に関していえば「セル」系が一般化してきたのは最近だ。コンテンツそのものにお金を払えば、DVDだろうがネット上だろうがHDDだろうが、自由に合法的に(コピーやMOVEによる)利用できる方法が容認されるのかといえば、それはあまりに既存のビジネスモデルからの抵抗が大きいだろう。
既存の著作権法では「コンテンツ」そのものの販売権と言うものはなく、メディアやデバイスや販売チャネルと不可分なものとなっている。また所有権と言う観点から、かって僕らがレコードを友人と交換したりあげたりしたように、自らが所有している「コンテンツ」そのものの交換・贈与・売買というものまでが認められるのだとしたら、P2Pの合法性と違法性の境界線は非常に曖昧になる。
コンテンツとメディアの分離という流れの中で、どのようなモデルが中心となるのか、正直、僕には分からない。あくまで既存の各メディアと結びついた販売モデルやレンタルモデルが巻き返してくるのか、コンテンツそのものがPPVのように都度課金モデル(利用する権利の所有)となるのか、コンテンツそのものを所有となるのか。
今後の動向を見守る上で、コンテンツ提供側の権利の問題、ユーザーの所有権の問題、そしてコンテンツとメディアの分離という観点が必要なのではないだろうか。
ここにレンタルレコードと言うものが現れる。「貸与権」といった著作権法の修正があったにせよ、これもそんなに複雑なことはなかった。レンタルショップでレコードを借りて、(違法だけれど)カセットテープにダビングしてウォークマンで持ち歩く。限られたお小遣いで買えるアルバムなんて限られていたから、それまでならば欲しい曲はFMから録音したり、友達から借りたりしていたものに、「レンタル」という新しい選択肢が加わった。
これがレンタルビデオならもっと簡単だ。最近でこそセルビデオもやすくなったけれど、当時セルビデオを購入する人間なんてそんなにいなかったし、カセットテープと違ってビデオデッキ2台を揃えてダビングする人間なんて更に稀だから、家庭で「映画」を手軽に見るためのメインの選択肢となった。
例えば「スカパー」のPPVやインターネットを通じた「動画配信」が始まったからといって、心理的な抵抗感はともかく、基本的には「レンタルビデオ」のバージョンが変わっただけだ。300円で一泊二日だったり一週間だったりで映画を見る。問題は、消費者側で容易にデジタルコピーができるという環境が普及したということだろう。
品質の劣化を伴わないデジタルコピー。
8mmビデオの登場以来、家庭でデジタル録音・録画が可能となって以来の言われてきた問題ではあるけれど、これまでは8mmビデオにしろMDにしろ、メディア(カセットやMD)とそこに乗るコンテンツが結びついているということが前提だった。8mmビデオに録るためにはデッキとテープが必要であり、ダビングをするためにはデッキとテープが2対必要であった。
ここに来て大きな問題となった背景には、PCの普及によって、あるいはデジタル家電と呼ばれるものとPCの間の境界線が喪失したことによって、「コンテンツ」と「メディア」とが分離したことにある。お気に入りの曲をMP3にさえしてしまえば、ネットワーク越しに友人に複製することもできるし、CD-RだろうがHDDプレイヤーだろうがいくらでもデジタルコピーできるのだ。
コンテンツ業界側からは、しかしそうした技術主導で生み出された状況に対して必ずしも好意的であったわけではない。例えばCCCDなどは個人の私的利用の範囲を制限してまでもデジタルコピーを防ごうという業界側の抵抗であったし、最近ではPC向けストリーミング配信でもDRMによる利用者・利用機種の制限をかけているものも増えてきている。そうした動きの1つとして「BS/地上デジタル放送」によって用意されたのが「コピーワンス」機能だ。コピーワンスでは、番組に「1回だけ録画可能」という制御信号が付加されており、1回録画すると、後はHDD→DVDなどの移動(ムーブ)しかできない。
しかしこのコピーワンス、結果的に、業界側が「コンテンツ」自身の所有を認めたことを意味する。つまりセルDVDであればユーザーはDVDというメディアに焼かれた「コンテンツ」を所有するのだが、このコピーワンスの場合、「MOVE」という概念がありDVDやHDDといったメディアに関係なく「コンテンツ」そのものの所有することになる。違法コピーの防止のために、あえて「コンテンツ」そのものの所有を実現したと言える。
このことは微妙な状況を作り出したのではないか。
例えば「コンテンツ」の販売権はどこにあるのだろうか。
ある映画がDVDに焼かれていればそのDVDの販売権が存在する。あるいはネットで配信する場合は配信権が存在する。それらは単に「コンテンツ」というよりもメディアと結びついたものだ。コンテンツそのものが欲しい場合は誰がどのように販売してくれるのだろうか。今の音楽配信が行おうとしていることは、つまりこういうことだ。
「YahooBB!光無線パック」で孫正義が掲げたアイデアというのは非常に面白いものだった。それは無線LANを通して(アナログ)地上波放送やDVDを、自宅の中で再送信するというものだ。これによってPCでテレビ放送を見たり、DVDプレイヤーで再生させる映画を違う部屋のPCで見る(録る)ことができるという。
本来であれば、放送波の再送信やましてDVDをIP化して無線で送信するなどというのは、認可の問題や権利面で様々な問題を有しているのだが、今回はあくまで私的利用の範囲ということで問題がないようだ。
またこの席上で、孫正義は(YahooBBの)ネットワーク上にて個人の録画したものを預け入れるサービスを検討していると発表した。これによってインターネットに繋がれば、PCや場所に関わらずネット上の自分のライブラリーから見たい映像を見ることができるという。これはまさにメディアやデバイスにか関わらずコンテンツそのものをユーザーが所有していることといえるだろう。一度はPCなどで録画した映像(コンテンツ)をネット上に保管して自由に利用するというのだから。
片方で、既存の販売ルート・販売チャネルではメディアやデバイスとコンテンツを結びつけることで既存のビジネスモデルを頑なに守ろうとし、片方ではコンテンツとメディアを分離させ、コンテンツそのものが流通しようとしている。あるいはそういう状況を新しいビジネスモデルに育てようとしている。
果たしてどちらの状況が今後の趨勢になっていくのだろうか。
ユーザーにすればセルDVDを購入するのはDVDメディアが欲しいのではなく、コンテンツそのものが欲しいのだと言うであろう。より美しく、より便利に、より安く利用できるのであれば、必ずしもセルDVDという形式にこだわる必要はない。
しかし「音楽」であればそもそも身近に所有するということが当たり前のようになっていたが、「映像」に関していえば「セル」系が一般化してきたのは最近だ。コンテンツそのものにお金を払えば、DVDだろうがネット上だろうがHDDだろうが、自由に合法的に(コピーやMOVEによる)利用できる方法が容認されるのかといえば、それはあまりに既存のビジネスモデルからの抵抗が大きいだろう。
既存の著作権法では「コンテンツ」そのものの販売権と言うものはなく、メディアやデバイスや販売チャネルと不可分なものとなっている。また所有権と言う観点から、かって僕らがレコードを友人と交換したりあげたりしたように、自らが所有している「コンテンツ」そのものの交換・贈与・売買というものまでが認められるのだとしたら、P2Pの合法性と違法性の境界線は非常に曖昧になる。
コンテンツとメディアの分離という流れの中で、どのようなモデルが中心となるのか、正直、僕には分からない。あくまで既存の各メディアと結びついた販売モデルやレンタルモデルが巻き返してくるのか、コンテンツそのものがPPVのように都度課金モデル(利用する権利の所有)となるのか、コンテンツそのものを所有となるのか。
今後の動向を見守る上で、コンテンツ提供側の権利の問題、ユーザーの所有権の問題、そしてコンテンツとメディアの分離という観点が必要なのではないだろうか。