個人的にはいささか拍子抜けの感があったのだが、隣ではおいおい泣いている女性の姿が。あぁ、そうか、これは「ラブストーリー」なのだ。戦争や悪魔を巡る意味深なセリフがあったとはいえ、「ナウシカ」や「もののけ姫」のようなメッセージ性にとんだ物語ではなく、「プリティウーマン」をさらに一歩進めた、女性のための一級品のラブストーリーなのだ。
愛国主義全盛の時代。父が残した帽子屋を支えている18才のソフィー(倍賞千恵子)は、ある日、自由奔放に生きる妹に会いに行く途中、荒地の魔女(美輪明宏)に追われている美貌の青年・ハウル(木村拓哉)と出会う。追っ手を撒くために、ソフィーとともに軽々と空へ舞い上がり駆け抜けるハウルの姿にソフィーは恋に落ちる。その晩ソフィーは、ハウルを目の敵にする荒地の魔女に呪いをかけられ、90歳の老婆の姿にされてしまう。老婆となったソフィーは住んでいる家を捨て、人々が恐れる「ハウルの動く城」に乗り込むと、家政婦として住み込み始める。
何もかも完璧に見えたハウル。しかし彼もまた心を無くした孤独者であった。90歳のソフィーは「呪い」を解くためにハウルや弟子・マルクル、炎のカルシファーと奇妙な共同生活を始めるのだが…
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例えば、女性にとってのラブストーリーの原型とも言える「シンデレラ」の場合、不幸な生い立ちの少女はやがて一夜限りの夢として王宮の舞踏会に参加し王子と出会う。1度は元の生活に戻るが、シンデレラが残したガラスの靴をもとに王子が再びシンデレラを迎えに来るというものだ。このときシンデレラは、自らを取り囲む不遇な状況に対して一途に耐え忍ぶだけの存在であり、舞踏会への参加や王子との出会いといった「幸福」に導くのは外部の存在である。つまり今の状況・価値観に盲目的に尽くすことの報酬として「幸」が与えられる。これは女性が社会に対して受身の存在であった時代であれば、1つの規範としてあるいはイデオロギーとして有効であったのだろう。
しかし70年代のフェミニズム運動以降、「女の時代」が到来し「シンデレラストーリー」も変質する。
その代表ともいえるのが「プリティ・ウーマン」だろう。この物語では女性は耐え忍ぶことで一方的に「幸」を与えられる存在ではない。最初はストリート・ガールのビビアン(ジュリア・ロバーツ)はエドワード(リチャード・ギア)から目も眩むばかりの「幸」が与えられる。しかしその「幸」は高級ホテルのスィートルームで生活できる、高級ブランドのドレスを好きなだけ買えるといった物質的な「幸」だ。やがて資本主義経済の中では勝ち組たりうるために、「敵」を作りながら企業買収を続けるエドワードに対して、ビビアンは「心」の回復を諭し自立した女性としての自分を認めることを迫る。そしてエドワードはそんなビビアンを迎えに迎えに来るのだ。
そこには女性が社会に対して働きかけていく姿とそれまで社会を担う側とされていた男性もまた傷ついているのであるということ、そして本当の「幸」とは物質的に恵まれているというのではなく、男性と女性がともに自立し協力しあうことが本当の「幸」に繋がるというイデオロギーが読み取れるだろう。
「ハウルの動く城」が描くラブストーリーはこれをさらに推し進めているといえる。
父親が残した帽子屋を継ぐために本当の自分を押し殺しまた自分を否定的に捉えている18才のソフィーは90歳のおばあさんになるということで(ある種の開き直りか)「自分」を解放し始める。彼女はそれまでの環境に別れを告げ、ハウルの動く城に勝手に住み込み、家政婦として掃除までし始める始末だ。その一方で美しくまた強力な魔法を司り完璧にみえるハウルは、"美しくなければ~"とどこかで自分自身を飾っている存在であり「心」を喪失した存在だ。ソフィーのハウルに対する働きかけによってハウル自身も新たな存在に生まれ変わっていく。そしてソフィーという「守るべきもののために戦う」ことになるのだ。
やがて戦争は激化しハウルを救うために、ソファ、マルクル、カルシファー、かかしのカブ、荒地の魔女をのせた「城」は劇走する。それはまさにソフィーのハウルへの想いをハウルの深い心の奥まで届けるためのように。そしてついて彼女はハウルにかけられた「心を喪失する」という「呪い」を解く方法を見つける。それも彼女のすぐそばで…
そしてそのとき、彼女自身も「本当に大切にしたいもの」に見つけたことで「呪い」を解いたのである。
女性が彼女を取り巻く社会や偏見という制約から逃れ、本当に自分自身が望む生き方を行うこと、それ自体が「呪い」を解く鍵であり、同時に女性のそうした協力と働きかけによって「男性」側の「呪い」さえも解放される、それがこの映画のメッセージである。ハウルは完璧ではなくまた一方的に与えてくれる存在ではない。ソフィーが古いハウルを掃除することで、あるいはガラクタの寄せ集めである「ハウルの動く城」を解体させることで、あるいはハウルやマルクル、カルシファー、かかしのカブ、荒地の魔女に働きかけ新しい関係を築きあげることで、そこにはソフィーを中心にした新しい「幸」が作り出されたのだ。
この女性の側が社会や男性にまで影響を与え、女性を中心とした新しい「家」を作り上げていくというシンプルなメッセージにこそこの映画の最大の魅力はあるのだろう。
しかしそれにしても、だ。あの戦争に対しては何らかの答えが出たのか?
「心」を取り戻すことで「呪い」が解けたのだとしても、そのことで「馬鹿げた戦争」を終わらせられるほど世界は甘くないはずだ。国王はすでに戦争で魔法を利用することを期待していない。また人間は戦争を通じて「ひどい」ことさえわからない悪魔になると述べている。
ソフィーも戦争を否定しつつもあくまで戦うのはハウルのためであり、それ以上の「大義」や「正義」を求めようとしない。そもそも「心」を喪失したハウルが馬鹿げた戦争を見つづけた理由は何か?この映画にはそうした問いかけについては答えていない。
そのあたりの中途半端さが、「ナウシカ」や「もののけ姫」のようなメッセージ性や物語を求めるファンにとっては物足りない映画となったのだろう。
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「話題作り」や声優だと色がついてしまう、話し方が自然体ではないといった問題があるとはいえ、やはり誰を声優に選ぶかという点については「ジブリ」はもう少し気を使ってもいいのではないだろうか。美輪明宏(荒地の魔女)や田中裕子(エボシ)のようにはまる場合もあるけれど、肝心な主人公にはずれが多すぎる。作品の質を高めるためにも、もう少し気を使って欲しいところだ。
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【評価】
総合:★★★☆☆
メッセージ性:★★☆☆☆
彼女とデートするなら:★★★★★
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原作「魔法使いハウルと火の悪魔―ハウルの動く城〈1〉」
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ハウルの動く城スタジオジブリ絵コンテ全集
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シンデレラ
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プリティ・ウーマン
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「風の谷のナウシカ」
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「もののけ姫」
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もののけ姫レビュー
愛国主義全盛の時代。父が残した帽子屋を支えている18才のソフィー(倍賞千恵子)は、ある日、自由奔放に生きる妹に会いに行く途中、荒地の魔女(美輪明宏)に追われている美貌の青年・ハウル(木村拓哉)と出会う。追っ手を撒くために、ソフィーとともに軽々と空へ舞い上がり駆け抜けるハウルの姿にソフィーは恋に落ちる。その晩ソフィーは、ハウルを目の敵にする荒地の魔女に呪いをかけられ、90歳の老婆の姿にされてしまう。老婆となったソフィーは住んでいる家を捨て、人々が恐れる「ハウルの動く城」に乗り込むと、家政婦として住み込み始める。
何もかも完璧に見えたハウル。しかし彼もまた心を無くした孤独者であった。90歳のソフィーは「呪い」を解くためにハウルや弟子・マルクル、炎のカルシファーと奇妙な共同生活を始めるのだが…
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例えば、女性にとってのラブストーリーの原型とも言える「シンデレラ」の場合、不幸な生い立ちの少女はやがて一夜限りの夢として王宮の舞踏会に参加し王子と出会う。1度は元の生活に戻るが、シンデレラが残したガラスの靴をもとに王子が再びシンデレラを迎えに来るというものだ。このときシンデレラは、自らを取り囲む不遇な状況に対して一途に耐え忍ぶだけの存在であり、舞踏会への参加や王子との出会いといった「幸福」に導くのは外部の存在である。つまり今の状況・価値観に盲目的に尽くすことの報酬として「幸」が与えられる。これは女性が社会に対して受身の存在であった時代であれば、1つの規範としてあるいはイデオロギーとして有効であったのだろう。
しかし70年代のフェミニズム運動以降、「女の時代」が到来し「シンデレラストーリー」も変質する。
その代表ともいえるのが「プリティ・ウーマン」だろう。この物語では女性は耐え忍ぶことで一方的に「幸」を与えられる存在ではない。最初はストリート・ガールのビビアン(ジュリア・ロバーツ)はエドワード(リチャード・ギア)から目も眩むばかりの「幸」が与えられる。しかしその「幸」は高級ホテルのスィートルームで生活できる、高級ブランドのドレスを好きなだけ買えるといった物質的な「幸」だ。やがて資本主義経済の中では勝ち組たりうるために、「敵」を作りながら企業買収を続けるエドワードに対して、ビビアンは「心」の回復を諭し自立した女性としての自分を認めることを迫る。そしてエドワードはそんなビビアンを迎えに迎えに来るのだ。
そこには女性が社会に対して働きかけていく姿とそれまで社会を担う側とされていた男性もまた傷ついているのであるということ、そして本当の「幸」とは物質的に恵まれているというのではなく、男性と女性がともに自立し協力しあうことが本当の「幸」に繋がるというイデオロギーが読み取れるだろう。
「ハウルの動く城」が描くラブストーリーはこれをさらに推し進めているといえる。
父親が残した帽子屋を継ぐために本当の自分を押し殺しまた自分を否定的に捉えている18才のソフィーは90歳のおばあさんになるということで(ある種の開き直りか)「自分」を解放し始める。彼女はそれまでの環境に別れを告げ、ハウルの動く城に勝手に住み込み、家政婦として掃除までし始める始末だ。その一方で美しくまた強力な魔法を司り完璧にみえるハウルは、"美しくなければ~"とどこかで自分自身を飾っている存在であり「心」を喪失した存在だ。ソフィーのハウルに対する働きかけによってハウル自身も新たな存在に生まれ変わっていく。そしてソフィーという「守るべきもののために戦う」ことになるのだ。
やがて戦争は激化しハウルを救うために、ソファ、マルクル、カルシファー、かかしのカブ、荒地の魔女をのせた「城」は劇走する。それはまさにソフィーのハウルへの想いをハウルの深い心の奥まで届けるためのように。そしてついて彼女はハウルにかけられた「心を喪失する」という「呪い」を解く方法を見つける。それも彼女のすぐそばで…
そしてそのとき、彼女自身も「本当に大切にしたいもの」に見つけたことで「呪い」を解いたのである。
女性が彼女を取り巻く社会や偏見という制約から逃れ、本当に自分自身が望む生き方を行うこと、それ自体が「呪い」を解く鍵であり、同時に女性のそうした協力と働きかけによって「男性」側の「呪い」さえも解放される、それがこの映画のメッセージである。ハウルは完璧ではなくまた一方的に与えてくれる存在ではない。ソフィーが古いハウルを掃除することで、あるいはガラクタの寄せ集めである「ハウルの動く城」を解体させることで、あるいはハウルやマルクル、カルシファー、かかしのカブ、荒地の魔女に働きかけ新しい関係を築きあげることで、そこにはソフィーを中心にした新しい「幸」が作り出されたのだ。
この女性の側が社会や男性にまで影響を与え、女性を中心とした新しい「家」を作り上げていくというシンプルなメッセージにこそこの映画の最大の魅力はあるのだろう。
しかしそれにしても、だ。あの戦争に対しては何らかの答えが出たのか?
「心」を取り戻すことで「呪い」が解けたのだとしても、そのことで「馬鹿げた戦争」を終わらせられるほど世界は甘くないはずだ。国王はすでに戦争で魔法を利用することを期待していない。また人間は戦争を通じて「ひどい」ことさえわからない悪魔になると述べている。
ソフィーも戦争を否定しつつもあくまで戦うのはハウルのためであり、それ以上の「大義」や「正義」を求めようとしない。そもそも「心」を喪失したハウルが馬鹿げた戦争を見つづけた理由は何か?この映画にはそうした問いかけについては答えていない。
そのあたりの中途半端さが、「ナウシカ」や「もののけ姫」のようなメッセージ性や物語を求めるファンにとっては物足りない映画となったのだろう。
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「話題作り」や声優だと色がついてしまう、話し方が自然体ではないといった問題があるとはいえ、やはり誰を声優に選ぶかという点については「ジブリ」はもう少し気を使ってもいいのではないだろうか。美輪明宏(荒地の魔女)や田中裕子(エボシ)のようにはまる場合もあるけれど、肝心な主人公にはずれが多すぎる。作品の質を高めるためにも、もう少し気を使って欲しいところだ。
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【評価】
総合:★★★☆☆
メッセージ性:★★☆☆☆
彼女とデートするなら:★★★★★
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原作「魔法使いハウルと火の悪魔―ハウルの動く城〈1〉」
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ハウルの動く城スタジオジブリ絵コンテ全集
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シンデレラ
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プリティ・ウーマン
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「風の谷のナウシカ」
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「もののけ姫」
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もののけ姫レビュー
想像にすぎませんが、最初は戦争を終らせるというシナリオはなかったのではないかと思うのです。
お上の立場になって考えれば、「こどもも観る映画だから、戦争は終結させろ!」と一喝して、政治力を使ってでもハッピーエンドにしてしまうでしょうね。
もう一度観てみないとわかりませんが、サリマンの台詞も不自然だし・・・妄想が広がります。。。