何となく、クリスマスイブに時間があったので書いてみる。25日までにUP出来なかったのは、ご愛嬌。
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「クリスマスの夜、バーで。」
※ 小さなこじんまりとしたビルの一室。Jazzがかかる小さなバー
カウンターを挟んで、マスター(以下、M)と常連客の久美子(以下、K)
[M] …それで帰り際に一杯ってわけ?
[K] うん。何かそのまま帰るのもなぁ、って、で、ここで口直し。
[M] まぁ、いろいろあるよね。
[K] 仕方ないってのはわかってるんだけどね。でも、何かさぁ、クリスマスなんだし、もう少し何とかなんないのかなぁ、って。
[M] プレゼントは貰ったんだろう?
[K] 一応ね。こないだ一緒に買いに行ったの。ほら、これ。(そう言って、バックを持ち上げる)
[M] 高そうじゃない?
[K] フラルだから、でもそんなに高くなかったのよ。4万円くらいかな。
[M] 俺からすると、高級品だよ。
[K] もちろん嬉しいのよ。でもねぇ、何ていうか、それだけって感じかな。
[M] 何だよ、それ。プレゼントのしがいがないなぁ。
[K] だって、何のサプライズもなかったのよ。
[M] バブルの頃じゃないんだから。毎回、そんなの準備してたら大変だよ。
[K] 内容じゃないのよ、気持よ、気持ち、気持ちの問題。
[M] はいはい。
※ マスターは店内に流れるCDをかけ直す。流れているのは「Waltz for Debby」だ。久美子、しばらくカクテルを眺めながら物思いに耽る。
[K] マスターはクリスマスなのに予定はないの?
[M] ご覧のとおり、クリスマスは稼ぎ時ですから。
[K] 誰もいないじゃない。
[M] 去年までだと、食事を終えたカップルが流れてきたんだけどね。今年は全然だね。どうなったのか。
[K] 今年は家族で過ごしてるんじゃない。震災もあったし。
[M] 「絆」だったけ、今年の言葉。
[K] なんか、今更だよね。今までだっていろんなところでいろんな関係があったのに、ことさら強調されても。
[M] 絡むねぇ。喧嘩でもした?
[K] う~ん、喧嘩っていうのとも違うのよね。何だろうなぁ、何かがずれちゃってるって感じ?
[M] すれ違い?
[K] う~ん、例えばね、大したことはないんだけど、ちょっとした行き違いがあって、そういうものが心の奥にチリみたいに積もっていくの。一つ一つは全然大したことないんだけど、そうしたものがどこかに積み重なってて、普段は全然気にならないんだけど、ちょっとしたときに、そうしたものに気づくの。
[M] あぁ。
[K] 一度、気づくとさぁ、もうダメ、何か、何やってもうまくいかないの。ちょっとしたことでイライラするし、自分がすり減っていくのがわかるの。
[M] 我儘なのか、求めすぎてるのか。
[K] そうかなぁ。そんなことないと思うんだけど。
[M] まぁ、そのへんは難しいよね。求めすぎてもダメだし、求めなくても上手くいかないし。
[K] う~ん、よくわからないけど、あんまりうまくいってないことだけは確か。リセットしちゃおうかな、なんてね。
[M] まぁ、いろいろあるよ。
[K] こうなったら、今日はマスターに付き合ってもらおうかな。
[M] おいおい、やけ酒かい。勘弁してよ。まだ仕事中なんだから。
[K] お客さん、いないじゃん。
[M] 夜はこれからなんだから。
[K] 私もこれからよ!はい、マスター、(グラスを差し出して)おかわりね。マスターはどうする?
[M] じゃあ、お言葉に甘えてビールを。(それぞれの分を用意して)いただきます。
[K] はぁ。
[M] 久美ちゃん、
[K] ん?
[M] あんまり、飲み過ぎちゃダメだよ。
[K] そんなに飲んでないわよ。
[M] 先に言っとこうと思って。いい子にしてないとサンタさんがプレゼント持ってきてくれないよ。
[K] サンタさんかぁ。(何かを思い出したように)…何か、いろんなことがうまくいかなくなっちゃったなぁ。
[M] そうだね。
[K] マスターでもそう思うの?
[M] そんなことばかりさ。
[K] きっと、いい子じゃなくなったんだろうね。子供の頃は単純だったな。何が正しくて、何が間違っているのか。私、これでもクラス委員とかやってたのよ。
[M] へぇ。
[K] よくいるじゃない。そういうのに選ばれる人って。あぁいうタイプだったの。真面目て、勉強もできて、周りからも学級委員はあの人よねって思われるタイプ。
[M] いたいた。苦手だったなぁ。いつ怒られるかとヒヤヒヤしてた。
[K] でも、それが当たり前だったの。普通にしてるだけで、成績も良かったし、先生からも可愛がられたし。全てがうまくいくもんだと思ってた。
[M] ・・・
[K] ねぇ、いい大人ってどんなんだろうね。
[M] 難しいこと聞くなぁ。
[K] 仕事も頑張ってるし、それなりに成績も上げてる。上司からの評価だってそれなり。でもね、それだけ。周りとはギスギスしてるし、毎日、イライラしっぱなし。何をしたかったのかもよくわからないまま、日々過ぎていってる。おまけにそのイライラを他の人にぶつけたりして。
[M] ・・・
[K] 今日だってそう。仕方がないってことくらいわかってるのに、そういう選択をしたのは私なのに、何かムキになっちゃって。別にどっちだっていいことなのに。
[M] ・・・
[K] そんなんじゃ、サンタさん、来てくれないよね。
[M] …子供にしかサンタって来てくれないと思ってるでしょう。
[K] うん。
[M] そうじゃないと思うんだよね。
[K] え?
[M] サンタが来てくれないのはさぁ、きっと待ってるんだよ。本当に求めているものを見つけるのを。子供の頃ってさぁ、両親だったり、先生だったりがいうことを聞いていれば「いい子」になれたわけじゃない。そしてその通りにしていればプレゼントがもらえたわけ。でも大人になるとさぁ、自分で見つけないといけなくなる。本当に求めているものも、どうすればそれが手に入れられるのか、も。
[K] ・・・
[M] そこいらで手に入れられるようなものなら、サンタさんに頼まなくったってamazonで注文すればいいし、トナカイの代わりにクロネコマークの宅急便が届けてくれるよ。でもね、サンタはね、本当に欲しいものだけを届けてくれるんだよ。
[K] それが見つかれば?
[M] そう。それが見つかれば。そのためにどうすればいいか、もね。
[K] …難しいね。昔はもっと簡単に見つかるもんだと思ってたんだけどなぁ。
[M] だからサンタは大人にはなかなか来ないのさ。
※ 曲が高鳴り、二人の間の沈黙を埋める。
[K] (声が響く)時々、私にはわからなくなる。いろいろなものを手に入れ、あるいはいろんなものを失いながら、そうして手に入れたものたちが本当に欲しかったものだったのか。本当はもっとシンプルで当たり前のものが欲しかったのではないか。どこにでもある小さな何かを探していたのではないか――そしてそう思うたびに、私は立ち尽くしてしまうのだ。
※ 扉が開き、男性客(以下、O)が訪れる。
[M] いらっしゃい。
[O] ついに降ってきちゃったよ。
[M] 雪?
[O] 結構ね。きっと明日は積もるな。えっと、ウィスキー、ロックでね。
※ マスター、男性客と話始める。しかし声は聞こえない。
※ 久美子、席を立ち窓から外を眺める。久美子の眺める向こうに静かに雪が降り始める。雪はやがて世界のあらゆるものを白い世界に覆っていくだろう。色鮮やかなものも、眩しかったものも、汚れてしまったものでさえも。
[K] もう、真っ白…。
※ 久美子の携帯が光る。一瞬躊躇する久美子。ゆっくりと携帯を耳にあてる。
[K] ・・・はい・・・うん、大丈夫だから。・・・うん、待ってる。
※ Waltz for Debbyが響き渡る。振り続ける雪を残してゆっくりと暗転。終了。
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「クリスマスの夜、バーで。」
※ 小さなこじんまりとしたビルの一室。Jazzがかかる小さなバー
カウンターを挟んで、マスター(以下、M)と常連客の久美子(以下、K)
[M] …それで帰り際に一杯ってわけ?
[K] うん。何かそのまま帰るのもなぁ、って、で、ここで口直し。
[M] まぁ、いろいろあるよね。
[K] 仕方ないってのはわかってるんだけどね。でも、何かさぁ、クリスマスなんだし、もう少し何とかなんないのかなぁ、って。
[M] プレゼントは貰ったんだろう?
[K] 一応ね。こないだ一緒に買いに行ったの。ほら、これ。(そう言って、バックを持ち上げる)
[M] 高そうじゃない?
[K] フラルだから、でもそんなに高くなかったのよ。4万円くらいかな。
[M] 俺からすると、高級品だよ。
[K] もちろん嬉しいのよ。でもねぇ、何ていうか、それだけって感じかな。
[M] 何だよ、それ。プレゼントのしがいがないなぁ。
[K] だって、何のサプライズもなかったのよ。
[M] バブルの頃じゃないんだから。毎回、そんなの準備してたら大変だよ。
[K] 内容じゃないのよ、気持よ、気持ち、気持ちの問題。
[M] はいはい。
※ マスターは店内に流れるCDをかけ直す。流れているのは「Waltz for Debby」だ。久美子、しばらくカクテルを眺めながら物思いに耽る。
[K] マスターはクリスマスなのに予定はないの?
[M] ご覧のとおり、クリスマスは稼ぎ時ですから。
[K] 誰もいないじゃない。
[M] 去年までだと、食事を終えたカップルが流れてきたんだけどね。今年は全然だね。どうなったのか。
[K] 今年は家族で過ごしてるんじゃない。震災もあったし。
[M] 「絆」だったけ、今年の言葉。
[K] なんか、今更だよね。今までだっていろんなところでいろんな関係があったのに、ことさら強調されても。
[M] 絡むねぇ。喧嘩でもした?
[K] う~ん、喧嘩っていうのとも違うのよね。何だろうなぁ、何かがずれちゃってるって感じ?
[M] すれ違い?
[K] う~ん、例えばね、大したことはないんだけど、ちょっとした行き違いがあって、そういうものが心の奥にチリみたいに積もっていくの。一つ一つは全然大したことないんだけど、そうしたものがどこかに積み重なってて、普段は全然気にならないんだけど、ちょっとしたときに、そうしたものに気づくの。
[M] あぁ。
[K] 一度、気づくとさぁ、もうダメ、何か、何やってもうまくいかないの。ちょっとしたことでイライラするし、自分がすり減っていくのがわかるの。
[M] 我儘なのか、求めすぎてるのか。
[K] そうかなぁ。そんなことないと思うんだけど。
[M] まぁ、そのへんは難しいよね。求めすぎてもダメだし、求めなくても上手くいかないし。
[K] う~ん、よくわからないけど、あんまりうまくいってないことだけは確か。リセットしちゃおうかな、なんてね。
[M] まぁ、いろいろあるよ。
[K] こうなったら、今日はマスターに付き合ってもらおうかな。
[M] おいおい、やけ酒かい。勘弁してよ。まだ仕事中なんだから。
[K] お客さん、いないじゃん。
[M] 夜はこれからなんだから。
[K] 私もこれからよ!はい、マスター、(グラスを差し出して)おかわりね。マスターはどうする?
[M] じゃあ、お言葉に甘えてビールを。(それぞれの分を用意して)いただきます。
[K] はぁ。
[M] 久美ちゃん、
[K] ん?
[M] あんまり、飲み過ぎちゃダメだよ。
[K] そんなに飲んでないわよ。
[M] 先に言っとこうと思って。いい子にしてないとサンタさんがプレゼント持ってきてくれないよ。
[K] サンタさんかぁ。(何かを思い出したように)…何か、いろんなことがうまくいかなくなっちゃったなぁ。
[M] そうだね。
[K] マスターでもそう思うの?
[M] そんなことばかりさ。
[K] きっと、いい子じゃなくなったんだろうね。子供の頃は単純だったな。何が正しくて、何が間違っているのか。私、これでもクラス委員とかやってたのよ。
[M] へぇ。
[K] よくいるじゃない。そういうのに選ばれる人って。あぁいうタイプだったの。真面目て、勉強もできて、周りからも学級委員はあの人よねって思われるタイプ。
[M] いたいた。苦手だったなぁ。いつ怒られるかとヒヤヒヤしてた。
[K] でも、それが当たり前だったの。普通にしてるだけで、成績も良かったし、先生からも可愛がられたし。全てがうまくいくもんだと思ってた。
[M] ・・・
[K] ねぇ、いい大人ってどんなんだろうね。
[M] 難しいこと聞くなぁ。
[K] 仕事も頑張ってるし、それなりに成績も上げてる。上司からの評価だってそれなり。でもね、それだけ。周りとはギスギスしてるし、毎日、イライラしっぱなし。何をしたかったのかもよくわからないまま、日々過ぎていってる。おまけにそのイライラを他の人にぶつけたりして。
[M] ・・・
[K] 今日だってそう。仕方がないってことくらいわかってるのに、そういう選択をしたのは私なのに、何かムキになっちゃって。別にどっちだっていいことなのに。
[M] ・・・
[K] そんなんじゃ、サンタさん、来てくれないよね。
[M] …子供にしかサンタって来てくれないと思ってるでしょう。
[K] うん。
[M] そうじゃないと思うんだよね。
[K] え?
[M] サンタが来てくれないのはさぁ、きっと待ってるんだよ。本当に求めているものを見つけるのを。子供の頃ってさぁ、両親だったり、先生だったりがいうことを聞いていれば「いい子」になれたわけじゃない。そしてその通りにしていればプレゼントがもらえたわけ。でも大人になるとさぁ、自分で見つけないといけなくなる。本当に求めているものも、どうすればそれが手に入れられるのか、も。
[K] ・・・
[M] そこいらで手に入れられるようなものなら、サンタさんに頼まなくったってamazonで注文すればいいし、トナカイの代わりにクロネコマークの宅急便が届けてくれるよ。でもね、サンタはね、本当に欲しいものだけを届けてくれるんだよ。
[K] それが見つかれば?
[M] そう。それが見つかれば。そのためにどうすればいいか、もね。
[K] …難しいね。昔はもっと簡単に見つかるもんだと思ってたんだけどなぁ。
[M] だからサンタは大人にはなかなか来ないのさ。
※ 曲が高鳴り、二人の間の沈黙を埋める。
[K] (声が響く)時々、私にはわからなくなる。いろいろなものを手に入れ、あるいはいろんなものを失いながら、そうして手に入れたものたちが本当に欲しかったものだったのか。本当はもっとシンプルで当たり前のものが欲しかったのではないか。どこにでもある小さな何かを探していたのではないか――そしてそう思うたびに、私は立ち尽くしてしまうのだ。
※ 扉が開き、男性客(以下、O)が訪れる。
[M] いらっしゃい。
[O] ついに降ってきちゃったよ。
[M] 雪?
[O] 結構ね。きっと明日は積もるな。えっと、ウィスキー、ロックでね。
※ マスター、男性客と話始める。しかし声は聞こえない。
※ 久美子、席を立ち窓から外を眺める。久美子の眺める向こうに静かに雪が降り始める。雪はやがて世界のあらゆるものを白い世界に覆っていくだろう。色鮮やかなものも、眩しかったものも、汚れてしまったものでさえも。
[K] もう、真っ白…。
※ 久美子の携帯が光る。一瞬躊躇する久美子。ゆっくりと携帯を耳にあてる。
[K] ・・・はい・・・うん、大丈夫だから。・・・うん、待ってる。
※ Waltz for Debbyが響き渡る。振り続ける雪を残してゆっくりと暗転。終了。
私は最近、ホテルのバーで夫と一杯飲んだ時、お客さん通しが殴り合いの喧嘩をはじめ、殴られっぱなしの男の人が、彼女におもいっきり赤ちゃん言葉で 痛かったよ~くぅーんと言っていたのを聞いて引いた話があります。