例えば「バックドラフト」では消防士として活躍している兄と消防士としての覚悟を決めきれない弟とが、「リバー・ランズ・スルー・イット」では真面目で秀才の兄と、陽気で才能に恵まれながら自分の生きる道を見いだせない弟とがそれぞれの葛藤を抱えて生きている。もしこれがただの友達であれば、そのまま離れることもできる。しかし兄弟というのはそんなものではない。他者でありながら他者になれない関係。オダギリジョーが主演のこの「ゆれる」も、そうした兄弟というものの脆い関係を描いた一作。
![](http://www.yureru.com/story/images/photo.jpg)
【ストーリー】
写真家の猛(オダギリジョー)は、母の一周忌で帰郷した。父(伊武雅刀)と折り合いの悪い彼だが、温和な兄・稔(香川照之)とは良好な関係を保っている。翌日、猛は稔、そして幼馴染の智恵子(真木よう子)と渓谷へと向かった。智恵子が見せる「一緒に東京へ行きたい」という態度をはぐらかして、一人で自然へカメラを向ける猛。そんな彼がふと吊橋を見上げた時、橋の上にもめている様子の稔と智恵子がいた。そして次の瞬間、そこには谷底へ落ちた智恵子に混乱する稔の姿だけがあった…。
【レビュー】
地方という「閉じた」世界。守り続けなければならない「家」という制度。残り続ける家父長制度。そんな世界の中に長男・稔は生きている。温和な性格で誰からも愛される稔だが、おそらくそれが彼の全てではなかっただろう。しかし彼を囲む世界は、彼に地方で生きること家業を継ぐことを、そして、父親をはじめ周囲の世界とうまくやっていくことを強いてきたのだろう。彼は「長男」としていくつかの選択肢を失い、生きてきたのである。
これに対して猛は自由だ。東京で写真家として活躍し、恋愛を自由に楽しむくらいの余裕もある。もしかするとそれはただの虚像なのかもしれない。稔のような確固とした周囲からの信頼感もなく、表現したい何かを持っているわけでもなく、ただ「逃げている」だけの人生なのかもしれない。
ただ「長男」と「次男」というただ生まれた順番が違うというだけど、それぞれが別の選択肢を持つことになる。兄弟というのは、結局、「もし生まれた順番が違っていれば…」という想いを抱え込みながら、時にはそれが憎しみとなりつつも信頼と尊厳を抱きつづける関係なのだろう。
しかしこの事件をきっかけにこの「信頼関係」が崩れ始める。
兄を助けたいという漠然とした想い。
兄の中にくすぶり続ける想い。
兄の抱え込んできた思い。
兄が演じてきた役割とその亀裂
弟の中で芽生える疑惑。
曖昧な現実の中で、結局、現実を確からしいものと確信させているのはそれぞれの「想い」でしかない。いったんわずかばかりの信頼が失われたとき、その現実は不信感に基づいた現実にと彩られてしまう。曖昧な記憶。それぞれが悪意ではなく、ちょっとしたボタンの掛け違いで物語は大きくゆれていく。
「あなたの言う、本当のこととは何ですか?」
猛の選択したこと。それを受け入れた稔の選択。果たしてこのときの稔の気持ちはどうだったのだろう。既に稔は兄弟をつないだ信頼関係が崩れてしまっていることを知っている。だからこそなのかその表情は静かだ。それは判決の重さ以上に、つり橋を渡ることを心配して怖いながらも一緒について渡った弟に信用されなかったという事実に諦めを悟ったかのように。
7年後、猛は稔を追いかける。バス越しに猛の声に気づく稔。果たして一度朽ち果てたつり橋は元に戻ることができるのか。その答えは見る側にゆだねられている。
【評価】
全体:★★★★☆
脚本も役者もいい味だしてます:★★★★☆
ちょっと演出が作りすぎ:★★★☆☆
![](http://www.yureru.com/story/images/photo.jpg)
【ストーリー】
写真家の猛(オダギリジョー)は、母の一周忌で帰郷した。父(伊武雅刀)と折り合いの悪い彼だが、温和な兄・稔(香川照之)とは良好な関係を保っている。翌日、猛は稔、そして幼馴染の智恵子(真木よう子)と渓谷へと向かった。智恵子が見せる「一緒に東京へ行きたい」という態度をはぐらかして、一人で自然へカメラを向ける猛。そんな彼がふと吊橋を見上げた時、橋の上にもめている様子の稔と智恵子がいた。そして次の瞬間、そこには谷底へ落ちた智恵子に混乱する稔の姿だけがあった…。
【レビュー】
地方という「閉じた」世界。守り続けなければならない「家」という制度。残り続ける家父長制度。そんな世界の中に長男・稔は生きている。温和な性格で誰からも愛される稔だが、おそらくそれが彼の全てではなかっただろう。しかし彼を囲む世界は、彼に地方で生きること家業を継ぐことを、そして、父親をはじめ周囲の世界とうまくやっていくことを強いてきたのだろう。彼は「長男」としていくつかの選択肢を失い、生きてきたのである。
これに対して猛は自由だ。東京で写真家として活躍し、恋愛を自由に楽しむくらいの余裕もある。もしかするとそれはただの虚像なのかもしれない。稔のような確固とした周囲からの信頼感もなく、表現したい何かを持っているわけでもなく、ただ「逃げている」だけの人生なのかもしれない。
ただ「長男」と「次男」というただ生まれた順番が違うというだけど、それぞれが別の選択肢を持つことになる。兄弟というのは、結局、「もし生まれた順番が違っていれば…」という想いを抱え込みながら、時にはそれが憎しみとなりつつも信頼と尊厳を抱きつづける関係なのだろう。
しかしこの事件をきっかけにこの「信頼関係」が崩れ始める。
兄を助けたいという漠然とした想い。
兄の中にくすぶり続ける想い。
兄の抱え込んできた思い。
兄が演じてきた役割とその亀裂
弟の中で芽生える疑惑。
曖昧な現実の中で、結局、現実を確からしいものと確信させているのはそれぞれの「想い」でしかない。いったんわずかばかりの信頼が失われたとき、その現実は不信感に基づいた現実にと彩られてしまう。曖昧な記憶。それぞれが悪意ではなく、ちょっとしたボタンの掛け違いで物語は大きくゆれていく。
「あなたの言う、本当のこととは何ですか?」
猛の選択したこと。それを受け入れた稔の選択。果たしてこのときの稔の気持ちはどうだったのだろう。既に稔は兄弟をつないだ信頼関係が崩れてしまっていることを知っている。だからこそなのかその表情は静かだ。それは判決の重さ以上に、つり橋を渡ることを心配して怖いながらも一緒について渡った弟に信用されなかったという事実に諦めを悟ったかのように。
7年後、猛は稔を追いかける。バス越しに猛の声に気づく稔。果たして一度朽ち果てたつり橋は元に戻ることができるのか。その答えは見る側にゆだねられている。
【評価】
全体:★★★★☆
脚本も役者もいい味だしてます:★★★★☆
ちょっと演出が作りすぎ:★★★☆☆
良ければ相互リンク願います