ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

スイミング・プール:最後に仕掛けられた「罠」

2005年06月04日 | 映画♪
「8人の女たち」のリュディヴィーヌ・サニエが見事な肢体を披露する、フランソワ・オゾンのミステリー。この映画の予告編のイメージとは大きく裏切られるかもしれないが、「オゾン監督からあなたに届くミステリアスな一通の招待状」の言葉通り、単純なサスペンス映画とは一味も二味も違うミステリアスな「罠」が仕掛けられた秀作。


ミステリー作家サラ(シャーロット・ランプリング)は、出版社社長のジョンから気分転換にと、南仏の美しい自然に囲まれたプール付きの別荘へと招待させる。サラは週末のジョンの訪問を待ちながら執筆開始する。そこにジョンの娘ジュリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が現れる。毎晩異なる男を連れ込んでは自由奔放に日々を楽しむジュリーにサラは苛立ちを隠せない。作家としての本能か、やがてサラははジュリーの生活に興味を持ち始め、小説のモチーフに使用とする。そんなある日、サラが好意をよせていた村のレストランの男性を、ジュリーはサラの前で誘惑しようとする。翌日、サラはプールの脇で血痕を見つけるのだった…。


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演劇の世界では「劇中劇」というものがある。演じている役者たちが、その舞台上で「演劇」をするというもので「舞台」という「虚構の中の現実」に対して更に「虚構」を作り出すという1つの演劇的装置だ。これによって「観る者」と「観られる者」、「現実」と「虚構」を相対化しそれによって表現の幅が広がることになる。映画の世界にもこういった手法はしばしば使われる。この映画もそうだが、作家を主人公にみたて、その作家の書いている作品を映画的現実にもちこむことによって「現実」と「虚構」の境界線を曖昧にし、1つのミステリー的な仕掛けをつくりだすのだ。。

この映画も最後の最後に大きな仕掛けが待っている。フランソワ・オゾンが投げかけたミステリーは、作品中というよりもむしろ、観終った瞬間から始まるのだ――果たして、どこまでが現実だったのだろうかと。

例えば、サラが別荘にたどり着いた時、ある一室に熊のぬいぐるみが置いてある。これはサラの内に秘めた欲望(願望)を挑発するかのように自由奔放に振舞うジュリーの姿とは違和感を感じるだろう。あるいはサラの壁にかかった「十字架」を外すという行為。それは不倫に対する「罪悪感」故かもしれないし、「殺人」に荷担していることの「罪悪感」かもしれない。「ジュリーが部屋へ訪れたことを示すための道具としての意味もあるだろうし、同時に「虚構」という「不誠実な行為」を暗示するものといえるかもしれない。

ではどこから「虚構」が始まったのか。この作品では明確に「虚構」と「現実」の区別は描かれていない。

同時にこの映画の見事なところは、単純なミステリー作品ではないところだ。女性の若さへの憧れ、嫉妬、憎しみ、哀しき性を描いた作品として読むこともできるし、「あなたに似ているのよ」の台詞どおりジュリーを通じて、「サラ」の内なる欲望を描いた作品としても読むこともできる。あるいは作家というものの醜悪さを描いたとも読めるだろうし、ラストシーンでジョンに語るように、この物語がサラの私的な作品だとすれば、サラのジョンへの復讐と自立の物語として読むこともできる。

あらゆる読み方が可能だし、それだけの描写や役者達の演技が備わっているのだ。

いずれにせよ、こうしてこの物語の解釈を考え出した時点で、フランソワ・オゾンの「罠」にはまってしまっているのだろう。


【評価】
総合:★★★☆☆
ミステリー?:★★★☆☆
「罠」にはまっちゃいました:★★★★☆

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (lin)
2005-06-05 20:15:07
はじめまして、NUMBの管理人ですw。

TBいただいたのでお邪魔しました。

確かに如何様にも解釈できる、それが懐の深さでもありますね。この作品についたはブログでも色々勝手な解釈をしましたが(爆)自分には女性の持つ「性」の対比的な描写が印象的でしたよw。

よかったらまた絡んでやって下さい。此方からもTBさせて頂きますw
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罠の解釈 (ユカリーヌ(月影の舞))
2005-06-09 11:08:20
はじめまして。

TBありがとうございます。

こちらからもさせていただきました。



「罠」の解釈の書き方がうまいですね。

もの書き修業の身として、

とても勉強になりました。

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