最近、わが社ではやたらめったら「おもてなし」という言葉が流行っている。まぁ、社長が何かに感化されて、これからは最高の「おもてなし」をサービスに実現するんだ!と言ったことから、それがサービス面での観念的な目標になったためではあるのだけれど。おもてなし。この言葉は個人的には嫌いではない。どちらかというと賛成だ。ちなみに「おもてなし」という言葉を「はてなキーワード」で調べてみると…
1:客を歓待すること。客の世話をすること。
2:「ユーザー・エクスペリエンス」の、日本語訳候補。中島聡 氏のブログ「 Life is Berautiful 」での議論の中で、「ユーザー・エクスペリエンス」に、最も近い概念の日本語として提案された。
とのこと。なるほど。ユーザー・エクスペリエンスといわれれば、ネット的にも意外と親しみやすい言葉なのかもしれない。
ところが、この「おもてなし」という言葉、「掛け声」としては非常に分かりやすいのだけれど、これを自社のサービスなどに取り込んだ場合、どんなサービスになるかというイメージについては、千差万別、意外とみんなバラバラだったりする。
例えばある人は、1)ユーザーが求める様々な商品が全て揃っていることだと言う。そうすればユーザーが欲しいものが何でも見つかるじゃないか、と。またある人は、2)ユーザーが思いもよらぬもの(例えば見たことないけど興味を引く商品)を発見できるようにすることだ、そうすればユーザーは「感動」を得ることができるじゃないか、と。またある人は、3)ユーザー1人ひとりが興味ありそうなものをこちらから紹介してあげる/レコメンドしてあげることだ、そうすればユーザーが求めているものを探さなくてもいいじゃないか、と。あるいはこうも言う。4)ユーザーに対して、その道のプロが目利きしたもの・セレクトしたものを紹介することだ。そうすれば本当にいいものに出会えるじゃないか、と。
これらはいずれも間違いではないだろう。しかしこれら4っつを実現しようとすると全く異なるサービスになってしまう。ある者は「量」を求め、ある者は「質」を求める。ある者は「偶然」を求め、ある者は「関連」を求める。ある者は「あなた」の好みを求め、ある者は「プロ」の目利きを求める。
これらはいずれも間違いではないだろう。
とはいえ、お寿司屋に行ったとして、「うちでは3千種のネタが揃ってます、さぁ、お好きなものをどうぞ!」と言われて、あなたは選ぶことができるだろうか。選べないと店主に言うと、彼はこう答えるだろう。「大丈夫です。優秀な検索エンジンが入っていますから――」
あるいは店主があなたのなじみで、カウンターに座るなり勝手にあなたの好みのネタを握ってくれるとしたらどうだろう。今日も明日も明後日も、あなたは毎日、「穴子」と「トロ」と「ゲソ」を食べることになるかもしれない。
寿司屋のカウンターに座り、「何、握ります?」と問われ、「お任せ」と答えることも、もちろん可能だ。優れた店主なら、あなたの懐具合を鑑みた後で、「今日はいい鰆が入っているんですよ」と握ってくれるかもしれない。もちろんあなたの食べたかった「たまごやき」が出るかどうかはわからないが…
「おもてなし」という掛け声だけでは「おもてなし」実現しない。全員のイメージをそろえないと、場合によっては正反対のサービスが混在することになりかねない。わが社にとっての「おもてなし」とは何を意味するのか、そう問わねばならないのだ。
しかし意外とこうしたことを理解している人は少なかったりする。言葉がなじみやすい分、多様な意味を含んでしまうのだ。
もう1つ。この「おもてなし」という考え方、特に最近ではamazonや「iコンシェル」に代表されるように、1人ひとりのユーザーにカスタマイズし、求めているものをレコメンドしよう、最適化しようという「パーソナライズ化」が主流になってきている。
もちろんこうした考え方にたってサービスを構築する、サイトに機能を実装するというのは間違いではない。ここで注意しておかねばならないことは、この「おもてなし」という考え方はあくまで提供者側の論理であって、これは言い方を変えると(社会学的な観点で見ると)「動物化」といわれる事象に他ならない。
「動物化」とは、あらゆる情報がDB化された結果、消費者が自身の欲求に基づいて何かを求めるのではなく、その周囲の環境の側によって(例えば情報のレコメンドなど)提供されるものを受動的に消費している状態のこと。近代的市民であれば「主体的」に何かを求めて行動をするかもしれないが、動物は腹が減れば目の前の「えさ」を食べるのだ。
「パーソナライズ化」あるいはそうした考えに基づく「おもてなし」は、消費者の主体的な判断や自律性を尊重するのではなく、過去の履歴や統計的なパターンから消費者の行動を閉じ込めてしまいかねないのだ。
「おもてなし」といわれる言葉の背後には、こうした可能性も含まれるのだということも認識しておかねばならないのだろう。
動物化するポストモダン―オタクから見た日本社会 / 東浩紀 - ビールを飲みながら考えてみた…
1:客を歓待すること。客の世話をすること。
2:「ユーザー・エクスペリエンス」の、日本語訳候補。中島聡 氏のブログ「 Life is Berautiful 」での議論の中で、「ユーザー・エクスペリエンス」に、最も近い概念の日本語として提案された。
とのこと。なるほど。ユーザー・エクスペリエンスといわれれば、ネット的にも意外と親しみやすい言葉なのかもしれない。
ところが、この「おもてなし」という言葉、「掛け声」としては非常に分かりやすいのだけれど、これを自社のサービスなどに取り込んだ場合、どんなサービスになるかというイメージについては、千差万別、意外とみんなバラバラだったりする。
例えばある人は、1)ユーザーが求める様々な商品が全て揃っていることだと言う。そうすればユーザーが欲しいものが何でも見つかるじゃないか、と。またある人は、2)ユーザーが思いもよらぬもの(例えば見たことないけど興味を引く商品)を発見できるようにすることだ、そうすればユーザーは「感動」を得ることができるじゃないか、と。またある人は、3)ユーザー1人ひとりが興味ありそうなものをこちらから紹介してあげる/レコメンドしてあげることだ、そうすればユーザーが求めているものを探さなくてもいいじゃないか、と。あるいはこうも言う。4)ユーザーに対して、その道のプロが目利きしたもの・セレクトしたものを紹介することだ。そうすれば本当にいいものに出会えるじゃないか、と。
これらはいずれも間違いではないだろう。しかしこれら4っつを実現しようとすると全く異なるサービスになってしまう。ある者は「量」を求め、ある者は「質」を求める。ある者は「偶然」を求め、ある者は「関連」を求める。ある者は「あなた」の好みを求め、ある者は「プロ」の目利きを求める。
これらはいずれも間違いではないだろう。
とはいえ、お寿司屋に行ったとして、「うちでは3千種のネタが揃ってます、さぁ、お好きなものをどうぞ!」と言われて、あなたは選ぶことができるだろうか。選べないと店主に言うと、彼はこう答えるだろう。「大丈夫です。優秀な検索エンジンが入っていますから――」
あるいは店主があなたのなじみで、カウンターに座るなり勝手にあなたの好みのネタを握ってくれるとしたらどうだろう。今日も明日も明後日も、あなたは毎日、「穴子」と「トロ」と「ゲソ」を食べることになるかもしれない。
寿司屋のカウンターに座り、「何、握ります?」と問われ、「お任せ」と答えることも、もちろん可能だ。優れた店主なら、あなたの懐具合を鑑みた後で、「今日はいい鰆が入っているんですよ」と握ってくれるかもしれない。もちろんあなたの食べたかった「たまごやき」が出るかどうかはわからないが…
「おもてなし」という掛け声だけでは「おもてなし」実現しない。全員のイメージをそろえないと、場合によっては正反対のサービスが混在することになりかねない。わが社にとっての「おもてなし」とは何を意味するのか、そう問わねばならないのだ。
しかし意外とこうしたことを理解している人は少なかったりする。言葉がなじみやすい分、多様な意味を含んでしまうのだ。
もう1つ。この「おもてなし」という考え方、特に最近ではamazonや「iコンシェル」に代表されるように、1人ひとりのユーザーにカスタマイズし、求めているものをレコメンドしよう、最適化しようという「パーソナライズ化」が主流になってきている。
もちろんこうした考え方にたってサービスを構築する、サイトに機能を実装するというのは間違いではない。ここで注意しておかねばならないことは、この「おもてなし」という考え方はあくまで提供者側の論理であって、これは言い方を変えると(社会学的な観点で見ると)「動物化」といわれる事象に他ならない。
「動物化」とは、あらゆる情報がDB化された結果、消費者が自身の欲求に基づいて何かを求めるのではなく、その周囲の環境の側によって(例えば情報のレコメンドなど)提供されるものを受動的に消費している状態のこと。近代的市民であれば「主体的」に何かを求めて行動をするかもしれないが、動物は腹が減れば目の前の「えさ」を食べるのだ。
「パーソナライズ化」あるいはそうした考えに基づく「おもてなし」は、消費者の主体的な判断や自律性を尊重するのではなく、過去の履歴や統計的なパターンから消費者の行動を閉じ込めてしまいかねないのだ。
「おもてなし」といわれる言葉の背後には、こうした可能性も含まれるのだということも認識しておかねばならないのだろう。
動物化するポストモダン―オタクから見た日本社会 / 東浩紀 - ビールを飲みながら考えてみた…
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