ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

「アメリカン・ビューティー」-「アメリカ」という病の行く末

2005年04月03日 | 映画♪
この映画を見た率直な感想から。「アメリカという国は何故、これほどまでに幸せそうな顔をしつづけなければならないのだろうか。」撮影前に芝居のようにリハーサルをやるという念の入れようで、その分、ケビン・スペイシー、アネット・ベニングら名優たちの演技が光る。アカデミー賞8部門にノミネートされた傑作コメディ。「アメリカ」という病、あるいは「アメリカ」という文化と同じベクトル上にある「日本」も他人事ではいられないのかもしれない。

郊外の新興住宅地に住むレスター(ケヴィン・スペイシー)は見栄っ張りな妻キャロリン(アネット・ベニング)とろくに会話もしない娘ジェーン(ソーラ・バーチ)との暮らしの中で人生を諦めて過ごしていた。そんなある日、彼は娘の友人のアンジェラ(ミーナ・スバーリ)に一目ぼれする。アンジェラの「筋肉がついたら寝てもいい」との言葉にレスターはトレーニングを開始する。一方、キャロリンは仕事上のライバルの不動山王バディ(ピーター・ギャラガー)と急接近、モーテルで欲求不満を解消していた。ジェーンは隣人のリッキー(ウェス・ベントレー)にビデオカメラでつけ狙われていた。最初は気味悪がっていたジェーンだが、リッキーの持つ雰囲気に次第に惹かれていくのだが…




この映画は、アメリカの抱える「病」を凝縮させたといってもいいだろう。レスターは家庭と仕事の中ですっかり自分自身を抑圧してしまっているし、妻キャロリンは「幸せな中流家族」像を追いかけることしか関心がない。アンジェラは自分の「美しさ」を吹聴し、他の男の視線を集めることこそが最大の関心事だ。隣家に元海兵大佐のフィッツは「規律」と「暴力」で家族を支配し、同性への関心を「差別」することで抑圧している。フィッツの妻はノイローゼ気味。近隣にはゲイのカップルも住んでいるし、不動山王バディは「成功を目指す者はどんな時も幸せのイメージを保つことが大切」と言い切るような男だ。

彼らの「病」、それはまさに「俗物」と呼ぶに相応しい存在だということだろう。

アメリカの青春小説が「失われたイノセント」をモチーフとするように、この主人公レスターは冒頭から自分が何かを失ってしまったことを語る。今の生活を維持するために自分自身を裏切り、抑圧し、希望を抱けずにいる。しかし彼がこの映画で取り返そうとしたものは決して「無垢なる自分」ではない。

娘の友達の「色気」に一目ぼれし、彼女とのSEXを夢見て「肉体改造」を行う。会社の「スノップ」たちにそのスノッブ振りを批判して会社を辞めてしまう。自由な頃の気分を味わうかのように、自分の人格を主張し、ドラックに手を出し始める。レスターは、自分自身を取り戻しのだというかもしれないが、ただ目先の欲望を追い掛け回しているに過ぎない。

そんな中、レスターの娘・ジェーンとリッキーだけがこうした「俗物」から一線を画している。

リッキ―は、彼の家庭を支配する「規律」と「暴力」がただの誤魔化しに過ぎないことを知っている。ドラックによる精神解放もあってか、既存の価値感にとらわれることなく、宙を舞う白い袋や、鳥の死体といった社会では「汚物」とされるものの中にも「生命」と「美」を見つけ出している。彼にとっては中身のないアンジェラの「美しさ」には興味がなく、また肉体を鍛え上げようとするレクターの「俗物」をも見抜いている。彼はカメラという枠を設けることで、「俗物」たちの世界とは一線を画している。

そうした考え方に、ジェーンは感化されていく。

とはいえ、社会の一般的な基準からすれば、決してリッキーは認められる存在ではないだろう。

中流家庭を演じるためにおしゃれな「モノ」を買い漁るキャロリンは、ブランド品や消費行動でしか「自分探し」ができない女性たちと同様、よき「女性の時代」を先導した層であり、またよき消費者でもある。バディのような信念は「BIG TOMMOROW」あたりを見れば毎月書いてあることであり、多少の違いはあれどこうした信念を唱えるビジネスマンは多いだろう。それに対してリッキーのやっていることは「ドラックを売る」という犯罪だ。

しかしこの映画の面白さは、まさに普通に生活することの中に潜む「俗物」性が見え隠れするところにある。

「モノ」にしろ、「モデル」のような美しさにしろ、華やかな営業成績と羨望の念であろうと、あるいは「規律」「偏見」であろうと、実は自分自身の「内実」のなさに他ならないのではないか。だからこそ、自分自身の内奥の声に正直に生きるのではなく、他者の視線を意識したものに「価値」を見出すしかないのだろう。

ラスト。アンジェラとベットインしようとしたレスターだが、彼女が「バージン」だと知って思いとどまる。と同時に憑き物がとれたように、レスターの表情は穏やかになる。どんなに「俗物」ぶったところで彼女はまだ「失われていない」のだ。

アメリカ中流社会の崩壊。この作品は「本当の美」とは何かを問い掛けたのだろう。と同時に、この映画が捉えた中流社会というのは「白人」社会に過ぎないことも忘れてはならない。アメリカの白人たちが気付いてきた社会・価値観といったもの自体の崩壊と読み替えることもできる。そしてそれらは「アメリカ」の価値観を追いかけてきた日本にもまさに当てはまることなのだろう。


【評価】
総合:★★★★☆
役者:★★★★★
脚本:★★★★★



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1 コメント

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TBさせていただきました (-hiraku-)
2005-10-16 07:43:47
私のいちばん好きな映画なだけに、評価が高くうれしいです。^^ この映画の日本版って作れそうですよね。

また遊びに参ります。
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