世界中で有名なことだと思うが、
パタゴニアの社員は勤務時間中、
いつでもサーフィンに行っていい。
登山でも、釣りでも、サイクリングでも、
スキーでも、スノーボードでも、
スポーツならなんでもかまわないらしい。
ゴルフがOKかどうかはさだかではないが。
本当に叱られないし、クビにもならないし、
査定にも響かない。
アイトドア製品の会社として成功するには、
アウトドアを愛し、
深い造詣をもった人材を集めなければならない。
同社はこうした融通性で、
貴重な人材を社内にとどめてきたといわれる。
この本の著者、
イヴォン・シュイナード氏は、
パタゴニア社の創業者&オーナー。
1950年代後半にクライミング道具の製造販売から出発した同社は、
世界で初めてすべてのコットン製品を、
オーガニックに切り替えたり、
他社に先駆けて、
ペットボトルからの再生繊維を使った
フリースを販売するなど、
製品品質と環境を重視する経営で知られ、
日本でも登山やスキーの愛好家や
環境保護に共感する人たちを中心に人気がある。
私は学生時代スキーをしていたので、
当然のことながら、同社の製品が、
デザインと機能性に優れ、
スキーヤー(死語?)の間でも、
山荘や民宿のおじさんの中でも、
インストラクターさんたちからも、
信頼され、愛されているのを
肌身で感じてきた。
ちょっと高いんだけど、
なぜか「パタゴニアじゃなきゃ嫌だ」
という人がたくさんいるので、
そういう人達に支えられているのという感覚がある。
このアウトドア野郎たちのパタゴニアへの愛は、
同社の「地球を守ること」への強い思いに対する、
尊敬の念からきているところが大きいと私は感じている。
(少なくとも私はそう)
2001年から売上高の1%以上を環境保護団体に寄付する、
企業同盟「
1% for the Planet」を共同設立。
もうおぼえていないくらい昔から、
パタゴニアといえば環境だったし、
環境といえばパタゴニアだった。
創業者&オーナーのイヴォン・シュイナード氏が
「社員をサーフィンに行かせよう」
と言い出したのには、下記の狙いがあるそうだ。
イヴォン・シュイナード氏曰く、
①責任感
いまからサーフィンに行ってもいいか、
いつまでに仕事を終えなければならないかなどと、
いちいち上司にお伺いを立てるようではいけない。
もしサーフィンに行くことで仕事が遅れたら、
夜や週末に仕事をして、遅れを取り戻せばいい。
そんな判断を、
社員一人一人が自分でできるような組織を望むからだ。
②効率性
自分が好きなことを思いっきりやれば、
仕事もはかどる。
午後にいい波が来るとわかれば、
サーフィンに出かけることを考える。
すると、その前の数時間の仕事はとても効率的になる。
机に座っていても、実は仕事をしていないビジネスマンは多い。
彼らは、どこにも出かけない代わりに、
仕事もあまりしない。
仕事をしている振りをしているだけだ。
そこに生産性はない。
(ここ、笑えますよね!)
③融通をきかせること
サーフィンでは
「来週の土曜日の午後4時から」などと、
前もって予定を組むことはできない。
その時間にいい波がくるかどうかわからないからだ。
もしあなたが真剣なサーファーやスキーヤーだったら、
いい波が来たら、すぐに出かけられるように、
常日頃から生活や仕事のスタイルをフレキシブルに
しておかなければならない。
④協調性
パタゴニアには
「私がサーフィンに行っている間に、
取引先から電話があると思うので、受けておいてほしい」
と誰かが頼むと、
「ああ、いいよ。楽しんでおいで」
と誰もが言う雰囲気がある。
一人の社員が仕事を抱え込むのではなく、
周囲がお互いの仕事を知っていれば、
誰かが病気になったとしても、
あるいは子どもが生まれて三カ月休んだとしても、
お互いが助け合える。
お互いが信頼し合ってこそ、機能する仕組みだ。
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とどのつまり「社員をサーフィンに行かせよう」
という精神は、フレックスタイムとジョブシェアリング
の考え方を具現化したもの。
そして、この精神は、
会社が従業員を信頼してこそ成り立つ。
「私たち経営陣は、仕事がいつも期日通りに終わり、
きちんと成果をあげられることを信じているし、
社員たちもその期待に応えてくれる。
お互いに信頼関係があるからこそ、
この言葉が機能するのだ。」
とイヴォン・シュイナード氏は語る。
なんと幸せな関係だろう。
パタゴニアは、
「100年後も存在することを前提として経営している」
そうだ。
従来の規範に従わなくても、
ビジネスは立ちゆくばかりか、
いっそう機能することをこの本で立証したくて、
彼はこの本を書いたそうだ。
100年後はわからないけれど、
40年後に、パタゴニアのフリースを着て、
旦那と一緒に散歩や家庭菜園ができるといいな、
と思う私でした。
| 社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論イヴォン・シュイナード,森 摂東洋経済新報社このアイテムの詳細を見る |