■■冒頭発言■■
①自分(総理)は、今回、シンガポールを訪問し、積極的なアジア外交を展開するという第一歩をしっかりと踏み出すことができた。
②この二日間で、いろいろな会議があった。多くのアジアの諸国の首脳の方々と親しく懇談をすることができた。そして互いの信頼関係を築くことができたと思っている。
③先週、訪米した。その際にもブッシュ大統領とお話したのは、アジアの安定と平和、これは我が国のみならず、米国にとっても大事なことであるということで意見は一致した。そういうことも踏まえて、今回、アジアの首脳の方々とお会いしたわけである。
④ASEAN各国の首脳との間では、
日本・ASEAN包括的経済連携協定の交渉が妥結したので、これを歓迎した。そして、協定の早期発効に向けて協力していくことで一致した。
⑤また、今回、ASEAN諸国の間で、「
ASEAN憲章」が採択されたが、これを我々は大変喜ばしく思っている。我が国としても、ASEANの一層の発展と繁栄のために、ASEANの統合努力を力強く支援していきたいと思っており、そのことを表明した。
⑥また、
東アジア首脳会議では、自分(総理)から、東アジアにおいて「持続可能な社会」を実現するために、共に取り組んでいくということを呼びかけた。
⑦また、気候変動対策をはじめとする環境分野で、具体的な協力を推進していくことについての提案をした。
⑧更に、エネルギー分野や青少年交流等のことについても、地域協力を一層発展させるべく、日本がリーダーシップを発揮していくことを確認した。
⑨会議では、「
気候変動、エネルギー及び環境に関するシンガポール宣言」というものが採択された。これは、来年の
G8洞爺湖サミットにつながる大きな成果であると考えている。
⑩個別の会談では、中国の温家宝総理との間で、昼食を含めじっくりと話をする機会を得た。日中間の協力関係、また色々な課題の解決のみならず、地域情勢、地球規模の課題についても意見交換を行った。また、韓国のノ・ムヒョン大統領、シンガポールのリー・シェンロン首相、またインドのシン首相等とも会談をした。会談の中身は、二国間の問題もあるが、同時にこの地域の全体の問題についても話し合いを行った。
⑪それから、ミャンマーのテイン・セイン首相とも会談した。民主化への努力を倍加するように、その際、要請した。
⑫さらに、日中韓首脳会談においては、三国間協力を一層強化するために、明年以降、「行動計画」を作成することで合意した。
⑬また、カンボジア、ラオス、ベトナム三カ国の首脳との会議では、わが国のメコン地域開発への支援方針を説明した。
⑭最後に、美しいシンガポールの地で、シンガポール政府及び国民の皆さんから暖かい歓迎を受け、友情を深めることができたことを嬉しく思い、心から皆様に感謝をしたいと思っている。
■質疑応答
問1
総理は、今回、訪米から続いた初外遊で日米同盟の強化とアジア外交の共鳴という理念を訴えられた。アメリカとの関係にしろ、アジアとの関係にしろ、北朝鮮問題のように解決を迫られている課題も少なくないが、今後、「共鳴」の考え方をどのように定着浸透させて、日本の外交力を高めていくのか。また、それに関連し、アジア諸国から高い評価を受けている
福田ドクトリンについて、改訂版を出す考えはあるのか。
(総理)
アジアが、平和で、繁栄し、開放的であるということは、我が国はもとより、アジア諸国全体の利益であり、また米国を含む国際社会全体に利益をもたらすものであると考えている。そういう観点から、日本は、アジアの自助努力を基本としながらも、必要な時は助け合うという、「自立と共生」の精神のもとで、日本自身が大きな役割をこの地域で果たしていくということが必要であると考えている。
そういう観点をふまえた上で、我が国の外交の要としてしっかりと持っている日米同盟関係を基礎として、筋の通ったアジア外交を展開することが必要であり、そのことは、中国・韓国をはじめとするアジアとの関係を深化させることにも、非常に有益であると考えている。
日米の同盟関係は、日本のアジアにおける活動の場を広げることにもなるし、また同時に、アジアとの関係が良いということは日米同盟のためにも良いことである、という考え方である。このような考え方に基づいて、今後アジア外交を推進していくと考えている。
今、「
福田ドクトリン」をどうするのかという質問があった。ちょうど来年が30周年という時期にあたるが、今特に新しいものを出すことと考えている訳ではない。しかし、今現在、当時から比べて大きな変化がある。アジアは随分変化をしている。アジアは当時に比べて遥かに経済的な成長センターだと言われているし、また、中国も急速に台頭してきていることもあり、インドのこれからの経済発展も大きなものがある。そういう大きな変化があるということを踏まえた上で、わが国のアジア外交というものは、変質していくだろう。これを踏まえて、これからの日本のアジア外交を考えるべきだと思っている。
問2
本日、総理は、気候変動のイニシアティブを東アジアサミットで提案されたところであるが、提案をもう少し説明して頂きたい。(イニシアティブは)この地域の国々が発展と環境保護のバランスを取る上でどのように役立つか。
(総理)
東アジア各国は、かつて日本が経験したように、急速な経済成長を遂げているとともに、同時に深刻な環境問題に直面していると思う。
東アジア首脳会議で、自分(福田総理)は、先ほど申し上げた、「
自立と共生」を基本にしながらも、
(イ)深刻な公害を克服した日本の経験と知恵に学んでほしいということ、
(ロ)環境・エネルギー分野での世界最高水準の技術を持つ日本が必要な国々に対して、そういった技術を提供するという役割を持っていること、(の二点)から必要なところには助け合いの手をさしのべることが必要である(と述べた)。
今回、そのような考え方に基づき、東アジア諸国の環境問題への取り組みを支援していく具体的な支援のイニシアティブを表明した。
このイニシアティブは、経済成長と環境保護を両立するため、
(イ)
低炭素・循環型社会の構築への支援、
(ロ)東アジアの豊かで多種多様な自然との共生の推進、
(ハ)将来に向けた
環境保全の知的インフラ作りの支援、といった柱からなる。
具体的な例としては、例えば、
(イ)東アジア諸国の大気汚染や水質汚濁といった公害への対策(右課題に対しては、今後5年間で20億ドル以上の資金協力を行うことを表明)、
(ロ)深刻な環境汚染の現場に赴いて対応策の検討を行う環境専門家チームの結成、
(ハ)日本の衛星技術を東アジアの森林管理や温室効果ガスの測定に役立てること、
(ニ)将来の東アジアの環境リーダーを育成するという人材育成の提案、
といった広範な協力策が含まれている。
自分(総理)は、こうした取り組みを通じ、
東アジアにおいて「
持続可能な社会」の実現を目指していきたいと思っている。
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これを読めば福田さんの考えは明白にわかる。
そして、環境問題を全世界的なものとして大きくとらえ、今後の外交の柱にすえ、
限りある資源をゼロサムゲームで奪い合うのではなく、新エネルギーの開発、知的交流により、共鳴によって解決していこうという姿勢がわかる。
ちなみに
福田ドクトリンは、お父さんの
福田赳夫氏が首相だったときに、
1977年8月東南アジア歴訪の際マニラで表明した東南アジア外交3原則。
3原則内容
軍事大国とならず世界の平和と繁栄に貢献する。
心と心の触れあう信頼関係を構築する。
対等な立場で東南アジア諸国の平和と繁栄に寄与する。
福田さんのいう通り、当時といまでは状況が変わった。
それでも、いまあらためて読んでも、この3原則が普遍的価値を持つことがわかる。
そして福田さんの描く「世界各国(とりわけアジア)の共鳴」「自立と共生」は、もうはじまっている。