まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.権利の資格を得る=義務を果たすということなのですか?

2014-05-07 20:37:48 | 哲学・倫理学ファック
引き続き 「倫理学概説」 でいただいた質問に答えていきます。
今日の質問はけっこう多くの人が書いてくれた質問です。

授業のなかでは権利と人権の違いについて次のように説明しました。
権利とは、正しい行いをしたときに客観的に第三者によって認められる正しい主張であり、
ある条件を満たした人に平等に認められる資格である。
それに対して人権は、生まれや行いに関係なく、
すべての人間が生まれつき平等に持っている権利である。
こんなふうに説明しました。
特に、権利というのは一定の資格を満たした人のみが有するものであるということは、
意外とみんなわかっていなかったようで、初めて知りましたとか、
言われてみて初めて確かにその通りだなと思いました、という感想が多かったです。

その説明をする前にみんなに権利と人権の違いを書いてもらいましたが、
権利を義務との対比で説明してくれた人もけっこういました。
権利と義務が対語だということを知っていたのでしょう。
そんな人のひとりから次のような質問をいただきました。
「権利と聞くと義務とセットであるというように感じるのですが、
 義務を果たす=権利の資格を得るということなのだろうかと疑問に思いました。」
なるほど、これはいい質問です。
権利についての説明でこんなふうに明確に書いてくれた人もいました。
「権利は与えられた義務をきちんとこなした時に要求することができ、生活、人生をよりよくするもの」
これには一瞬マルをあげてしまったくらいです。
たしかに権利と義務は対語なのですが、しかしよく考えてみると、
義務を果たすことによって権利が発生するというような関係になっているのでしょうか。

結論から言うと、権利と義務の対置関係はそういうことではありません。
ある人が義務を果たすことによって資格を得て権利が発生するという意味ではないのです。
義務と権利の関係は二者間で発生する関係性です。
ひとりが権利を有する場合に、もうひとりがそれに対応する義務を負う、という関係になります。
債権と債務の例が一番わかりやすいのではないでしょうか。
債権とは貸したお金を返してもらう権利です。
債務とは借りたお金を返済する義務です。
一方の人が債権をもち、もう一方の人が債務を有するというように、
ふたりの間で権利と義務は対置関係にあるのです。
債権者はお金を貸してあげたことによって債権を有する資格を得たわけですが、
別にお金を貸してあげることは義務ではありません。
したがって義務を果たしたことによって権利が発生したというわけではありません。
このように、ひとりのなかで義務と権利が相補関係を成しているわけではないのです。

大学受験に合格し入学金と授業料を納付したことによって、
皆さんは大学で学ぶ権利を得たわけですが、
大学受験に合格したり入学金や授業料を納めることは別に義務ではありません。
皆さんの大学で学ぶ権利に対置されるのは、皆さんが果たすべき義務ではなく、
大学側が皆さんに教育を提供しなければならないという義務です。
どうも最近、権利と義務の関係に関する誤った見解が流布しているように思います。
ネオリベラリズムの自己責任論がわざと歪曲した形で権利と義務を結びつけているように思えますし、
中学校や高校の現場でも平気でウソが教えられているように思います。
国民や生徒を管理したい人たちにとっては権利というのは鬱陶しい概念で、
できるかぎり義務でがんじがらめにしておきたいというのはわからないでもありませんが、
そんな情報操作に踊らされてはいけません。
皆さんは権利と義務の関係について正しく理解しておいていただきたいと思います。
なお、ちょっと検索してみたところ、権利と義務について以下のような記事がウェブ上にあったので、
それらも参考にしてみてください。

「『権利行使には義務が伴う』 というフレーズに対するよくある誤解」

「義務を果たさない人は、権利を求めてはいけない。これって正しいですか?」