美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

2ヶ月連続の追加金融緩和!あれ?  (イザ!ブログ 2012・10・31 掲載)

2013年12月02日 02時00分58秒 | 経済
日銀が9月に続き今月も11兆円規模の追加金融緩和を実施すると発表しました。大手メディアは、おおむねそれを肯定的に取り上げています。

11兆円の追加金融緩和決定 日銀、異例の2カ月連続 (朝日新聞デジタル版10月31日)

【橋本幸雄】日本銀行は30日の金融政策決定会合で、11兆円の追加金融緩和を行うことを決めた。欧州危機や中国経済の減速が響いて日本の景気が急速に冷え込んでいるため、9月に続き、2カ月連続で追加緩和を行う異例の措置に踏み切る。市場に大量のお金を流し込み、景気の底割れを防ぐ。


*「大量」かどうかは、ドルやユーロの追加緩和量との比較で決まる。こういう独断と偏見に満ちた日銀寄りの報道姿勢は問題。

国債などを買い入れて資金を供給する「基金」の枠をいまの80兆円から91兆円に11兆円増やす。日銀は9月に基金枠を70兆円から80兆円に増やしたばかり。2カ月連続の金融緩和は、りそなグループの実質国有化で金融不安が広がった2003年4~5月以来、約9年半ぶり。

*日銀による「基金」の枠組みそのものの維持が、金融市場関係者にとっては、日銀の金融緩和に対する消極姿勢の象徴であることは周知の事実。そのことへの視点がまったくないのは問題。

国債の買い入れを10兆円増やすほか、社債や株価連動の投資信託(ETF)などの買い入れ枠も1兆円増やす。金利を下げて企業の投資を促すとともに、株式市場の底上げもねらう。

*デフレからの脱却の方途の説明がまったくない中で、社債やETFの買い入れ枠を一兆円増やしても何の意味もない、ドブに金を捨てるようなものである、という指摘は最低限すべき。

貸し出しを増やした金融機関に対して、無制限で低金利の資金を貸し出す新たな制度も導入する。政策金利(金融機関どうしによる無担保・翌日返済の取引の金利)を0~0.1%に誘導する事実上の「ゼロ金利」政策も続ける。

*ここでいわれている「ゼロ金利」とは名目金利のことであって、それにデフレ率を上乗せしたものが実質金利であり、市場関係者はそれを見て行動していることへの言及がまったくないのは問題。

こんなふうに、相も変わらぬ「大本営発表」がなされています。なんで日銀の発表をマスコミは鵜呑みにするのでしょうか。困ったものです。狭いマスコミ村のなかで彼らは生きているのでしょうね。

さらに、城島財務大臣も次のように日銀追加緩和継続を高く評価しています。

城島財務相、日銀の追加緩和を評価 「デフレ脱却へスクラムを」
2012.10.30 18:57 (産経新聞msnニュース)

城島光力財務相は30日、日銀の金融政策決定会合後に記者会見し、政府と日銀が発表した共同文書を「政府、日銀がスクラムを組んで強力にデフレ脱却に取り組むことを内外に宣言したものだ」と説明した。

日銀が同日打ち出した追加金融緩和は「従来にも増して大胆な追加金融緩和措置だ」と評価し、「役割を着実に果たしていると大いに歓迎したい」と述べた。


また、「言うだけ番長」前原さんも同様に今回の日銀の意思決定を高く評価しています。

「銀行の貸し出しに効果」と前原経財相 日銀の新しい資金供給策を評価
2012.10.30 20:16 (産経新聞msnニュース)

前原誠司経済財政担当相は30日、日銀の金融政策決定会合に出席した後に記者会見し、新たな資金供給策に対し「銀行の貸し出しに資するような取り組みで、高く評価している」と述べた。

政府の役割に関しては「政府自身もデフレ脱却に向けた努力をする」と説明。金融緩和で資金のニーズがある先へ貸し出しが行われることが重要だとして、不動産やインフラ市場への投資活性化に向けた有識者会議を新設したと発表した。


ところが株価は、政府・日銀の期待を大きく裏切る動きを示してしまいました。

日経平均、追加緩和発表で急落 終値8900円割れ(朝日新聞デジタル版)

30日の東京株式市場は、日経平均株価が、取引終了直前にずれ込んだ日本銀行の追加金融緩和の発表を受けて急落。前日終値より87円36銭(0.98%)安い8841円98銭で取引を終えた。終値での8900円割れは約2週間ぶり。市場では「追加緩和がおおむね織り込み済みの内容に終わり、利益確定の売りが出た」(大手証券)との声が出ていた。

日経平均は、この日開催の日銀の金融政策決定会合を巡って乱高下。午前中の取引では追加緩和期待から一時9000円近くまで上昇したが、午後に入ると決定会合の結果公表をにらんで利益確定の売りが優勢となって一時8900円割れ。結果公表が遅れる中で再びじりじり値を上げたが、日銀の追加緩和発表を受けて急落した。


市場が、日銀の追加緩和策をまったく評価していないことは明らかですね。市場は、日銀に対してまたもやガッカリした、というわけです。素人考えでは、「ちょっとは金融緩和をするのだから、少しくらいは株価が上がってもいいのではなかろうか」となりますよね。これはどうしたことなのでしょう。日銀を高く評価した城島さんも、「言うだけ番長」も首をひねるほかありません(それにしても、朝日新聞の経済担当者たちは、明らかに矛盾した記事をふたつ並べただけの自社の紙面を見て何も疑問が湧いてこないのでしょうか)。

私見によれば、上記の論点について、産経新聞の田村秀男氏の論が鋭い。

日銀の致命的な欠陥はそのメッセージ性の弱さにある。9月に量的緩和第3弾(QE3)を打ち出した米連邦準備制度理事会(FRB)の場合、バーナンキ議長が「雇用情勢の好転」をQE3の目的として挙げ、住宅価格や株価の上昇、消費需要の拡大意図を明言している。FRBはドルを刷って、当面毎月850億ドル(約6兆8千億円)分の長期金融資産を買い増すと市場に伝えた。以来、長期金利は実質ゼロ前後で推移し、住宅市況も大幅に好転しつつある。

欧州では共通通貨ユーロの発券銀行である欧州中央銀行のドラギ総裁が9月に、スペインなど問題債務国の国債を「無制限に購入する」と発表した。青天井でお札を刷るというのだから、ユーロは急落すると恐れる向きもあったのだが、金融市場は落ち着くようになった。

米欧とは対照的に、日銀の資産買い入れ基金による緩和方式の意図は不明である。日銀の白川方明総裁は脱デフレや超円高について繰り返し「危機感」を口には出すが、結果を出す責任感に欠けているようにしか見えない。日銀はこの2月には「1%の物価上昇のメド」を示したが、達成目標(ターゲット)とはしないための「メド」である。

日銀は30日の政策決定会合に示す「経済・物価情勢の展望」では来年度も2014年度も物価上昇率はゼロ%台になる見通しだというから、気楽なものである。超円高はデフレを深刻化させる最大の要因なのに、日銀首脳部は「金融政策を用いて直接的に為替相場に影響を与えることは一切考えていない」と言い出す始末、つまり円高是正のための金融政策に「ノー」と言っているのだ。

金融市場というのはそもそも、過去や現時点の相場ではなく、将来の予測次第で動く。だからこそ、バーナンキ議長もドラギ総裁も市場予想に影響するように腐心し、発言内容も明快になるよう努めるのだが、日銀の幹部たちはわざわざテクニカルでわかりにくい用語を選ぶ。日銀だけは「市場との対話」に背を向けた独善集団と言わざるをえない。

(tamurah.iza.ne.jp/blog/entry/2911542/「性懲りもなく砂漠に水を撒く日銀」)


日銀は、金融市場の「日銀はインフレよりもむしろデフレを好む」という「固定観念」を打破するほどの、強いメッセージを金融市場に対して発信する決然とした姿勢とそれに見合う大胆な緩和量とデフレ・円高脱却の道筋をきっちりと示さなければならないのです。

にもかかわらず、日銀がそれをいつも避けて逃げを打とうとするので、市場は「ああ、やっぱり」と落胆して、株価が下がるのです。将来へ向けてのインフレ予想が成り立たず、企業の投資誘引(おいしそうな儲け先)が想定できないのですからそうなるよりほかはありません。相変わらずのデフレ予想が国債相場の高止まりを招き(情けないことに、国債のほかに着実な利ざやをもたらしそうなものがありませんからね)、国際投資ファンドは喜んで国債を買い、そのことで円に対する需要は高まり、円に対する需要の高まりはさらなる円高を招き、円高は企業の業績を悪化させ、株価のさらなる低下を招く、という悪循環が止まらないのです。

これを鑑みるに、経済停滞の諸悪の根源は、日銀の消極姿勢にあり、という結論が得られます。企業努力が足りないことが諸悪の原因だという、財界に多い議論は、木を見て森を見ない視界狭窄の類にほかなりません。そういうふうに言いたがる手合いは、1929年の世界恐慌以降の現代資本主義に対する認識に根本的な誤りがあるものと思われます。上げ潮派の巨頭・高橋洋一氏はツイッターで端的に「2ヶ月連続で「異例」といっても10兆円と11兆円ではね。100兆円と100兆円ならわかるけど」と述べています。分かりやすいですね。要するに「FRBとECBが『無限に緩和する』と言っているのだから、日銀も『無限に緩和する』と言わなけりゃ効果はないよ」と高橋氏は言っているのです。なんでこんなに賢い人が、維新の会などという馬鹿な集まりの肩を持つのか不思議ではありますが。

ちなみに安倍自民党総裁は、今回の日銀の意思決定について、次のようなコメントを残しています。



政府・日銀金融策、自民・安倍総裁「小出しではダメだ」
2012.10.30 20:17 (産経新聞msnニュース)

自民党の安倍晋三総裁は30日夜、都内で行われた元衆院議員の会合で、日銀が発表した展望リポートや政府と日銀のデフレ脱却に向けた共同文書について「まったく市場は反応していない。こういう小出しの緩和ではまったくダメだ」と批判した。

同時に「自民党が政権についてしっかりとした経済政策を打ち出す。大胆な金融緩和を行い、円高を是正し、われわれの成長戦略を実行する必要がある」と述べた。


城島財務相や前原経済財政担当相の発言と比べると、安倍総裁が経済の基本に明るいマトモな政治家であることが歴然としますね。だから私は、安倍自民党単独政権の誕生を、首を長くして待っているのです。公明党は、カルト宗教が支持母体なので、できうることならば勘弁してほしいですなぁ。

ちなみに、今の経済界のおエライさん方は、エラそうな顔をする割には、マクロ経済のイロハが分かっていません。これ、本当のことです。

経済界、日銀の追加金融緩和を歓迎 「デフレ脱却に明確な方針」
2012.10.30 20:10 (産経msnニュース)

日銀が30日の金融政策決定会合で追加金融緩和を決めたことに対し、経済界は「政府・日銀がデフレから早期脱却に取り組む方針を明確に打ち出した」(日本商工会議所の岡村正会頭)と歓迎している。

エコカー減税の期限切れに加え、今後は電気料金の値上げや税・社会保障制度改革による年金保険料の引き上げなどが控えている。経済同友会の長谷川閑史代表幹事は「さまざまなネガティブ要因があり、このままでは景気の腰折れが間違いない」と懸念。岡村氏も「日本経済は非常に厳しい状況にある」とみていた。

このため岡村氏は日銀の追加金融緩和策に盛り込まれた資産買い入れ等基金の11兆円積み増しや、金融機関の貸し出し増加を支援するための新たな資金供給制度の創設などを「2カ月連続の切れ目ない緩和だ」と評価。長谷川氏も資金供給制度の創設を「新たな取り組みだ」と期待を込めて受け止めている。


ほらね。まったく分かっていないでしょう?おバカさんですね。「経済界なのだから経済のことをよく分かっているはずだ」という彼ら自身を縛っている馬鹿げた固定観念から、私たちは一日でも早く脱却しなければなりません。彼らは、グローバル企業グループの特殊利益を代表する、単なるひとつの「圧力団体」なのです。私は、以前そのことを私なりに徹底的に論証しました(http://blog.goo.ne.jp/mdsdc568/e/5047242c2a72087461c76fb64d65b224)。それで、こんなふうに自信を持って言えるようになりました。彼らが改心して国民経済に真摯な目を向けるようになれば、私たちはそれまでの経緯を水に流して彼らを喜んで迎えましょうね。やがて、そうするよりほかはない状況に立ち至る、というのが私の見立てです。日本を取り巻く国際政治経済状況がそのことをすでに指し示しているのではないでしょうか。その詳細についてはいずれまた。

〔付記〕
プシケさんから、ツイッターを通じて次のようなコメントをいただきました。

プシケ♂‏@terrasyuispapas
拝読♪おかしい感じがするんだけど、何がどうオカシイのかが判らない私には、いつも助かる見解であります(^^ゞ感謝します(^^)


こういうコメントをいただくと、ブログを続行するモチベーションが高まるんですよね。ありがとうございます。
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「櫻田淳氏の村上春樹批判」についての批評家・由紀草一氏のコメント  (イザ!ブログ 2012・10・27 掲載)

2013年12月02日 01時53分21秒 | 文学
小浜逸郎氏に続いて、由紀草一氏からもコメントをいただきました。由紀草一氏は、公立高校で教鞭をとりながら、他方で、切れ味鋭い教育論や文学論を展開なさっている方です。さらには、『軟弱者の戦争論 憲法九条をとことん考えなおしてみました。』(PHP新書)で、憲法9条についての深みのある議論を展開なさっている方でもあります。コメント掲載の快諾に対して、感謝の意を表します。

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教えてくださったブログの記事は、家に帰る前に携帯電話にて面白く拝見しておりました。

しかし、変わりませんなあ。日本の知識人の生態というのは。

薄甘い左翼、あるいはピンク。共産主義革命が望ましいとまで言うわけではなく、海外の、広義の共産主義勢力に甘く、日本とアメリカには辛い。でも、日本はアメリカと手を切れ、と言うでもなく。少しでも尖った愛国心、のようなものには冷笑を浴びせる。こういうスタンスが、朝日新聞の読者にはウケるわけですかな。もういいかげんアキてもいいのにねえ。いや、もう私はアキましたですよ。

村上氏も、紅涙を絞る小説の著者であるなら、むしろ「紅旗征戎吾が事に非ず」とでもキメたほうがカッコいいのに。進歩的知識人のほうがノーベル文学賞は取りやすいんですかな?そうだとすると、世界的にセコいんですな、文学者の世界というのは。

しかし、櫻田さんを登場させること自体、朝日も少しは方向転換を図っているのかな?

てな観測も、確か20年前にされていたような。で、それからあんまり変わらないんですね。いや、実は私は読んでいないんで、本当はよくわからないんですけど。

櫻田さんへの疑問もあります。パステルナークやソルジェニーツィンに比べたら日本の文学は「生ぬるい」というのは、 二葉亭四迷の、「文士には真剣味が足りない」から、「文学は男子一生の仕事に非ず」というのといっしょで、これまた文学にとっては有害無益な態度だと感じます。文学者がその作品によってどんな声望を得ようと、逆に弾圧されようと、その作品の価値とは別であるはずでして。「作者が作品に命をかけなきゃりっぱなものにはならない」というが如きロマン主義もよしていただきたい。現代の、あるいはずっと前からの日本文学の低迷は別のところに求めるべきです。

もちろん小浜さんのソルジェニーツィン評価はどうか、読んでみないことにはわかりませんが、まさか、上のような単純なことはないでしょうけどね。

今回ちょっとエラソーになってすみませんが、御教示はありがたく存じております。

今後ともよろしく。

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どうやら、この先の展開がありそうな形勢です。
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「櫻田淳氏の村上春樹批判」についての小浜逸郎氏のコメント (イザ!ブログ 2012・10・26 掲載)

2013年12月02日 01時48分09秒 | 文学
10月23日投稿分の拙文「政治学者・櫻田淳氏の村上春樹批判」(http://blog.goo.ne.jp/mdsdc568/e/c783471279e0f20076f423ac8e2f5c7e)について、批評家・小浜逸郎氏から下記のコメントをいただきました。この場を借りて、謝意を表します。

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櫻田さんの文章と、それについての美津島さんの解説、面白く読みました。両氏に百パーセント共感です。

櫻田さんは、格調高く決める人なので、やんわりとした批判に見えますが、事の本質は同じですよね。こういうやんわりとした批判がじつは「朝日」的なものに対する痛烈な異議申し立てだということを、朝日の編集者はわかっていて採用したのだろうか。あまりわかっていないのではないか、というのが私の感想です。

それにしても、当の朝日という場所できちんと思想や文学の原則を通す櫻田さんの芸に脱帽です。

また、11月刊行予定の拙著『日本の七大思想家』の小林秀雄の章で、たまたまソルジェニーツィンに言及したので、その点でも、櫻田さんと符合する点が多く、喜ばしいことだと感じました。

世界ブランド・村上が根の浅いコスモポリタンであることは、私は一向構わないと思っていますが、自分が生んだかわいい子どもが他国でひどい目に合っていることに対して、「意見を述べる立場にはない」などとそこらの官僚みたいな言辞を弄しつつ、ふやけた「自虐ニッポン人」におもねて平然としている態度を、文学を愛する一人として断じて許すわけにはいきません。こういう大江健三郎的戦後知識人のどうしようもなさは、確実に現在にも継承されているのだということを改めて痛感しました。

この線で、これからも闘っていきましょう。
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