津軽三味線奏者・はなわちえさんのことは、当ブログで何度か取り上げました。そのちえさんが、なんと全国版のTVCMに出演することになりました。auのスマフォン新機種XperiaVLの販売促進の一環として、今月10日からオン・エアされます。日本テレビ系の「Music Lovers」(毎週日曜 23:30~23:55放送)では、確実に見られるようです。
Xperia�・ VL SOL21 「三味線×タップダンス」篇 30秒バージョン
Xperia�・ VL SOL21 「三味線×タップダンス」篇 メイキング映像
次は、当TVCM の音楽についての、ご本人のブログでのコメントです。
この曲はCMのために書き下ろしましたが
10分くらいで作りました。
ロック→じょんがら→ブレイク→リフ
そして30秒
っていうフレームと
商品のイメージがあったので
作りやすかった◎
テーマとかコンセプトがあると
スムーズなのですね~
ameblo.jp/chiehanawa/entry-11395120705.html
10分でというのは、残念ながら音楽の素人なのでよくは分かりませんが、なんだかスゴイ感じがします。津軽三味線を核にさまざまな音楽のメロディとかいろいろなものが身体に入ってしまっているから、そういう芸当がさらりとできるのではないでしょうか。CMの曲は、津軽三味線の独特の「ゆらぎ」を十分に生かしたロック調の仕上がりになっています。言い換えると、津軽三味線でロックをやっているのではなく、津軽三味線の音色の特色を突き詰めることで、自ずと新しいロック調の曲が生み出されている、という感じがするのですね。だから、なんだかとてもカッコイイし、また、日本の風土に根ざした土着性がその核にしっかりと織り込まれることにもなっているのです。付け焼刃、という感じがまったくしないではありませんか。ちえさんの日頃の修練の賜(たまもの)でしょう。
いま、修練という言葉を使いましたが、それは別に大げさなことを言っているわけではありません。次に掲げるのは、『月刊邦楽ジャーナル 11月号』に掲載された、ご本人の、津軽三味線についての文章です。やや長くなりますが、ほぼ全文転載します。
説得力
はなわちえ(津軽三味線演奏家)
2003年、コロムビアMEからメジャーデビューしたことをきっかけに、和楽器以外の楽器とコラボレーションする機会が増えた。津軽三味線が持つ「弦が三本だけ」「音が伸びない」「和音が鳴らしにくい」などの特性は、いつしかデメリットとして感じられるようになった。様々なジャンルの音楽に挑戦したいという思いと、「ソロで弾いた『じょんがら節』が一番良かったです』というご意見との溝。
確かに『じょんがら節』をはじめとする津軽民謡は津軽三味線という楽器で演奏するにあたり理にかなった楽曲が多い。でも、津軽民謡だけではなく他の曲もレパートリーとして弾きこなせるアーティストになりたいと願っている。そこに私しかできない音楽があると信じている。
最近気づいたことがある。新しいことをやるうえで一番のデメリットは、楽器の持つデメリットではない。わたし自身の中にある楽器に対する劣等感と言い訳だ。新しい可能性を提示してくださる方々に対して、「それは三味線では弾けません』と言ってしまうことは簡単。「ザ・津軽三味線」な曲にしてしまうことも簡単。でも、私はいろんな世界が見たい。
09年に結成したヴァイオリンと津軽三味線のユニットhamanas(ハナマス)の活動を通じて今までよりも少し広い世界が見えてきた。このユニットの活動において自分で自分に課している密かな課題は「それはできません」と言わないこと。トライすればたいがい出来るようになるし、弾けなかった曲が弾けるようになった時の喜びは何ものにも代えがたい。
例えばヴァイオリンの速弾き曲として有名なモンティ作曲の『チャールダーシュ』。この曲に関して、早く弾くことに意味があるという相方と、ちゃんと弾きこなせないと意味がないと言うわたしの意見はぶつかった。相方は納得してくれたが、その後、わたしは自己嫌悪に陥った。新しことをしたいと言っておきながら、自分に言い訳していたのは私自身だった。楽器のせいにして逃げていたのはわたし自身だった。自分で自信を持って表現できないものに、聴いている方達が心動かされるはずがない。練習と本番を繰り返し、今ではかなりの速さで弾けるようになったし、お客様から「『チャールダーシュ』がとても良かった」という御言葉もいただくようになった。
改めて、津軽民謡がなぜこんなに人気なのかを考えると、やはり「説得力」なのではないかと思う。一音一音に説得力があれば、どんな曲であれ人の心を突き動かすことができると信じて、新たな津軽三味線の可能性を追求していこうと思う。この先、三味線をやめるつもりが全くないわたしにとって、おそらく短くはないであろう音楽人生。「NOと言わずにトライしてみる」今という時代の経験がこの先のわたしにとって、きっと大きな糧となるはず。
ここに、津軽三味線の可能性の新たな発現に果敢に挑戦し、自分の表現領域を拡張するために、試行錯誤と自問自答を繰り返している、表現者・はなわちえの内面が生々しく表出されています。はなわちえファンとしては、『チャールダーシュ』の表現をめぐる、バイオリニスト菜摘さんとちえさんとのぶつかり合いの話に一番興味を引かれるのではないでしょうか。これが、ちえさんにとって、どうやら文章を公にした初めての経験のようです。これから、どんどん書いて、文章面でも活躍してほしいものです。その可能性は大いにあるのではないでしょうか。(私は、最初の二文がやや長すぎるように感じました。「書き出しはごく短く」。これがその後に続くいい文章を導き出すコツではないかと思います。たとえば太宰治のように、「メロスは激怒した」と簡明に書き出せたなら理想的です。)
もしかしたら、今回のTVCMで、ちえさんはブレイクするのかもしれません。もともと、彼女の高度な音楽性とその音楽の大衆芸能的な庶民性とご本人の可愛いらしいルックスからすれば、いつブレイクしてもおかしくはないのです。私としては、これまでにすでにそうなっていないのが不思議なくらいです。だからそうなれば、ご本人はもちろんのこと、はなわちえファンとしても嬉しくないはずがありません。世間になるべく広く認知され、お金がたくさん入ってくるにこしたことはないのです。そのついでに、はなわちえさんの伝説のファースト・アルバム『月のうさぎ』が再発売されるといいのですが。現状では残念ながら発売中止でプレミアムが付いていて、安くても7000円前後するのです。いまのところ、私は購入のふんぎりがつきかねています。
しかしながら、ブレイクすることで彼女が浮かれて我を忘れることはないのではないかと私は思います。なぜなら、彼女が、異なる音楽ジャンルとの積極的な接触を通じて津軽三味線の表現領域を拡張するという課題を担うことについてとても自覚的な芸術家だからです。それは彼女の、表現者としての存在理由を深堀りすることでもあるし、また、津軽三味線の「流行」を追求することによって、津軽三味線そのものの「不易」を実現することでもあります。それが、ちえさんの「野望」「野心」なのではないでしょうか。彼女は、その意味で津軽三味線の伝統の流れに深く根ざした人なのです。そのことによってどれほどの恩恵に浴しているのか、彼女自身が一番よく分かっているのではないでしょうか。
ちえさんの文章にでてくる『チャールダーシュ』の演奏をご紹介しておきます。hanamasのお二人の、音楽観をめぐる「ぶつかり合い」のドラマを踏まえると、とくにhanamasファンにとっては、感慨も一入(ひとしお)なのではないでしょうか。
hanamas 2ndステージ?「チャルダッシュ」/ヘブンアーティスト in 渋谷
Xperia�・ VL SOL21 「三味線×タップダンス」篇 30秒バージョン
Xperia�・ VL SOL21 「三味線×タップダンス」篇 メイキング映像
次は、当TVCM の音楽についての、ご本人のブログでのコメントです。
この曲はCMのために書き下ろしましたが
10分くらいで作りました。
ロック→じょんがら→ブレイク→リフ
そして30秒
っていうフレームと
商品のイメージがあったので
作りやすかった◎
テーマとかコンセプトがあると
スムーズなのですね~
ameblo.jp/chiehanawa/entry-11395120705.html
10分でというのは、残念ながら音楽の素人なのでよくは分かりませんが、なんだかスゴイ感じがします。津軽三味線を核にさまざまな音楽のメロディとかいろいろなものが身体に入ってしまっているから、そういう芸当がさらりとできるのではないでしょうか。CMの曲は、津軽三味線の独特の「ゆらぎ」を十分に生かしたロック調の仕上がりになっています。言い換えると、津軽三味線でロックをやっているのではなく、津軽三味線の音色の特色を突き詰めることで、自ずと新しいロック調の曲が生み出されている、という感じがするのですね。だから、なんだかとてもカッコイイし、また、日本の風土に根ざした土着性がその核にしっかりと織り込まれることにもなっているのです。付け焼刃、という感じがまったくしないではありませんか。ちえさんの日頃の修練の賜(たまもの)でしょう。
いま、修練という言葉を使いましたが、それは別に大げさなことを言っているわけではありません。次に掲げるのは、『月刊邦楽ジャーナル 11月号』に掲載された、ご本人の、津軽三味線についての文章です。やや長くなりますが、ほぼ全文転載します。
説得力
はなわちえ(津軽三味線演奏家)
2003年、コロムビアMEからメジャーデビューしたことをきっかけに、和楽器以外の楽器とコラボレーションする機会が増えた。津軽三味線が持つ「弦が三本だけ」「音が伸びない」「和音が鳴らしにくい」などの特性は、いつしかデメリットとして感じられるようになった。様々なジャンルの音楽に挑戦したいという思いと、「ソロで弾いた『じょんがら節』が一番良かったです』というご意見との溝。
確かに『じょんがら節』をはじめとする津軽民謡は津軽三味線という楽器で演奏するにあたり理にかなった楽曲が多い。でも、津軽民謡だけではなく他の曲もレパートリーとして弾きこなせるアーティストになりたいと願っている。そこに私しかできない音楽があると信じている。
最近気づいたことがある。新しいことをやるうえで一番のデメリットは、楽器の持つデメリットではない。わたし自身の中にある楽器に対する劣等感と言い訳だ。新しい可能性を提示してくださる方々に対して、「それは三味線では弾けません』と言ってしまうことは簡単。「ザ・津軽三味線」な曲にしてしまうことも簡単。でも、私はいろんな世界が見たい。
09年に結成したヴァイオリンと津軽三味線のユニットhamanas(ハナマス)の活動を通じて今までよりも少し広い世界が見えてきた。このユニットの活動において自分で自分に課している密かな課題は「それはできません」と言わないこと。トライすればたいがい出来るようになるし、弾けなかった曲が弾けるようになった時の喜びは何ものにも代えがたい。
例えばヴァイオリンの速弾き曲として有名なモンティ作曲の『チャールダーシュ』。この曲に関して、早く弾くことに意味があるという相方と、ちゃんと弾きこなせないと意味がないと言うわたしの意見はぶつかった。相方は納得してくれたが、その後、わたしは自己嫌悪に陥った。新しことをしたいと言っておきながら、自分に言い訳していたのは私自身だった。楽器のせいにして逃げていたのはわたし自身だった。自分で自信を持って表現できないものに、聴いている方達が心動かされるはずがない。練習と本番を繰り返し、今ではかなりの速さで弾けるようになったし、お客様から「『チャールダーシュ』がとても良かった」という御言葉もいただくようになった。
改めて、津軽民謡がなぜこんなに人気なのかを考えると、やはり「説得力」なのではないかと思う。一音一音に説得力があれば、どんな曲であれ人の心を突き動かすことができると信じて、新たな津軽三味線の可能性を追求していこうと思う。この先、三味線をやめるつもりが全くないわたしにとって、おそらく短くはないであろう音楽人生。「NOと言わずにトライしてみる」今という時代の経験がこの先のわたしにとって、きっと大きな糧となるはず。
ここに、津軽三味線の可能性の新たな発現に果敢に挑戦し、自分の表現領域を拡張するために、試行錯誤と自問自答を繰り返している、表現者・はなわちえの内面が生々しく表出されています。はなわちえファンとしては、『チャールダーシュ』の表現をめぐる、バイオリニスト菜摘さんとちえさんとのぶつかり合いの話に一番興味を引かれるのではないでしょうか。これが、ちえさんにとって、どうやら文章を公にした初めての経験のようです。これから、どんどん書いて、文章面でも活躍してほしいものです。その可能性は大いにあるのではないでしょうか。(私は、最初の二文がやや長すぎるように感じました。「書き出しはごく短く」。これがその後に続くいい文章を導き出すコツではないかと思います。たとえば太宰治のように、「メロスは激怒した」と簡明に書き出せたなら理想的です。)
もしかしたら、今回のTVCMで、ちえさんはブレイクするのかもしれません。もともと、彼女の高度な音楽性とその音楽の大衆芸能的な庶民性とご本人の可愛いらしいルックスからすれば、いつブレイクしてもおかしくはないのです。私としては、これまでにすでにそうなっていないのが不思議なくらいです。だからそうなれば、ご本人はもちろんのこと、はなわちえファンとしても嬉しくないはずがありません。世間になるべく広く認知され、お金がたくさん入ってくるにこしたことはないのです。そのついでに、はなわちえさんの伝説のファースト・アルバム『月のうさぎ』が再発売されるといいのですが。現状では残念ながら発売中止でプレミアムが付いていて、安くても7000円前後するのです。いまのところ、私は購入のふんぎりがつきかねています。
しかしながら、ブレイクすることで彼女が浮かれて我を忘れることはないのではないかと私は思います。なぜなら、彼女が、異なる音楽ジャンルとの積極的な接触を通じて津軽三味線の表現領域を拡張するという課題を担うことについてとても自覚的な芸術家だからです。それは彼女の、表現者としての存在理由を深堀りすることでもあるし、また、津軽三味線の「流行」を追求することによって、津軽三味線そのものの「不易」を実現することでもあります。それが、ちえさんの「野望」「野心」なのではないでしょうか。彼女は、その意味で津軽三味線の伝統の流れに深く根ざした人なのです。そのことによってどれほどの恩恵に浴しているのか、彼女自身が一番よく分かっているのではないでしょうか。
ちえさんの文章にでてくる『チャールダーシュ』の演奏をご紹介しておきます。hanamasのお二人の、音楽観をめぐる「ぶつかり合い」のドラマを踏まえると、とくにhanamasファンにとっては、感慨も一入(ひとしお)なのではないでしょうか。
hanamas 2ndステージ?「チャルダッシュ」/ヘブンアーティスト in 渋谷