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美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

ブログ開設から一年経ちました  (イザ!ブログ 2013・3・20 掲載)

2013年12月10日 22時48分01秒 | ブログ主人より
私が当ブログを開設したのは、ちょうど一年前の昨年の三月二〇日でした。アクセス数は一日当たり10かせいぜい20くらいだろうと見込んでの出発でした。政治・経済・思想ネタがメインの、お固くて野暮で、文字数が膨大なブログになることが目に見えていたからです。名のある書き手ならいざ知らず、無名の書き手が偉そうにそういうネタで物を書いたらそんなものだろうと思ったのですね。

ところが喜ばしいことに、アクセス数は予想をはるかに超えることになりました。確認してみたら、丸一年間で146931です。一日平均約400。これは、原稿をブログアップしたときは500がおおむね確実である、という数字です。

それは私にとって、ささやかながらも「椿事」でありました。それで、これを活用しないのは損だと思い、信頼できる知人たちに声をかけて、「ブログ雑誌」として再スタートを切ることにしたのです。このブログの存在が、優れた書き手たちの文章が少しでも世間の目に触れるきっかけになればよいと考えたのです。私が辛口の編集者であることが影響しているのか、原稿の集まりがいまひとつなのが現状ですが、ブログを雑誌形式にできたのは、とても喜ばしいことであると今でも思っています。

思えば、この一年間は「書き手にとってもっとも大切なのは、自分の書いた文章が、水準の高い心ある読み手の目に、より多く日々触れ続けることである」という思いが確信に変わった一年間でもありました。

もっとヴィジュアルに訴えかける内容にしたり、政治的な旗色をより鮮明にしたりしたならば、もう少しアクセス数が増えるのかもしれません。前者に関しては、改善の余地なしとはしませんが、後者については、どうしても二の足を踏まざるを得ません。というのは、当ブログがモットーとする「直言」の堅持とは、「中央突破」を理想とするからです。すべての政治言説はイデオロギーとまったく無縁であることがかなわないのは避けようのない事実ではあります。だからこそ、無用の過剰なイデオロギー対立に淫することはなるべく避けたい、というのが、「中央突破」を理想とする言論人の共通の願いであると、私は考えるのです。その願いの強さが、言論の健全さを担保するのではないかと思われます。ここで、イデオロギーへの無用の過剰な加担には、ひとりの思想家や政治家を持ち上げすぎて、読み手が、書き手とそれらの存在との距離を測り兼ねる場合も含まれます。

さて、これからの一年、このブログにどういう展開があるのか、楽しみなような不安なような。読み手のみなさま、これまで見守っていただいてどうもありがとうございました。また、今後もお引き立てのほどよろしくお願い申し上げます。

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ふたたび、東京新聞の「特ダネ」は真実か ―――上念司とTPP  (イザ!ブログ 2013・3・15 掲載)

2013年12月10日 22時34分12秒 | 経済
*2010-09-07さんへ。これから、あなたのコメントの文言をあれこれと取り上げて、いろいろと申し上げますけれど、あなたのコメントにイチャモンをつけてやろうとか、やっつけてやろうとかいった不届きで攻撃的な動機はまったくありません。私の拙文に真摯なコメントをいただけたことに対しては感謝の念でいっぱいです。「TPP参加で、日本は進路を誤る」という危機感をお互い共有しているとも僭越ながら思っています。

TPPという国境を越えた大きくて複雑な問題を、ちゃんと考えるのは、けっこう難しいことです。私の反対の立場に変わりはありませんが、その難しさ・大変さをこの頃身にしみて感じ始めています。

大きくて複雑な問題だからこそ、なるべく論点をしぼって、具体的に考えなければならない、と私は考えるのです。その場合、TPPをめぐっての上念司氏の言動をどう考えるか、というのは、格好の材料になるのではないかと思うのですね。

そんなつもりですので、しばし、お付き合いくださいませ。

******

昨日ブログアップした「東京新聞の『特ダネ』は真実か」に、「2010-09-07 さん 」から次のようなコメントをいただきました。

Commented by 2010-09-07 さん

はじめまして、こんにちは。

この件に関する上念氏の主張は私も見聞きしましたが、上念氏の主張は信用するに値するのか、きわめて懐疑的であるというのが正直な感想です。

まず、ドッキング条項の実態については何も立証されていません。さらに、国会での質疑において岸田外相は、東京新聞のスクープをもとにした指摘を認めておられたはずです。この時点で決着がついているのではないでしょうか。

そもそも上念氏は、TPPに対して容認の見解を示してこられたというのが私の認識です。みんなの党を押している方でもあります。これらの認識から、日本のメディアのマイナスイメージを利用し、TPPの危険性を低く見せる意図があるのではないかという見方すら成立し得ると思います。

いずれにせよ、美津島さんのおっしゃるとおり賛成の理由にはなり得ないと思います。今後も注視したいですね。


2010-09-07さんの知的でバランスの良いコメントの中身は、痛烈な上念司批判です。

上念司氏について、私がこれまで抱いていたイメージを列挙すると、次のようなものでした。

三橋貴明氏と同じく、経済問題について分かりやすく、本質をふまえた議論の展開できる人。日銀批判の急先鋒。企業活動の現場をよく知っている人。常識人。安倍内閣成立後、「保守分断」の動きに敏感に反応してきた人。中川八洋の陰謀史観に大きな影響を受けている人。「まさに近衛内閣末期です」をキャッチ・コピーにしている人。

まとめれば、陰謀史観的な物言いがやや気になるが、一貫した日銀批判は評価すべきである、となりましょうか。

だから、2010-09-07さんの「日本のメディアのマイナスイメージを利用し、TPPの危険性を低く見せる意図があるのではないかという見方すら成立し得る」という視点に、はっとさせられたのですね。そうして、考え込んでしまったのです。

そもそもの話に戻りましょう。安倍政権成立までは、上念司氏・三橋貴明氏・藤井聡氏・中野剛志氏などはいわばゆるやかな共闘関係にあったのではないかと思われます。彼らは、同政権成立とアベノミクスの影の功労者である、とさえ私は思っています。なんといっても、彼らのバイタリティはすごいですからね。

ところが、安倍政権が発足し、アベノミクスが現実に展開しはじめると、「戦時」からいわば「平時」に移行するわけですから、それぞれのモノの考え方の違いが目立ってくるのは、当たり前といえば当たり前のことでしょう。

この四人のなかで、戦後レジームからの脱却という課題を最も深刻に受け止めているのは、おそらく中野剛志氏でしょう。それに続くのが、藤井聡氏でしょう。その点、三橋氏と上念氏はそれほど深く思うところはないような気がします。

つまり、三橋氏と上念氏は、ほかの二人と違って、政治を語るにしても、経済問題に対するリアリズムをベースにしているような印象を受けます。もちろん、それはほかの二人にもなくはないのですが、政治に関心のウェイトがかかっている感じは否めないのではないでしょうか。

では、三橋氏と上念氏の大きな違いは何なのでしょう。それは、端的にデフレの定義の仕方に表れています。三橋氏は「デフレとは、ありあまる生産能力と現実の有効需要の差、すなわちデフレギャップのこと」と定義します。それに対して、上念氏は「モノの価値よりもおカネの価値が大きい現象」と定義します。

だから、三橋氏は、デフレからの脱却のために、積極的な財政出動、平たく言えば公共事業の積極展開を強調します。それに対して、上念氏は、おカネの価値を低くするために大胆な量的緩和こそがデフレからの脱却をもたらす、と金融政策の重要性を強調します。

しかしながら、彼らはリアリストですから、アベノミクス擁護の立場から、積極財政と大胆な金融緩和とのパッケージを肯定します。頭でっかちの学者とは、そこのところが違います。

それにしても、それぞれの力点の置き方の違いは、国家観の違いに微妙な影を落としているように、私には感じられます。

財政政策、すなわち国民経済への政府の直接介入を強調する三橋氏の方が、上念氏よりも「国家の枠」を強く意識している、ということです。

だから三橋氏は、TPPを国家主権をおびやかすものとして大きく問題にします。それに比べれば、上念氏のTPP反対のトーンがかなり低く感じられるのは事実です。というよりむしろ、TPPに関して、上念氏が旗色鮮明な論陣を張ったことはない、というべきなのでしょう。おそらくその印象が、2010-09-07さんの「上念氏は、TPPに対して容認の見解を示してこられた」という認識につながるのではないでしょうか。

では、上念氏の正体は「隠れTPP推進派」なのでしょうか。次は、「H25.03.13 上念司 ザ・ボイス そこまで言うか!」というタイトルのyou tube です。どうぞ、ご視聴ください。最初から6分3秒までが、TPP関連の発言です。


当該you tube は、現段階では削除されています。2013・12・10)

いかがでしょうか。上念氏が積極的な反対派として発言していないのは確かです。しかしながら、積極的なTPP反対派である私の耳に、彼の発言は「TPPに反対するなら、日本国内で孤立して頑張っていても効果は薄いよ。もっと視野を拡げて、アメリカ国内のTPPをめぐる具体的な動向を踏まえましょう。そうすれば、推進派がふりまく『アメリカは、自動車以外TPP推進の一枚岩』というイメージが幻想に過ぎないことが分かると思うよ。アメリカの99%と共闘を組む道を探ることも考えてみましょうね。だから、反TPPに反米の情念を重ねるのは意味のないことだよ」と聞こえます。これはこれで貴重な情報であると私は考えるのですがいかがでしょうか。それこそ、情念的国粋主義的な反TPP派の言葉より断然聴き応えのある発言なのではないでしょうか。そういう有用な発言をする人を、反対派か容認派か推進派かという色分けの対象にするのは、どうも気が進みません。

「ドッキング条項の実態については何も立証されていません」。これは、その通りであると思います。インターネットで「ドッキング条項」を検索してみましたが、見当たりませんでした。おそらく日本では、上念氏がはじめて使った言葉なのではないでしょうか。だから、私の能力ではそれ以上なにも言えなくなります。

「国会での質疑において岸田外相は、東京新聞のスクープをもとにした指摘を認めておられたはず」。これは、微妙です。You tube に該当する場面があるのでご覧ください。タイトルは「2013/03/08 衆議院 予算委員会 日本維新の会 松野頼久の質疑」です。


2013/03/08 衆議院 予算委員会 日本維新の会 松野頼久の質疑


松野議員の執拗な追及を、岸田外相も安倍首相も、のらりくらりとかわし続けて、言質を取られることをまぬがれています。しかしながらなんとなく、日本も実は、メキシコやカナダと同じ不利な条件を呑まされている印象が残りました。限りなく怪しいのは確かなのですが、政府は東京新聞のスクープを認めるところまでには至っていませんね。だから、「決着がついている」とは言い切れないのではないでしょうか(第二信・第三信をいただいているので、2010-09-07さん、ここはこれくらいでいいですね。ここの私の発言は岸田外相の発言内容を知らない一般向けということでご容赦ください)。

最後に、上念氏の支持政党について。2010-09-07さんによれば、上念氏はみんなの党を支持しているとのこと。リフレ派を自称する上念氏が、みんなの党に一定の親和感を抱いているのは間違いないでしょうね。しかしながら、ちゃんねる桜の討論番組で、上念氏は、先の衆議院選での自民党の圧勝を受けて「これから私は、御用評論家ですから」と何度も言っているのです。

ようするに、彼は、みんなの党支持者というよりも、リフレ派としての自分の、金融政策にまつわる信条(デフレ脱却のための大胆な金融緩和)を実現してくれる政党ならなんでもいいという功利主義あるいは是々非々の立場なのではないかと思うのですね。いかがでしょうか。ちなみに、私はリフレ派を許容する国民経済派と自分のことを思っています。日本国民の間に悪意に満ちた対立軸を持ち込んで、その分断を図り日本の弱体化を目論む勢力が敵であると思っている者です。国民経済に過激な競争原理を持ち込もうとする構造改革派や市場原理主義者は、もちろんそういう「敵」であります。

*****

2010-09-07さん。私の返事はこんなところです。上念氏についてこんな考え方をする反TPP論者もいるのだと、思っていただければ幸いです。むろん、あなたの「日本のメディアへの不信感を利用した上、不明確なハフィントンのソースを引用してTPPへの警戒心を解こうとする言動に対して強い不信感を持つという私の見解は変わりありません」という考え方は尊重します。その可能性もゼロとは断言できませんので。それが判明した段階で、私はあなたに素直に脱帽します。

〔追伸〕「TPPに限って交渉参加したらいきなり発効」なんて議論は、初耳です。そんな馬鹿な、としか取りあえず反応のしようがありません。TPPは条約でしょう?国会の承認抜きに発効なんて、いくらなんでもありえないのでは?情報ソースが判明しないと、確かにそれ以上のことは言えませんね。ここでの上念氏はやや軽率な感じがします。


〔コメント〕

Commented by 2010-09-07 さん
こんにちは。丁寧な検証記事と御返信、ありがとうございます。

上念氏、三橋氏、藤井氏、中野氏それぞれを取り巻く枠やバランス、そういったものに対する美津島さんの認識はすごくよくわかります。モノとカネに対する違いもおっしゃるとおりですね。理論や範囲、そして人品骨柄が、明確に、主張にあらわれていると思います。

以下に私が考えたことを素直に書かせていただきます。(私が正しいと主張しているわけではありません)

まず、容認派か否かという点。おっしゃるように区分けするのはよくないかもしれませんね。その上で、稚拙ながら私が考えたことは

上念氏のTPPに関する発信を見ますと、TPP反対派の主張(危険性)に対するアンチテーゼに偏っていると思われます。海外の動向にも視野を広げるべきであるとの点はおっしゃるとおりですが、廣宮氏などは、同じく海外の動向を挙げつつ主として懸念材料を示されます。「情報を取得し、何を主として発信するか」にはその人の意思やスタンスが反映されると考えます。「マスコミフィルター」などがよい例でしょうか。あくまで私の見聞きした範囲ですが、上念氏が積極的に危険性を論じられた印象はなく、危険性に対するアンチテーゼが主であるとのことから、私は容認派ではないかと考えてきました。

加えて、反省すべき点は言葉足らずであったことです。私は上念氏の功績は大きいと考えます。日銀の件、金融緩和の解説などは言うまでもありません。にもかかわらず、前回記事のコメントは批判のみ、陰謀論的なものまで(あくまで「成立し得る」ですが)発出してしまいました。例えば○○を肯定する文を見て「危険性も併記してよ」などと思ってしまうのですが、非常に不十分な表現でした。気をつけたく思います。

その他、思うことはあるのですが、うまく表現できない部分もあります。時間的制約や文章の長さの問題もありますので、このあたりで切り上げさせていただきます。

言葉とは本当に難しいですね。やりとりを通じて改めて痛感しました。美津島さんの柔軟な考え方や俯瞰での視点、非常に参考になります。私の硬直的な部分について顧みることもでき、反省材料もいただきました。考えを深めるきっかけにもなり、非常に楽しかったです。重ねまして、ありがとうございました。

Commented by 美津島明 さん
To 2010-09-07さん

2010-09-07さんのおかげで、上念司氏の発言を受けとめる新たな視点を持つことができました。オピニオン・リーダーの発言を冷静に受けとめて、自分なりに咀嚼することはとても大切なことですね。それに気づかせていただいたことを感謝します。
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東京新聞のTPP「特ダネ」は真実か (イザ!ブログ 2013・3・14 掲載)

2013年12月10日 22時27分43秒 | 経済
昨日、私が取り上げた東京新聞の「特ダネ」を、三橋経済新聞で、上念司さんが早速取り上げています。

上念司@大門オフィス  3月14日

「東京新聞の報道はウソか、ホントか?」

先週の国会で以下の記事が話題になりました。

〈TPP参加に極秘条件 後発国、再交渉できず〉
 環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加問題で、二〇一一年十一月に後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた九カ国から「交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある」「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」などと、極めて不利な追加条件を承諾した上で参加を認められていた。複数の外交関係筋への取材で七日分かった。
www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013030702000237.ht...
これが事実だとしたら大変なことで、さっそく維新の会の松野頼三議員が予算委員会で質問しました。

〈TPP後発国に不利条件 首相 説明は後ろ向き〉
環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加に関連し、後から交渉に参加したカナダとメキシコが著しく不利な交渉条件を求められた問題が、八日の衆院予算委員会で論戦の主要テーマになった。野党側が事実関係の公表を求めたのに対し、安倍晋三首相らは終始、後ろ向きな姿勢。TPPは国民生活を大きく変える可能性のある重要な課題なのに、首相は説明責任を軽視したまま、交渉参加表明に踏み切ろうとしている。(金杉貴雄、関口克己)
www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013030902000165.htm...
さて、ここで普段からマスコミの謀略報道になれているみなさんは、どのように考えますか?
私が真っ先に考えたのは、どうすればこの情報の裏が取れるかということです。
いちばん簡単なのは海外のメディアや関係機関のサイトを片っ端からチェックして、この東京新聞の「特ダネ」を証明する事実がないか探すことです。
今は、インターネットが発達したのでこういうことが自宅で簡単にできるようになりました。しかも、今回はtwitterのフォロワーさんからの情報により、3月10日付のハフィントンポストの記事にいとも簡単にたどり着いてしまいました。

The Trans-Pacific Partnership Would Destroy our National Sovereignty
In his State of the Union address, President Obama declared in his intent to complete negotiations for a Trans-Pacific Partnership (TPP). The Obama administration has pursued the TPP through the offices of U.S. Trade Representative Ron Kirk instead of under the auspices of the Department of State.
This was the first time negotiations to create a free trade zone with Pacific Rim countries were made public although 15 rounds have been concluded.
Eleven nations are participating: Australia, Brunei, Canada, Chile, Malaysia, Mexico, New Zealand, Peru, Singapore, the United States and Vietnam. Although Japan and China are not presently participating in TPP negotiations, "docking provisions" being written into the TPP draft agreement would permit either Japan or China to join the TPP at a later date without suffering any disadvantage.
http://www.huffingtonpost.com/michele-nashhoff/the-transpacific-partne...

(上念によるざっくり翻訳)
〈TPPは国家の主権を侵害しかねない〉
オバマ大統領は一般教書演説で、TPP交渉妥結に向けた意欲を示した。 オバマ政権は、これまで国務省ではなく米通商代表部のロン・カーク氏を通じてにTPPを推し進めてきた。
これはすでに15回の会合を経てきた環太平洋諸国と自由貿易ゾーンを作る初めての交渉であった。(この交渉には)11カ国が参加している:オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナム。しかし、日本と中国は現在、TPP交渉に参加していない。とはいえ、TPPの協定案に書き込まれる「ドッキング条項」によって日本や中国のどちらも不利益を被ることなく、後日TPPへの参加が可能になるだろう。

ということで、アメリカのいわゆるリベラルな左系メディアの雄、ハフィントンポストはTPPを思いっきり批判しております。
日本や中国が入ってくれば益々アメリカの労働者が仕事を奪われるのではないか、しかも、会社が政府を直接訴える権利を認めるなってトンデモない!と憤慨しております。
ここは面白いのでぜひみなさんでお読みいただき、ハフィントンポストを応援してほしいのですが、今日指摘したいのはその前段です。
この部分をもう一度よく読んでみましょう。

"docking provisions" being written into the TPP draft agreement would permit either Japan or China to join the TPP at a later date without suffering any disadvantage.
TPPの協定案に書き込まれる「ドッキング条項」によって日本や中国のどちらも不利益を被ることなく、後日TPPへの参加が可能になるだろう。

ハフィントンポストの「敵」はグローバル資本主義です。
「敵」はTPPをよりグローバルで包括的な協定にするために、日本や中国に甘い条件を出して交渉に引き込もうとしていると批判している訳です。

でも、ちょっと待って下さい。
このハフィントンポストの指摘は、東京新聞の「特ダネ」と完全に矛盾しているではありませんか!

一体どっちが本当なんでしょう?
ということで、この問題については情報が錯綜し過ぎなので、特に日本のメディアが垂れながす「特ダネ」には要注意です。

これぞまさに危機管理ですね。


というわけで、東京新聞の記事は少なくとも鵜呑みにできないものであることが判明しました(虚報である、とまでは現段階では断定できません)。にもかかわらず、鵜呑みにして文章を書いた自分が迂闊であったことを、ここに反省します。

ただし上記の引用は、TPP交渉参加に反対する理由にはなっても賛成する理由にはなりません。ハフィントンポストが主張するとおり、TPPの本質がグローバル資本主義の世界戦略にあるのだとすれば、それに日本が自分からのこのこと出かけて行って巻き込まれるのはとんでもない、ということなるものと思われるからです。軽挙妄動の最たるものと形容するよりほかはありません。

間違っても、みんなの党や維新の会のようなハードな推進派が主張するように、「自由貿易はとにかくすばらしいのだから、あらゆる悪条件を呑んでもTPPには参加すべき」とはなりませんね。原理主義的な自由貿易推進論者の発言は、私からすれば、常軌を逸しているとしか思えません。彼らは、アダム・スミスを自由貿易論の元祖のように言い募りたがります。しかし、スミスは当時、国富のなんたるかを解しない重商主義への対抗上、自由貿易の肩を持とうとしたのであって、無条件に自由貿易を肯定したわけではありません。国富を増やすかぎりにおいて自由貿易を認めたにすぎないのです。スミスは、いまの自由貿易原理主義者たちとは、その立場を全く異にするのです。彼らは、国富(国益)を犠牲にしても、TPPは自由貿易なのだからとにかく推進すべきである、と言い張っているのです。愚の骨頂であります。

話を戻しましょう。

どう転んでも、TPPがろくでもないものであることに変わりはないようです。実のところ、それが常識になっていない現状が、私にはどこか解せません。TPPのどこがそんなにいいのでしょうか。だれか、教えてくれませんか。
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日本がTPP交渉に参加するメリットは、やはりない  (イザ!ブログ 2013・3・13 掲載)

2013年12月10日 22時17分45秒 | 外交
最近、TPPの問題点をめぐって、東京新聞が頑張っています。どうした風の吹き回しでしょう。

TPP参加に極秘条件 後発国、再交渉できず」2013年3月7日

環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加問題で、二〇一一年十一月に
後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた九カ国から「交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある」「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」などと、極めて不利な追加条件を承諾した上で参加を認められていた。複数の外交関係筋への取材で七日分かった。

各国は今年中の交渉妥結を目指しており日本が後れて参加した場合もカナダなどと同様に交渉権を著しく制限されるのは必至だ。

関係筋によると、カナダ、メキシコ両政府は交渉条件をのんだ念書(レター)を極秘扱いしている。交渉全体を遅らせないために、後から参加する国には不利な条件を要求する内容だ。後から入る国は参加表明した後に、先発の国とレターを取り交わす。

カナダなどは交渉終結権を手放したことによって、新たなルールづくりの協議で先発九カ国が交渉をまとめようとした際に、拒否権を持てなくなる。


交渉参加に前向きな安倍晋三首相は、「『聖域なき関税撤廃』が前提ではないことが明確になった」と繰り返しているが、政府はカナダとメキシコが突きつけられた厳しい条件を明らかにしていない。日本がこうした条件をのんで参加した場合、「聖域」の確保が保証されない懸念が生じる。

カナダ、メキシコも一部の農産品を関税で守りたい立場で、日本と置かれた状況は似ている。国内農家の反対を押し切り、対等な交渉権を手放してまでTPPの交渉参加に踏み切ったのは、貿易相手国として魅力的な日本の参加とアジア市場の開拓を見据えているからとみられる。

先にTPPに参加した米国など九カ国は交渉を期限どおり有利に進めるため、カナダなど後発の参加国を「最恵国待遇」が受けられない、不利な立場の扱いにしたとみられる。

<TPP交渉参加国> 2006年、「P4」と呼ばれたシンガポールとニュージーランド、チリ、ブルネイによる4カ国の経済連携協定(EPA)が発効。これに米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが10年に加わり、9カ国に拡大した。その後、カナダとメキシコも参加を表明し、12年10月の協議から11カ国で交渉している。   (東京新聞)

政府がこの報道を否定していないところをみると、どうやら事実であるらしい。

また、TPP交渉参加を煽り続けてきた大手五大紙が、東京新聞の当報道に真正面から触れようとしないのは想定内と言えるでしょう。まったくもって、絵に描いたような売国奴ぶりです。

私は、当報道を目にするずっと前からTPP交渉参加に反対してきました。当報道に接することで、その思いはさらに強くなりました。

TPP交渉参加推進派の言い草のひとつは、「TPP交渉になるべく早く参加して、日本は自国に有利な条件を勝ち取ればいい」ですね。当報道は、その論拠を木っ端微塵にしてしまいました

日本がこれから交渉に参加しても、カナダやメキシコと同じ条件を呑まされるのは目に見えています。とするならば、日本が自国に有利な条件を勝ち取るための土俵そのものが鼻っから奪われた形で交渉に臨むことを日本は強いられるのです。というか、こんなやり方は交渉でもなんでもない。最有力国のアメリカの「日本はしのこの言っていないで、アメリカ(グローバル企業)の財布になってればいいの」という本音が透けて見えますね。

東京新聞・TPP爆弾記事第二弾をお読みください。

TPP協定素案 7月まで閲覧できず  2013年3月13日

環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、日本が交渉参加を近く正式表明した場合でも、参加国と認められるまでの三カ月以上、政府は協定条文の素案や、これまでの交渉経過を閲覧できないことが分かった。複数の交渉関係筋が十二日、明らかにした。

オバマ米政権が「年内妥結」を目指し各国が交渉を進展させる中で、日本が交渉の詳細情報を得られるのは、最速でも三カ月以上たった七月ごろ。正確な情報を得るのが遅れ、日本が不利な状況で交渉を迫られるのは確実で、貿易や投資、各国共通の規制のルール作りに日本側の主張を反映させる余地がますます限られてくる。

交渉筋によると、正式に参加国と認められた段階で閲覧できるのは、各国がこれまでに協議して決めた協定の素案や、各国の提案、説明資料、交渉に関わるEメールなどで、数千ページにのぼる。参加国以外には公表しない取り決めになっている。

日本政府は協議対象となる輸入品にかける税金(関税)の撤廃や削減、食品の安全基準のルール作りなど二十一分野で関係省庁が個別に情報収集しているが、交渉の正確な内容を入手できていない。ある交渉担当者は、日本側の関心分野の多くは「参加国となって文書を見られるまで、正式には内容が分からないところがある」と述べた。

日本が参加国と認められるには、各国の承認が必要で、米国の例では議会の承認を得るために最低九十日は必要な仕組みになっている。安倍晋三首相が近く参加表明した場合でも、五月に南米ペルーで開く第十七回交渉会合に、日本は傍聴者(オブザーバー)としても参加できない。

シンガポールで十三日まで開催中のTPP第十六回交渉会合で情報収集する日本の非政府組織(NGO)アジア太平洋資料センターはじめ、米国、ニュージーランドの市民団体によると、米国の交渉担当官は会合で「日本には正式な参加国になる前に一切の素案や交渉経緯を見せられない」と各国交渉官に念押しした。さらに、「日本には一切の議論の蒸し返しは許さず、協定素案の字句の訂正も許さない」と述べた。  (東京新聞)


自民党の、TPPに関する六つの基本方針をあたらめて掲げましょう。これらが妥当な方針であることは論を俟ちません。

(1)政府が「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り交渉参加に反対する。
(2)自由貿易の理念に反する自動車などの工業製品の数値目標は受け入れない。
(3)国民皆保険制度を守る。
(4)食の安全安心の基準を守る。
(5)国の主権を損なうような投資家・国家訴訟(ISD)条項は合意しない。
(6)政府調達・金融サービスなどは、わが国の特性を踏まえる。

交渉の中身がいまのところ明らかにされていないし、これからも当分明らかにされない状況が続く以上、現状ではこれらの六条件を貫くことができるのかどうかまったく不明です。明らかにされた後、もしもこれらの六条件に抵触するような協定素案があったとしても、日本側がそれを変更しうる可能性はまったくありません。日本は、どんな素案であってもしぶしぶ丸呑みするよりほかはないのです。

こういうものをふつうはギャンブルと言います。それもただのギャンブルではなく、負ける可能性が極めて高いギャンブルです。そういう悪質なものに対しては、「君子危うきに近寄らず」の態度で臨むのが良識なのではありませんか。日米同盟を強化するために、歴史的に長い時間をかけて育んできた「お国柄」を破壊するのは賢い振る舞いとは言えません。ギブ・アンド・テイクのギブとテイクが、等号で結ばれるのではなく、ギブ>テイクとなるのです。というのは、国を守るためにこそ日米同盟を強化するのでしょうが、「お国柄」は、守るべき国の核心部分であるからです。アメリカに国を守ってもらうために、守るべき国の核心部分を差し出すのは、なんとも不合理なことだとは思われませんか。属国根性ここに極まれり、の思いが去来します。「非関税障壁の撤廃」とは、要するに、「お国柄」を破壊することなのです。それに加えて、ISD条項やラチェット条項によって、「お国柄」の破壊が永続化・固定化される危険性が現実のものとなってきました。 

自然環境を守ることも大切ですが、「お国柄」という名の社会環境を守ることも、社会的動物としての人間にとって、極めて大切なのではないでしょうか。そういう視点を根底に織り込んだ「理性的なナショナリズム」を自分のものにすることが、いまや強く求められているのではないでしょうか。

明日十五日にも、安倍首相はTPP交渉参加を表明する形勢です。それが「日本を取り戻す」こととは正反対の意思決定であることを、私は言明しておきます。首相の心中が穏やかなものでないことを信じよう、とは思っています。
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美津島明 落語を見に行く   (イザ!ブログ 2013・3・7 掲載)

2013年12月10日 22時06分39秒 | 文化
一昨日は、年上の友人Iさんに誘われて落語を見に行ってきました。場所は、小田急線成城学園前駅から歩いて数分の成城ホール。出演者とその演目は、次の通り。

柳亭市馬 うどん屋
三游亭兼好 崇徳院
瀧川鯉昇(りしょう)長屋の花見



 兼好                 市馬                   鯉昇

一流の噺家の落語を二時間堪能して、締めて3500円。これは、お得です。一番面白かったのは、兼好師匠の「崇徳院」でした(ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B4%87%E5%BE%B3%E9%99%A2_(%E8%90%BD%E8%AA%9E)。素材の良さと、兼好師匠の滑舌力に富んだテンポの良い話しっぷりとが合致していたのでしょう。

それと、鯉昇師匠の、地べたに吸い付くようなお辞儀の仕方と、本題に入るまでの脱力系のユーモアにあふれた話しっぷりの印象が鮮烈に残りました。市場師匠の、ゆるいテンポの味のある語りも捨てがたい。

もの書きの端くれとして彼らに感心するのは、演目が設定する江戸時代に入るまでの、話の持っていきかたが絶妙であることです。江戸時代にいまの風俗をあえて取り入れることだってあります。いまと当時とを自然につなぎ、聴き手の心理を自由自在に操る才に、落語家たちは恵まれているのですね。これは、一朝一夕で身に付けたものではないでしょう。なんとかしてその呼吸を盗み取りたいものだと、所詮はかなわぬ夢を抱いております。

私が落語を見に行ったのは、これで二回目です。前回は、柳家喜多八師匠を見ました。場所は、銀座の博品館でした。ふたつ演目がありましたが、「黄金の大黒」(senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2005/02/post_9.html)がとても印象に残っています。長屋の住人たちの演じ分けが鮮やかだったのですね。喜多八師匠は、ちょっといい感じの若い女性がひとりで見に来るほどの、粋でダンディなおっさんではありました。彼の「落語は、ガキには分からねぇ」というセリフが、すとんと腑に落ちましたね。


喜多八

落語家の話っぷりに心を寄せていると、笑いながらなぜかしら涙がにじみでてしまう。オレは感覚がおかしいのか、とひそかにいぶかしく思ったのではありますが、ご一緒した友人も同じような感慨を漏らしたので、ああやはりそうなのかと安心した次第です。口はばったい言い方になりますが、落語の味は人生の味に通じるようです。面白うて やがて悲しき 鵜飼かな。

まだ落語を見に行ったことのないあなた。もしくは、テレビで落語を観て「たかだか、あんなもの」とたかをくくっているあなた。騙されたと思って、とにかく一度だけでもいいから、ライヴで見てみてください。認識を新たになさること請け合いです。映画は映画館で、落語はライヴで。恋は語るものではなく、あくまでもすること、にどこかで通じるようで。

落語が終わった後、Iさんと駅界隈の一杯飲み屋に入りました。三〇年間続いている飲み屋、とのこと。ブタのレバー刺がとても美味しかった。店をお休みにする土日は、わざわざ遠くの市場までブタレバーを仕入れに行くそうで。杯を重ねながら友人となんだかとても心地よくお話できたのは、半ば以上、当夜に聴いた上質の落語のおかげだったのでしょう。
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