ハイカーズ・ブログ(徘徊者備録)

「あなたの趣味はなんですか?」
「はい、散歩です」

「こうなる前からですか?」
「いいえ」

杖の起源?

2010-03-15 11:19:30 | 杖道
葛城山と金剛山の間に、少し窪んだ箇所がある。
そこが河内に通じる水越峠である。点在する民家を過ぎると急に道が狭くなる。
その先から峠道は大きくうねり曲がる。
捨和尚のぼろ庵は、その曲がった辺りから皿に四半里ほど北に入った山中にある。近づくと、樹間を縫って鋭い気合が耳に入ってきた。庵の前で捨和尚が、手にした一本の木の枝で辺りの空気を切り裂いていた。
激しい気合が迸ると同時に、気配が音を立てて裂かれる。
捨流杖術であった。


「小太郎、この棒をもってみい!」
「その棒の真ん中を握れ。これからわしがやって見せるから、よく目の底に焼き付けておくんじゃ」
捨和尚は、いつの間にか自分も棒を手にしていた。
その中ほどを握ると、す、すっと前に出た。
滑る様な動きだ。
背筋も伸び、視線は鋭く前方に立つ木々を見つめている。
「キエーッ!」
怪鳥のような気合が、捨和尚の口を突いてでた。と同時に、捨和尚の足が大地を蹴っていた。
一瞬の鈍い音が静寂の中に起こり、四本の木の枝が同時に落下した。
和尚の棒は一瞬で四つの動きをしたことになる。
しかも、生木の枝を落としたのだ。あれが人間なら、間違いなく脳天を砕かれていた。

「よいか小太郎。お前の握っておるのはたった一本の棒でしかないが、それは腕のひねり一つでたちまち二本になり、また四本になる。これが捨流杖術じゃ。今見たことを決して忘れず修業せい」


婆娑羅太平記 現世浄土 黒須紀一郎 より