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物す屋です
誰にでも忘れられない人や
忘れられない恋のひとりやひとつ
持っているものなのでしょうか
「五月生まれのT」のうち
一人めのその人のことを
今でも毎日のように
というより毎日毎日思い返しています
忘れたことはありません
その頃のくせが抜けなくて
今でも毎晩欠かすことなく
携帯電話を枕元に並べては
毎晩夜中に目が覚めて
来るはずのないメールの受信ランプを
確認したりしています
もちろん
来るはずがないのは
その人からのメールで
ほかの人からのメールに顔を赤らめたり
思わず布団の上で笑みがこぼれたりするときもある
そうしていながらも
そうしているにもかかわらず
そうしたりすればするほど
その人のことを思い出してみたりしています
取り立てて
別れ話があったわけでも
けんかの仲直りができないままでも
なかったはずなのに
お互いに
連絡を取り合わなくなったのが
どうしてだったのか
まるで思い出せません
その人とのあいだに流れた
メールの数々が
3つの携帯電話と1つのピッチ
今でも充電さえすれば
読み返すことのできる幾千もの言葉
それを
捨てることもできず
かといって
見かえすこともせず
ボックスに閉じ込めたままにしています
今でも
声を聞きたいと思えばきっと聞くこともできるし
メールを送れば返事も戻ってくるかもしれない
もしかしたら
そう思いながら待ってくれているかもしれないし
もしかしたら
そう思ってもみないかもしれないし
それはわからない
取り戻したいのか
復活させたいのか
それさえもわからなくなりました
でも・・・
忘れたくないのかもしれません
あのとき
きっと後にも先にもあのときくらい
一途にひとりの人のことばかりを
自分のなかに置いて過ごした日々は
ないと思うから
きっと懸命だった自分を
忘れたくないのかもしれません
ただそれだけのことかもしれません
数年前の自分を思い起こそうとしてもおぼろげなのに
その人とのことを通せば
ありありといきいきと
そのときの自分が甦ってくるのは
なんだかとても不思議な話です