【毎日新聞 ワシントン西田進一郎】オバマ米大統領は5日、ホワイトハウスで演説し、銃販売の規制を強化する包括的な対策を発表して国民に理解を求めた。オバマ氏は「議会の動きを待てない」として、全ての銃販売業者に免許の取得と購入者への身元調査を義務づけることなどを議会の承認が必要ない大統領権限で実施すると説明。銃乱射事件の被害児童などに触れ、涙を流しながら銃規制強化の必要性を訴えた。
そのうえで、規制強化の提案を拒否してきた野党・共和党主導の議会を批判。強力なロビー活動を続ける全米ライフル協会(NRA)を念頭に「銃ロビー(団体)は議会を人質にとっても、米国を人質にとることはできない」と対決姿勢を鮮明にし、大統領権限で取り組む決意を表明した。
具体的には、全ての銃器販売業者に対し、免許の取得と購入者への身元調査を義務づける。現在は店舗型の販売業者は免許を取得し、身元調査を実施しているが、銃器見本市やインターネットを通じた販売などは「抜け道」となっていた。これをふさぎ、より多くの銃器売買が身元調査を経たうえで行われるようにする。
また、米連邦捜査局(FBI)の審査担当者らを230人増員し、「時代遅れ」の身元調査の仕組みをより効果的、効率的にして改めて実施。さらに、司法省内の取り締まり機関の検査官らも増員し、業者には流通過程での銃の紛失や盗難の届け出も求めるなどとした。
犯罪履歴や精神疾患などの情報も入手した身元調査で、持つべきではない人の手に銃器が渡らないようにするのが狙いだ。しかし、新たな法による裏付けのない今回の措置で、インターネットを通じた個人的売買で取引されている大量の銃器を身元調査の対象にできるかどうかは不透明だ。
オバマ氏は演説の後半、銃乱射事件が「侵されざるべき生命、自由及び幸福の追求に対する権利」を奪ってきたと強調。2012年に東部コネティカット州の小学校で児童ら26人が死亡した事件に触れ「そうした子供たちのことを考えるたびに怒りがこみ上げる」と涙を拭いながら訴え、不退転の決意で銃規制に取り組む考えを示した。
これに対し、共和党は「自由を損なう脅しの一種だ」(ライアン下院議長)などと猛反発している。11月の大統領選に向けた候補者指名争いで首位の不動産王トランプ氏や、2位のクルーズ上院議員などは規制強化を批判し、自身が当選すればすぐ元に戻すと主張。同党を支持するNRAは声明で「米国民には事実の裏付けを完全に欠いた感情的で恩着せがましい講義は必要ない」と演説を酷評し、銃を所持する権利の擁護に向けた活動を続けると対決姿勢を示した。
一方、民主党の候補者指名争いで首位を走るクリントン前国務長官はツイッターで「銃暴力対策で重要な一歩を踏み出した大統領に感謝する」と支持を表明した。銃規制の強化を巡る意見は両党で大きく分かれており、大統領選でも争点の一つになりそうだ。