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水道の次は国有林。

2019年03月01日 | 社会・経済

水道の次は国有林コンセッション。日本の森林はどうなる?

 Yahoo!ニュース 2/27(水)

   橋本淳司  | 水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表

 

地球温暖化防止、災害防止のため

 Yahoo!ニュース記事「住民税に1000円加算される森林環境税とは何か?」で書いたように、2月15日、衆議院本会議で安倍晋三首相は日本の森林について、以下のように述べた。

「森林バンクも活用し、森林整備をしっかりと加速させてまいります。その際、地域の自然条件等に応じて、針葉樹だけでなく、広葉樹が混じった森づくりも進めます。新たに創設する、森林環境税・譲与税も活用し、こうした政策を推し進め、次世代へ豊かな森林を引き継いでまいります」

 新設された森林環境税・譲与税は、地球温暖化防止や災害防止を図るための地方財源。全国の市町村が有効に活用し、これまで手入れができていなかった森林の整備が進むと期待されている。

 もしあなたが都市に住んでいたら関係ないだろうか。税金を納めるだけで恩恵はないだろうか。

 いや、そんなことはない。森林がほとんどない都市部であっても、同じ流域(降った雨が1つの川の流れに収れんする場所)にある自治体の木材を活用すれば、上流部の森林を下支えすることができる。それは自分たちが安全な水を確保し、水災害を緩和することにつながる。

 流域上流部の森林づくりに、下流部の都市住民が参加することで、新たな連携が生まれるのは好ましい。上下流が連携して流域の水循環の健全化を図ることができる。

 森林環境税・譲与税の使途についてまとめると、

1.間伐(混み合っている森林の一部を取り去ること)や路網(森林内にある公道、林道、作業道の総称)などの森林整備

2.森林整備を促進するための人材育成・担い手の確保

3.木材利用の促進や普及啓発

 とされ、税を活用するときには、国民全体に対して説明責任を果たすこと、とされている。地球温暖化防止、災害防止のために使用され、どのように使うか(使ったか)もきちんと説明されるなら、何も問題はないと思う人も多いだろう。

新たな森林管理システムとは何か?

 安倍首相は前述の答弁の冒頭に「わが国の森林は、戦後植林されたものが本格的な利用期を迎えていますが、十分に利用されず」と述べている。これは「木を切って利用する」という意思表示である。

 じつは合わせて考えておきたいことがある。それは「新たな森林管理システム」。森林環境税・譲与税は、この新たなシステムを実行するための財源という側面をもっている。

 新たなシステムとは

1.森林所有者に適切な森林管理を促すため、適時に伐採、造林、保育を実施するという森林所有者の責務を明確化する

2.森林所有者自らが森林管理できない場合には、その森林を市町村に委ねる

3.経済ベースにのる森林については、意欲と能力のある林業経営者に経営を再委託する

4.自然的条件から見て経済ベースでの森林管理を行うことが困難な森林等については、市町村が公的に管理を行う'''

 と説明されている。

 同時に森林管理に関する法律も改正されている。

 その第1弾は、個人が所有する森林、すなわち民有林に関するものだ。昨年、森林経営管理法が成立し、今年4月から施行される。

 これらは基本的に、民有林の所有権と管理権を分離し、森林整備を進めやすくしようというもの。森林環境税・譲与税を使って、森林整備を行なうこともできる。長年放置されていたり、所有者不明でいつ崩れるかもしれな森林を整備するには有効だろう。

 しかし、この法律では森林の所有者に「伐採の責務」を課している。そのうえで、

1.伐採しない所有者は、「森林経営の意欲がない」と決め、市町村が伐採計画を立てる

2.新設された経営管理権によって集積する

3.もうかる森林は「規模拡大の意欲がある事業体」に再委託する

4.もうからないところは市町村が責任を負う

所有者の意に反して木が切られはしないか?

 すなわち自治体が森林所有者の経営状況をチェックし、「きちんと管理(じつは伐採)する意思がない」と見なすと、企業に委託して伐採できることになる。

 だが、伐採の時期が来たからといって、所有者全員が「木を切りたい」と考えているわけではないだろう。「100年の森に育てたい」「天然林に戻したい」と考える所有者はいる。そのような場合でも所有者の同意なしで、伐採したり、路網をつくったりすることが可能と考えられる。

 安倍首相が発言しているように、基本的には森林の伐採を促す法律であり、伐採のために税金が投入される可能性がある。すると次のような懸念が生じる。

 ・他人の山を儲けのネタとしか考えない業者がやってくる

 ・儲けになりそうもない所には見向きもしない

 ・本来は天然林に戻したほうがよい奥山のような場所であっても、税金を使って一律に伐採される

 ・再造林の手法は公益性への配慮が行われない

 たとえば、ある人が生まれた孫のためにスギの苗木を1000本植えたとしよう。だが、その人は亡くなり、孫は60歳になったが、現在、林業は行ってない。ある時、伐採業者が「スギを切らせて欲しい」という。断ると今度は自治体職員が「管理する意欲がないから伐る」と言う。

 数ヶ月後に山は丸裸になり、孫へは業者からわずかな金が支払われた。孫が「たったこれだけなのか?」と不満顔を見せると、業者は「これから植樹もするし、しばらくは下刈りもする」と言う。

 しかし、約束は果たされず禿山のまま。孫は亡くなったが、今度は山崩れの危険がある。森林経営管理法と森林環境譲与税には、そういう危険性がある。

 コンセッション!国有林の運営権を民間に売却

 そして森林管理に関する法改正の第2弾が、国有林のコンセッションである。

 吉川貴盛農相は今国会に、「国有林野管理経営法改正法案」を提出する考えを示している(選挙前に野党が猛反対するような法案を審議するのは好ましくないという考えから、選挙後に提出する可能性が高い)。

 この法改正は、国有林を長期間(10~50年間)、大規模(数百ヘクタール)で、民間企業に経営を任せるというもの。企業は年間数千立方メートルの伐採ができる権利を得る。

 改正水道法で定められたコンセッションと同様、運営権を一定期間、民間企業に売却するというもので、伐採権の分配、さらに言うならば国有林の払下げといえるだろう。

 国有林は民有林より広く、まとまっている。測量も終わり、林道も整備されている。企業にとっては仕事がしやすい。

 企業は木材を欲しがっている。

 なぜか。まず、これまで原木を輸出してきた国々が、自国の産業育成や環境保全のため伐採量を制限しはじめた

 一方で、国内では大規模バイオマス発電の燃料用材の需要が大幅に増えている。本来は地域の木材を活かすという目的ではじまったはずが、地域の供給力を完全に超えてしまっている。

 そのため大手木材メーカーは、安価な木材の大量供給を国産材に求めるようになっている。そこで国は、国有林を民間に開放して事業意欲をかきたてようと考えた。

 だが、それにはリスクが伴う。

 国有林のコンセッションは、発展途上国の森林ではよく見られる。しかし、失敗も多い。たとえばフィリピンで国有林の伐採権を企業に与えたところ、大規模なラワン材の切り出しが行われた。そして運営権の期限が切れたのちに、禿山が国に返されたのである。

 森林の保全か金か

 政府の大きな方針は林業の成長産業化である。

 水道法改正の時には、経営の悪化した水道事業体を救う方法として、民間企業に運営権を売却するコンセッションが上がってきた。

 今度も、荒れた森林を救う方法として、民間企業に運営権を売却するコンセッションを上げようとしている。

 確かに稼ぐ産業としての林業がないと地域は疲弊し、山は崩れていく。

 しかし、その方法は地域ごとに工夫を凝らしたやり方で行われるべきだ。

 大企業のやり方だけでなく、小規模な林業者のやり方もある。原木をバイオマス発電の燃料に使うような荒っぽいやり方ではなく、木材の付加価値を高める加工品の生産など工夫を凝らせるはずだ。

 林野庁は従来型の林業の焼き直しを行おうとしているように見える。

 生産コスト、維持管理コストを安くする。成長の早い品種を用いて早く伐採して回転率を上げる。機械導入で生産性を向上させる。放置された人工林を安い費用で、成長の早い品種に切り替え、同じ人工林をつくろうとしている。

 しかし、それでは災害の問題は解消されない。

 安倍首相は国会での答弁の中で「広葉樹も増やしていく」と述べている。

 確かに今後15年の森林の維持・管理の方向性を決める全国森林計画案では、針葉樹と広葉樹の複層林化を進めるとは記載されているが、放置人工林を天然林に戻していくという方向性は、打ち出されていない。それどころか、2035年には天然林は今よりさらに57万ヘクタール減る計画となっている。

 せめて植林して、木の根の踏ん張りを期待し、崩れにくくしたい。

 しかし、斜面安定のために、根をしっかり広げて山が崩れるのを防ぐ力の強い樹種を植えたくても、国の決まりで補助金は使えない。補助金は林業で儲けるためのもの。植林できる木の種類は限定されており、細かな根のネットワークを作ってくれる低木は入っていない。

 森林は儲ける林業だけのものではない。観光、防災、生態系保全の面もあるが、それらは無視されている。そして、残念ながら儲ける林業の範疇を超えて、観光、防災、生態系保全の面などから、森林経営のできる専門家は圧倒的に少ない。補助対象の森林事業の計画立案をする森林総合管理士は、防災、観光などの公益性を学んでいないのだ。森林環境・譲与税は、こうした森林経営の専門家育成のために活用すべきだろう。

 水道でも林業でもコンセッションが進む。その背景には、事業経営が難しくなったときには、民間にまかせればうまくいくという安易な考えが見え隠れする。

 しかし、民間でも経営の失敗はある。海外でもコンセッションが失敗した例は数多くある。識者の中には「コンセッションは打率がいい」などと言って、失敗する確率の低さを強調するが、そういう問題ではない。水道は失敗したら命に関わるし、森林経営は失敗すれば回復に100年以上かかる場合もある。

 私たちは2つのことを注視していかなくてはならない。1つは森林管理に関する法改正の行方。もう1つは、森林環境・贈与税が何に使われるのか、である。森林経営は100年の計。けっして目先の利益に踊らされてはならない。

 橋本淳司

水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表

  水ジャーナリスト、「水と人の未来を語るWEBマガジン"aqua-sphere"」編集長として水問題や解決方法を発信。アクアスフィア・水教育研究所を設立し、自治体・学校・企業・NPO・NGOと連携しながら、水リテラシーの普及活動(国や自治体への政策提言やサポート、子どもや市民を対象とする講演活動、啓発活動のプロデュース)を行う。近著に『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る 水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水がなくなる日』(産業編集センター)など。


 朝から晴れ渡るいい天気に恵まれ、まだ早いかなと思いつつ融雪剤(木灰)を撒きました積雪は70㎝、我が家のほうは1mを超えているでしょう。