DIAMONDonline 2020.8.7
みわよしこ(フリーランス・ライター)
メディアで報じられない
コロナ禍の高校生活
7月に入ってから、新型コロナウイルス感染者の増加が止まらない。緊急事態宣言が再度発令される可能性も高まっている。生活のありとあらゆる側面が新型コロナの影響を受ける中、高校生に関する報道は少ない気がする。
グーグル検索で「朝日新聞デジタル版」のニュース件数をカウントしてみると、キーワード「新型コロナ 大学生」では11万5000件、「新型コロナ 高校生」では3万3700件であった。筆者が「高校生に関する報道が少ない」と感じたのは、気のせいではなかった。
高校の多くが3年制であり、高校卒業者の80%以上が大学等に進学し、大学の多くは4年制であることを考えると、高校在学者数は大学等の在学者数とあまり変わらないはずだ。ここ数年間のデータを実際に見てみると、大学と専門学校の在学者数の合計は、高校生数より若干少ない程度である。それなのに、高校生への関心は大学生への関心の3割程度にとどまっている。
「子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば」代表理事の小河光治さんに尋ねると、「高校生は『何とかなっているだろう』と思われているようですが、大変な状況になっています」ということだ。
「あすのば」は例年、特に出費がかさむ年度末のタイミングに合わせて、小学校・中学校への入学、中学校卒業、高校卒業など新生活に踏み出す子どもたちに対し、「入学・新生活応援給付金」を届けている。
3万円(小学校・中学校入学)~6万円(高校卒業生等、かつ災害で被災した場合)の給付金は、ランドセル・学習机・部活用品・自動車免許の取得費用など、幅広い用途に活用されている。年々、ニーズが大幅に増加するのに対し、同じペースで給付対象者を増やせるわけではないことが悩みの種だ。
2020年3月は、2030人の子どもたちに対して、2019年度の給付金の送付が予定されていた。しかしコロナ禍が襲い、子どもたちや子育て世帯が悲鳴をあげていた。「あすのば」では、予定されていた給付金の送付予定を早め、3月11日には1900人に対して送金手続きを完了した。
2020年度に入ってからは、不採用となった子どもたちのうち1300人の繰り上げ採用、非課税世帯の高校生世代1200人を対象とした緊急支援など、一民間団体の限界に近い現金給付を継続している。しかし毎回、採用数の数倍の子どもたちが、切実なニーズがあるにもかかわらず不採用となっている。
野球の「甲子園」をはじめ、高校生の多様な活動がコロナ禍で中止となった。しかし危機に瀕しているのは、高校生活というより、高校生活のスタートや継続ではないだろうか。
ギリギリの自転車操業さえ
打ち砕かれた生活
小河さんは、「あすのば」に寄せられた子どもたちや保護者の声について、「平時に見えづらかった課題が露呈しています」と言う。もともとギリギリの綱渡りのような日常をコロナ禍が襲い、綱渡りすら不可能にしてしまった構造だ。高校生世代が「あすのば」に寄せた声を紹介しよう。
「今春、私立の通信制高校に入学しましたが、母が失職したので退学を考えました。中学生の弟には障害があり、就職先を見つけるのにもハンデがあります」
まず高校進学にあたって、通学制の高校や公立通信制高校に進学できなかった事情が気になる。中学までの間に、何らかの社会的ハンデを背負わされてきた可能性もあるだろう。障害を持つ弟の「ヤングケアラー」としての役割を担わざるを得ないのかもしれない。
とはいえ「退学して働く」という選択肢も事実上塞がれている。そもそも困難な中卒での就職を、さらにコロナ禍が直撃しているからだ。すでに高校を退学してしまった子どもたちを支援から取りこぼさないために、「あすのば」の緊急支援は、対象を「高校生」ではなく「高校生世代」としている。
「バイト先が廃業したり休業となったりしたので、収入面で不安があります。心境としては、『コロナで死ぬか、社会で死ぬか』だと思います」
非正規雇用は、当初から「景気の調整弁」という役割がある。アルバイトの高校生世代も例外ではない。アルバイトが減っても支えられる家庭があればよいのだが、もともと、そうではなかったからアルバイトせざるを得なかったはずである。さらに、コロナ禍は家庭も直撃しているだろう。
高校を卒業した後の新生活も、コロナ禍の打撃を受けることになる。
「今春、高校を卒業しました。日本文化を外国人観光客に伝えることを業務としている地元企業に内定していたのですが、内定が取り消しになりました。アルバイトも十分にはできず、家にお金を入れることができない状態で、時間だけが過ぎてしまいます」
高校新卒者の求人は激減
保護者からも悲痛な叫び
不況になると、高校新卒者対象の求人は、大学新卒者よりも深刻に減少する。内定取り消しに遭った高校卒業者が、来年度の新スタートを期することは、困難だろう。
保護者からも、「高校の通学費が出せない」「子どもの部活を続けさせてやれなくなりそう」「減収し、子どもたちは休校で家にいるので、公共料金やオンライン授業の通信費がかさんで大変困っています」といった悲痛なメッセージが、数多く寄せられている。
子どもの貧困とその解消に長年にわたって取り組んでいる小河さんは、1995年の阪神淡路大震災も2011年の東日本大震災も経験してきた。しかし、コロナ禍が子どもたちの育ちと暮らしと学びに与える影響は、小河さんにとっても想定外であったようだ。
「8月の今、こういう話をしなくてはならないとは、3月頃には考えていませんでした。『夏になれば何か見通しが見えてくるだろう』と思っていました。緊急事態宣言はありましたけど、夏になれば帰省も旅行もできるのではないかと期待していました。それが、全部へし折られた感じです」(小河さん)
まず、高校に進学したばかりの1年生は、高校生活の実質的なスタートラインに立つこともできていない可能性がある。
「もともと、中学の段階でも不登校気味だったり不登校だったりする子どもたちを、学習支援でいろいろな大人たちが寄り添って伴走し、なんとか高校進学を勝ち取るところまで支えてきたわけです。でも、高校は休校です」(小河さん)
オンライン授業があるとはいえ、リアルに場を共有しての支援がない環境で、義務教育ではない高校生活を順調にスタートできるとは限らない。
「特に、さまざまな困難を抱えながら、今春高校に入学した子どもたちは、このまま高校生活に馴染み、学業を続けていけるのでしょうか。平常時なら、高校の“居場所カフェ”のようなスペースも利用できるのですが」(小河さん)
失われた「サード・プレイス」
高校生を襲う深刻な影響
大人の社会人も、時に居酒屋やカラオケなど家庭でも職場でもない「サード・プレイス(第3の場)」で息抜きしながら、職業生活や社会生活や家庭生活を続けているものだ。子どもにとっても「サード・プレイス」が重要であることは、近年、広く認識されるようになり、多くの高校に「居場所カフェ」が設置されるようになった。しかし、コロナ禍以前と同様の運用は不可能だ。運用を停止せざるを得ない状況にある高校も多い。
現在、8月は夏休みシーズンである。夏休み明けの9月は、もともと退学や転校が多い時期だ。小河さんは、「例年より顕著になるのではないか」と危惧している。それでも退学なら、やり直しの機会があるかもしれない。最も懸念されるのは自殺だ。
「2学期が始まる9月1日は、そもそも子どもの自殺が多いですよね。平時でも、長い休暇の後は学校がしんどいものです。数年前、図書館が『学校が辛い子は、図書館にいらっしゃい』というツイートをして話題になりました」(小河さん)
2015年8月26日、鎌倉市図書館(@kamakura_tosyok)はツイッターに以下のような投稿を行った。
「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね」
このツイートは、賛否とも大きな反響を呼び、子どもたちの状況に対する理解の浸透につながった。
「ましてや、コロナ禍の真っ只中にある今の状況です。子どもや若者が絶望し、『死ぬしかない』という方向に追い詰められていく悲劇は、起こると取り返しがつきません。そうならない配慮をしなくてはなりません」(小河さん)
そのためには、何が必要なのだろうか。
進学も就職も無理……
先の見えないトンネルの中に
「高校の先生とお話していると、やはりサード・プレイスの重要性が浮かび上がってきます。子どもが本当に辛いとき、逃げて行ける場所、一休みできる場所。学業を続けていくためにも、一服したり休憩したりして、普段の生活をつないでいく必要があります。高校生たちが生きていくために、そういう場は必要であるはずです」(小河さん)
しかし高校も、新型コロナを警戒しなくてはならない。8月6日現在までに、東京都立高校だけで3校が感染者発生による休校となっている。高校内の「居場所」どころか、登校ができない。公立図書館も、感染が拡大すると休館せざるを得ない。ホッとできる居場所を必要とする子どもの家庭には、「居場所」としての機能は期待できない。
生活をつなぐための場が見当たらない中で、10代後半の時間が過ぎていく。現状が続けば、「進学は断念せざるを得ない。とはいえ、就職したくても就職先はない」ということになりかねない。
「今、高校生たちは、真っ暗闇で先の見えないトンネルの中に閉じ込められている感じでしょうね。たとえば『来年の春には』という見通しが立てば、『今は大変だけど、頑張ろう』と思えるかもしれません。でも、出口が見えません。日本中がそうなのですが、高3生は特にそうです」(小河さん)
これほどの犠牲を
将来に生かさずにいられるか
7月21日、小河さんは渡辺由美子氏(キッズドア理事長)、栗林知絵子氏(豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長)とともに、天皇・皇后両陛下の接見を受けた。
小河さんは両陛下に対して「コロナ禍で大変な思いをされている方々を、心から案じられている」と感じたという。小河さんは、約1時間半に及んだ接見の中で、「貧」や「困」を抱えている子どもたちや親たちに対する両陛下の真摯な関心を、繰り返し感じたということだ。
雅子さまからは、「コロナ収束後、どのような社会になると良いと思いますか」という質問があった。小河さんは「『親はなくとも子は育つ』という言葉が現実になっていく、みんなで子どもを育てていく社会を」と答えた。それは、父親が交通事故に遭ったという困難の中で、数多くの大人たちの関わりに支えられながら成長した小河さんの実感でもあった。陛下は「ピンチをチャンスに、ですね」と応じられたという。
全世界が同時に直面している危機を、人類はどう乗り越えていくのか。各個人、各地域、各国単位で乗り越えていくための試みが、今、日本でも続いている。
暴風被害。
今日、明日の収穫を前にやられてしまいました。案山子の役目ははたしていたのですが・・・・・。再度、まっすぐに立てて土寄せしたりで、見た目は良くなりましたが、弱い風でも倒れそうです。
味見。うんうん!いい!うまい!あまい!
沼には葉っぱがびっしり。ジュンサイが出て来たのかと思いました。