買春の構造と公娼制度
小野沢あかね立教大教授に聞く
(上)「しんぶん赤旗」2022年2月3日
金銭という暴力関係
買春の構造と公娼制廃止の歴史について、性売買の歴史を専門とする立教大学の小野沢あかね教授に2回に分けて聞きました。
買春はセクシュアルハラスメントの構図とよく似ています。上司が権力関係を利用して部下に性行為を強要することを今日、多くの人は許さないでしょう。
女性の弱み付け込んで
買春でも、業者・買う男性と女性の間には、明確な権力関係があります。金銭という権力で性行為を強要するのが買春です。性は個人の人格や尊厳と深く関係しています。性的関係に不可欠な「性的同意」では、相手の同意が取れる関係や環境、発達段階などが考慮されなければなりません。
しかし買春客は、払ったお金の元をとろうと、商品を選ぶように女性を選び、自分の望む性行為の相手をさせます。女性たちは気持ち悪くてつらくても、お金のために客を射精させるべく、がまんせざるをえません。だからたとえ殴ったりしなくても、買春は性暴力だと言えます。
戦前の日本では国家が性産業を管理・統制(公娼制)しました。その舞台は遊郭です。この時代から一貫して女性の弱みに付け込んで性産業に引き入れる手口が見られます。
親は性産業経営者から借金をして、「返済」を名目に娘を「身売り」して働かせました。親孝行を美徳とする家制度の道徳を利用して女性を遊郭に取り込んだのです。
借金のカタ 減少の一方
戦後に公娼制が廃止され、あからさまに娘を借金のカタにする手口は減少します。一方で性産業が多様化し、寄る辺のない女性をだます、ヒモなどが愛情関係を利用して女性を性産業に取り込む手口が増加しました。家や学校に居場所のない少女を取り込む現代の形態に通じています。
(下)2022年2月4日
公娼廃止と女性参政権運動
戦前の遊郭は、大きな経済利益を生み出していました。地域の「経済発展」のために遊郭が誘致され、遊郭を中心に経済が回る地域もあり、朝鮮半島など植民地にも遊郭はつくられました。
政治権力と癒着し発展
遊郭はしばしば有力政治家と結びついており、店の経営者自身が県会議員等になるケースもありました。性産業は政治権力と癒着して発展したと言えます。
こうした男性支配の議会では公娼(こうしょう)制度を廃止できないとして、発展したのが女性参政権運動です。女性が政治的権利を獲得しようとする運動の歴史には、公娼廃止が分かちがたく刻まれているのです。
買春は、人権侵害の行為だとの認識を広げていくことが重要です。性売買の業者だけでなく、買う男性の責任を追及することが最大の課題です。スウェーデンに代表される、買春側を処罰し、売る側に対しては非犯罪化して脱性売買支援をする「北欧モデル」はカナダ、韓国など北米やアジアに広がりつつあります。
性売買から脱して女性が自立し生活再建できる仕組み作りは急務です。特に「売春防止法」の改正は不可欠です。
新法制定の動きに注目
「売春防止法」は性売買の国家公認を廃止し、女性の人身売買を禁止した歴史的意義があります。しかし同法は買春を処罰せず、他方で客を買春に勧誘した女性を処罰し、さらには執行猶予となった女性を「補導院」に送致するなどの問題点があります。
このままではさまざまな困難に直面する女性に対して十分な支援を提供できないことがかねて指摘されています。
いま国会で、困難に直面する女性を支援するための新法の制定に向けた動きが活発化しています。注目しています。(おわり)
こちらも大雪に見舞われています。2018年の大雪に迫る感じです。まだこれから8日まで雪マークが出ていますので注意です。