里の家ファーム

無農薬・無化学肥料・不耕起の甘いミニトマトがメインです。
園地を開放しております。
自然の中に身を置いてみませんか?

雨宮処凛 生きづらい女子たちへ 「全世界の寝そべり主義者よ、団結せよ!」〜謎の文書・中国『寝そべり主義者宣言』を入手した!!

2022年03月02日 | 生活

Imids連載コラム  2022/03/01

『寝そべり主義者宣言』

 そんな怪しい文書が日本国内でひっそりと流通している。

 この連載の「『競争、疲れた……』中国・寝そべり族出現について、日本の『だめ連』に聞く」で書いた中国「寝そべり族」の文書である。

「寝そべり族」とは、競争の激しい中国で2021年くらいから注目され始めたムーブメント。結婚せず子どももマンションも車も持たずなるべく消費せず、最低限の暮らしをするというものである。そんな若者たちが「寝そべり族」と呼ばれて人気になり、中国当局を不安にさせているのだ。

 そんな寝そべり族、誰がいつ、どのように始めたかなどすべては謎に包まれているのだが、最近、中国のとある地方で『躺平主义者宣言』という文書が発表され、中国各地で印刷されてばらまかれ始めたのだという(ちなみに誰が書いたか不明というからシビれる)。それを入手した日本の松本哉(はじめ)氏が、台湾の友人に翻訳を依頼。そうして完成した日本語訳の『寝そべり主義者宣言』(翻訳:RYU、細谷悠生 解説と序文:松本哉 寄稿:神長恒一)が今年1月以降、ゲリラ的に日本各地にばらまかれ始めたというわけだ。

 ちなみに最初の1カ月ほどは、松本哉氏が出没した場所や納品した店でしか買えないという、SNS時代にあるまじき流通の仕方をしていた。ちなみに松本哉氏とは、リサイクルショップ「素人の乱」店主という肩書きを持っているがそれは世を忍ぶ仮の姿。1974年生まれの彼は大学時代に「法政の貧乏くささを守る会」でこたつ闘争などを繰り広げ、その後、「貧乏人大反乱集団」を結成。文字通り貧乏人で大反乱を繰り返し、3.11東日本大震災直後には「原発やめろデモ!!!!!」を主催。1万5000人が集まったこのデモは、その後全国に広がった脱原発デモの起爆剤となったと言われている。そうしてここ数年は中国や台湾、香港、韓国などアジアのアンダーグラウンド界隈の人々との繋がりを作ってきた。そんなことから『寝そべり主義者宣言』の原文を、おそらく日本でもっとも早く入手できたのである。

 そんな文書に何が書かれているか書く前に、なぜ、中国で「寝そべり族」が生まれたのか、そこに焦点を当ててみたい。

 一言で言えば、中国のグロテスクなほどの格差社会が原因だ。

 そんな現代中国の格差を表すSF小説があるというので読んでみた。タイトルは『折りたたみ北京』。2014年に出版され、中国でベストセラーになったという(日本でも翻訳され、早川書房から『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』の邦題で出ている)。

 主人公は48歳、独身でごみ処理施設で働く老刀(ラオ・ダオ)。彼の住む北京は貧富の差により3層のスペースに分類され、24時間ごとに世界が回転・交替するという奇想天外な設定だ。が、リアルなのは第一スペース、第二スペース、第三スペースと層ごとに違う階層の描写。主人公の住む第三スペースには5000万人が暮らし、うち2000万人はごみ処理施設従業員。腐臭の中で働き、過密状態の汚い屋台で粗末な食事をして寝るだけの日々。第三スペースは常に喧騒に溢れ、金を巡って誰かがいつも喧嘩している。主人公の月収は1万元。

 かたや第二スペースには2500万人が住み、学生インターンでも月収は10万元。清潔で余裕のある暮らしぶりだ。

 第一スペースには500万人が住み、さらに豊かで快適な暮らしを享受している。半日勤務する女性の1週間の給料は10万元。すれ違う女性たちはファッションショーの出演者のようだ。

 そんな第一スペースに主人公が手紙を届けに行くというところから物語は始まる。当然、第三スペースの人間が第一スペースに行くことは禁じられている。身なりも何もかもが違う上、主人公は自らから腐臭がするのではないかとしきりに心配する。しかし、成功すれば20万元が手に入る。

 そんな『折りたたみ北京』を知ったのは、ジャーナリスト・中島恵氏の「北京のコロナ感染者の詳細すぎる情報に驚愕! 有名SF小説『折りたたみ北京』に酷似と中国で話題に」(yahooニュース個人、2020年1月21日)という記事だ。

 記事によると、今年1月、北京で新型コロナに感染した2人の行動履歴が「まるで『折りたたみ北京』!」と話題になったというのである。

 1人はエリート銀行員の女性。もう1人は出稼ぎ労働者の男性。公表されたのはそれぞれが過去2週間に訪れた場所や勤務先などだが、それを見ると、女性の方は有名店でランチをしたりブランド品を買ったり週末はスキー場に行ったりと、誰もが羨む優雅な生活をしているのがわかる。一方、男性は連日のように深夜から翌朝まで工事現場などで作業。働く場所は毎日変わっているようで、14日間連続勤務もある。宿泊は粗末な簡易宿泊所のようだ。

さきほど、第一〜第三スペースについて書いたが、設定では、スペースごとに割り当てられた時間も違っている。第一スペースは午前6時から翌朝6時までなのに対して、第三スペースは午後10時から午前6時まで。貧しい人々は「夜の世界」でしか生きられないのだ。北京でコロナに感染した男性は、まさに深夜から翌朝までの労働に従事していた。そんなこともあって、多くの中国人が『折りたたみ北京』を連想したのだろう。

 さて、このような格差に対して取りうる態度はそれぞれだ。ある人は「自分も成功しよう」と途方も無い努力をするかもしれないし、ある人は「こんな格差社会、クソ喰らえ!」と鬱憤を募らせるかもしれない。

 松本哉氏は、『寝そべり主義者宣言』日本語版の〈解説を兼ねた序文〉で、以下のように書いている。

〈ちなみに現在の中国は、これまでの高度経済成長はさすがに頭打ちになり、低成長時代に突入している。貧富の差も拡大したり都市や地方の貧困問題もあり、多くの社会の歪みも見え隠れするものの、まだまだ「頑張って稼げば成り上がれる」というような金もうけ中心社会の真っ只中だ。そんな時、「これでいいの?」「金と出世のことばっかり考える人生もう嫌じゃない?」という疑問が若者たちの中からチラホラと出始めてきた感覚のひとつが、この「寝そべり主義」。〉

 ということで、「チクショーコノヤロー、寝そべってやる!!」というような内容かと思って本文に入ると、『寝そべり主義者宣言』、かなり硬派な内容ではないか。

 まず、本文は〈一、序章:大いなる拒絶〉〈二、寝そべり主義者の「同行者」〉〈三、寝そべり主義者の苦境〉〈四、寝そべり主義者の盟友〉〈五、代替性自治区〉の5章から構成されている。

 序章はこんな一文から始まる。

〈目の前で起きていることにうんざりして、首を横に振りながら吐き気を催している若者たちは、もうすでに寝そべっているのだ。彼らは険しい生活に打ちのめされてしまったと言うよりも、ただ生命の本能に従っているだけだと言った方がより正しいだろう。休息や睡眠、負傷、死に近い姿勢で、何もかもやり直したり、停滞させたりするのではなく、時間の秩序そのものを拒絶する状態に陥っているのだ。〉

 そうして文章は「寝そべり主義」が中国であっという間に広がり、「哲学」にまで発展する中、寝そべり主義者たちへの糾弾が始まったことなど「寝そべり」をめぐる経緯も綴られる。しかし、寝そべり主義者はそんなものには屈しない。「四、寝そべり主義者の盟友」では、以下のように書かれる。

〈寝そべり主義はある社会階層とアイデンティティのコミュニティー間の決裂によって生じたものではなく、全ての労働者階級で生じたものである。(略)寝そべり主義は脅迫と服従を拒絶する人達を繋ぐ、男と女、肉体労働者と失業者、市民と農夫、遊牧民とごろつき、学生と知識人、異性愛者と同性愛者、その他のセクシャルマイノリティ、浮浪者と住宅ローンの負債者……これ以上に心の通じ合った穏やかなゼネストはあるだろうか?〉

 同時に、寝そべり主義者は様々なものを「拒絶」する。それは例えば〈搾取と人間性剥奪の労働秩序を築くこと〉〈経済的略奪と文化的なジェノサイド〉〈高騰する家賃と住宅価格〉〈住宅ローンと利息を支払うこと〉などなどだ。中には〈父権制存続のための出産を拒絶する〉という一文もある。

 締めの文章は〈我々は意図的に作られた貧しさのなかで互いに争うのをやめる時だ〉という一文から始まり、最後にはこう呼びかけられる。

〈全世界の寝そべり主義者よ、団結せよ!〉

 さて、中国で起きていることは、当然日本にも通じる。この国にも、誰もが羨む生活をしている人もいれば、深夜の肉体労働に従事し、低賃金・不安定な生活から抜けられない人が多くいる。中国よりは緩やかと言っても、この30年ほどで開いたこの国の格差も凄まじい。20年の国税庁の調査によると、正社員の平均年収496万円に対し、非正規の平均年収は176万円。今や働く人の4割が非正規だ。

 昨年末、上位1%の富裕層が世界の個人資産の4割を保有していることが大きなニュースとなった。が、日本国内だけを見ても、上位2%が個人資産の2割を保有すると言われている。一方で、コロナ以前の19年の「貯蓄ゼロ世帯」は単身世帯で実に38%。コロナ禍での失業・減収などで、貯蓄ゼロ世帯は現在さらに増えているだろう。が、富裕層はコロナ禍でますます豊かになっているというのが世界共通の現象だ。

 そんな中、疲れ果て、「一抜けた」とばかりに競争から降りたい人はどれほどいるだろう。頑張っても一部の人は決して報われない状態は、人を、社会を病ませていく。2000年代前半からの公務員バッシング、10年代の生活保護バッシング、そして昨今目立つベビーカーヘイトや相模原事件に象徴されるような障害者ヘイトを見てもわかる通り、「なんらかの公的ケアの対象となる人が憎まれる」のは、「病気も障害もない人は自己責任で死ぬまで競争に勝ち抜いてください、それが無理な野垂れ死ってことで」という無理ゲーを、30年近く強いられているからだろう。そう思うと、昨年から相次いでいる「死刑になりたい」などの動機から起きた事件の背景にあるものもうっすらと浮かび上がる気がする。

 そんな中、やはり露骨な格差社会の中国で始まった「寝そべり」という、ゆるやかな抵抗。それ自体がライフスタイルであり主張であり反乱であるという痛快なレジスタンスが日本でもじわじわと支持されている現象は興味深い。

 そんな『寝そべり主義者宣言』を流通させている松本氏は、東京に雪が降ると予想された2月10日の数日前、「今週の木曜日、寒そうなのでお休みします」と店の張り紙で宣言するなど早くも「寝そべり」を実践している。しかし、考えてみたらこのコロナ禍、無駄に店を開けたり働いたりしてもロクなことはないのだ。出勤途中に転んで骨折しても救急車は来ないかもしれないし、来たら来たで、医療現場の逼迫に加担してしまうかもしれない。この国では「悪天候の時こそ出勤して会社に忠誠心を見せる」みたいなことが推奨されがちだが、悪天候なら休んだ方がいいに決まってる。

 ということで、『寝そべり主義者宣言』が欲しい人は、すでに地下流通しているので、全国各地の怪しげな個人の店とかを探してみてほしい。

 どんなとこで売られてるのかって? ヒントは、「金の匂いがしない場所」だ。それでは、良い「寝そべり」を。


(・_・D フムフムですね。こんな「哲学」があったのですね。人間らしく生きるということでしょう。

ロシアの軍人たちよ!
敵は前方にはいない。
お前のすぐ後ろだ!



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。