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上野千鶴子さん緊急インタビュー 介護保険“詐欺”許さない

2023年12月09日 | 生活

「しんぶん赤旗」2023年12月9日

 国民に新たな負担増を押し付ける、政府の介護保険改悪の議論が今年最大のヤマ場を迎えています。改悪阻止へ、昨年に続き「緊急オンライン集会」を主催した、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長の上野千鶴子さん(社会学者、東京大学名誉教授)に聞きました。(内藤真己子)

 ―政府は、介護保険利用料2割負担の対象者を拡大する方針で、その所得基準を年末の予算編成で決めるとしています。

 財務省は昨年、利用料「原則2割」を打ち出していましたが、2割負担の「対象拡大」と言い換えています。こうなると大概の人は「自分には関係ないだろう」と思ってしまうでしょうが、現行の2割負担は単身で年収280万円以上です。ここへきて厚生労働省は審議会に、年収190万円以上を2割負担の対象として検討する複数の試算を出しました。

 年収190万円といっても税金や介護・医療の保険料が天引きされれば実収入はもっと少ない。富裕層でもなんでもない、ぎりぎりのレベルです。自己負担率が1割から2割へ変わるということは、利用者からすれば倍増です。負担感は全く違います。

 後期高齢者医療は、単身で年収200万円以上の窓口負担が昨年10月から2割になりました。同じ所得層の介護保険利用料をそれに合わせて2割にしたいというのが政府の意向ですが、そうなれば医療も介護も利用抑制が進むでしょう。これでは保険料を天引きされていながら、必要なときに使えなくなります。政府は「給付と負担のバランス」などと言っていますが給付抑制先にありきの負担増です。

 これからさらに年収の基準を下げていけば対象拡大から「原則2割負担」が実現します。油断はできません。

 ―集会のタイトルは「このままでは保険“詐欺”になる。介護保険は崖っぷち」でした。

 どんな保険も、決められた給付を前提に被保険者が保険料を払うのがルールです。ところが介護保険は創設から23年間、保険者の国が勝手に負担と給付をどんどん変えています。ルールを途中で変えるのは悪質で、保険“詐欺”になります。

 そのうえ政府は昨年「史上最悪」の改悪メニューを出してきました(4面に改悪プラン)。これに私たちWANとNPO法人高齢社会をよくする女性の会(樋口恵子理事長)は共催で、連続アクションし抗議しました。公益社団法人認知症の人と家族の会も反対署名を実施し、11万人を超えました。

 その結果、改悪案を一度は押し返しました。ところが政府は先送りした改悪案の一部をまた出してきて「年末までに決める」と言うのです。それが利用料2割負担の対象拡大、老人保健施設や介護医療院などの多床室の部屋代負担、「高所得」とされた人の保険料引き上げなどです。

「国庫負担の割合増やせ」

 ―政府は、「史上最悪」の改悪案に出していた、要介護1・2の生活援助等を保険給付から外し自治体の事業へ移行させることや、ケアプラン有料化は先送りし、3年後までに結論を出すとしていますね。

長期的シナリオ

 政府は負担増と給付抑制の改悪案を出したり引っ込めたりしていますが彼らの長期的なシナリオはこうです。

 介護保険の対象から要介護1・2を外し、要介護3以上に限定する▽ヘルパーによる訪問介護は身体介護に限り、生活援助はボランティア任せにする▽要介護1・2の訪問介護と通所介護は保険給付から外し、報酬単価の低い自治体事業へ丸投げする▽利用料は原則2割負担、「現役並み所得」は3割負担▽ケアプランは有料化―。

 これらが実施されるとどうなるか。介護保険が使えなくなり介護が家族に押しもどされる「再家族化」が起きます。高齢者虐待や介護離職が深刻になるでしょう。もう一つは「市場化」です。保険で足りない分は私費で買えということ。しかし日本の高齢者はそんなに豊かではありません。家族に頼れず市場でも介護サービスを買えない人は「在宅」という名の「放置」になります。許してはなりません。

 施設も危機です。職員の配置基準を見直す動きがあるからです。特養などの施設は利用者3人に対して1人を配置する基準があります。これでは回らないので施設は自主的に職員を増やし平均で「2対1」にしています。介護報酬は「3対1」の職員分しかないので職員配置を手厚くするほど配分が減って低賃金になる傾向があります。

 ところが政府は介護ロボットやセンサー機器の導入で、今でも低い配置基準をさらに緩和する議論を進めています。でもセンサーが鳴って介護に駆け付けるのは職員です。今でも苛酷(かこく)な介護職場がさらに厳しくなれば、職員は追いつめられるでしょう。

 ―院内集会では「国庫負担を増やすこと」を要望しました。

 初めて財源に踏みこみました。介護職員の処遇改善が急務ですが、月平均6000円という政府のお粗末な引き上げでも公費投入は期間限定で、終われば介護報酬の加算になります。加算をとると利用料負担に跳ね返ります。だからとらない事業所もあります。こんな対立はあってはならない。だとしたら税(国と地方)と保険料が半々という介護保険の財源構成を変えるしかない。「国庫負担の割合を増やせ」というのが、社会保障分野の心ある論者の共通した意見です。

 お金がないとは言わせません。岸田首相は軍事費に5年で43兆円もつぎ込むというのですから。それに「福祉にあてる」と約束してスタートした消費税は、税収が増えただけ法人税と所得税が減税され、その結果、相殺されています。共産党さんが指摘してきた通りです。大企業と富裕層への応分の負担を復活させるべきです。

 ―政府は「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」の社会保障構造を見直すと言っています。

世代対立あおる

 世代間対立をあおる世論誘導です。高齢者への医療・介護給付を抑制することは結局、若者・現役世代の首を絞めることになります。高齢者への社会保障制度が後退すれば、家族介護や子の経済負担が増します。そして子世代も必ず高齢者になるのです。若年世代に社会保障の手が届かないことと高齢者への給付は別の問題です。日本の社会保障支出はOECD諸国のなかでも低いのですから、両方とも充実させることが必要です。

 介護保険で現場の経験値とスキルが上がり、人材が育ちました。かつて不可能だった「在宅ひとり死」も可能になりました。日本の介護の質は世界的にも誇れる高さです。一方で介護保険は制度創設以来“虐待”され続けてきました。権利と制度は黙っていても向こうから歩いてきません。手に入れたと思ったものも、うかうかしていると掘り崩されます。たたかって守り抜かなければなりません。

政府が狙う「史上最悪」の介護保険改悪プラン

         利用料2割負担の対象拡大
    ⇒2023年末までに結論

         多床室(大部屋)の室料負担対象拡大(老健、介護医療院) ⇒23年末までに 結論

      「高所得」高齢者の保険料引き上げ
           ⇒23年末までに結論

      ケアプランの有料化
    ⇒7年4月までに結論

      要介護1、2の生活援助等を自治体の総合事業に移行 ⇒27年4月までに結論

      利用料3割負担の対象拡大⇒引き続き検討

      補足給付(施設の食費・居住費の負担軽減)の見直し⇒引き続き検討

     被保険者年齢の引き下げ⇒引き続き検討

 (厚労省資料などから作成)


しかしひどい!
国民がこんなにも虐げられているのに、自民党議員たちは私腹を肥やすことに没頭している。やっと松野官房長官の更迭に踏み切らざるを得なくなったようだが、こんなことでは納得がいきません。自民党政治そのものを「更迭」しましょう!
良識ある野党は結束して次期総選挙で政権を取れ!



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