ネオニコチノイド農薬 魚の餌減らす
宍道湖 ワカサギ・ウナギ激減
「しんぶん赤旗」2019年12月16日
産総研、山室特定フェローら調査
島根県松江市に面した宍道湖(しんじこ)。日本海とつながり、海水と淡水がまじりあう汽水湖で、シジミをはじめとした魚介類は「宍道湖七珍」と呼ばれ、松江を代表する味覚となっていますが、近年、七珍に数えられるウナギやワカサギが激減し問題となっていました。産業技術総合研究所(産総研)の山室真澄特定フェロー=東京大学大学院教授と東京大学、島根県保健環境科学研究所、名古屋市環境科学調査センター、千葉工業大学の研究で、水田などで使われるネオニコチノイド系農薬の影響で魚の餌となる生物が激減したためである可能性があることが明らかになりました。(原千拓)
産総研は1990年代、宍道湖を対象に植物プランクトンの生産量の増減と水生生物の関係について調べたことがあります。この中で、同湖ではその当時、湖水の窒素やリンなど植物プランクトンに必要な栄養源が増えているのにもかかわらずワカサギやウナギの漁獲量が減っていることがわかりました。しかしその原因については解明されていませんでした。
その後2012年にはヤマトシジミの漁獲量が激減。産総研などの研究グループは12年から宍道湖にすむ多様な水生生物と環境の関係を総合的に検討する研究を始めました。
環境に流出、分解しづらく
ヤマトシジミが激減した原因は、湖の塩分濃度の低下によって餌となる植物プランクトンが減少したためでした。翌年に塩分濃度が上がりヤマトシジミの漁獲量は回復しましたがウナギやワカサギの漁獲量は回復せず、90年代から漁獲量の低レベルが続いていることがわかりました。山室さんは塩分や水温などの水質以外のさまざまな要因の可能性を調べ始めました。
93年から激減
底生動物の餌と密接にかかわる湖底堆積物の有機物濃度に大きな変化は見られませんでした。しかし一方で節足動物の減少が著しく見られ、特にオオユスリカは82年には1平方メートルあたり100個体以上生息していましたが16年にはまったく採集されませんでした。
かつて宍道湖では羽化したオオユスリカが毎年のように大量発生し、堆積した死骸によって道路でスリップ事故が起こることもあったほどだったといいます。調査の結果、93年以降、突然生息しなくなったことが分かりました。
また、宍道湖の動物プランクトンの大部分を占めるキスイヒゲナガミジンコについて生息数の推移を分析した結果、93年5月から激減していたことも判明しました。
オオユスリカの減少は諏訪湖や琵琶湖、霞ケ浦でも見られています。山室さんたちは、地理的に離れ、塩分などの水質環境も異なる湖で同じような現象が起こっていることに注目。関連するできごとを調べたところ92年に、日本で「イミダクロプリド」がネオニコチノイド系農薬として初めて登録されていました。山室さんたちは、田植えが一斉に行われる93年5月ごろに使用され始めたと推測しました。
汽水域の特性
ネオニコチノイド系農薬は水溶性で植物体への浸透移行性を持ち、効果の持続性にも長(た)けています。このため、環境に流出してから分解、消滅するまでに時間がかかります。この特性からネオニコチノイド系農薬の使用が、宍道湖の魚類の餌となる動物を減少させ、間接的にウナギやワカサギの漁獲量の激減を引き起こしたと考えられます。
山室さんは「メーカーはネオニコチノイド農薬のメリットとして水に溶け植物に浸透し分解しづらいので何度もまかなくてよいとうたっていますが、水域の動物にとってはデメリットになってしまう」と指摘します。
山室さんは今回の研究成果に結びついた要因に宍道湖ならではの汽水域の特性をあげます。
「汽水域は塩分が変動する場所で浸透圧を調整できる動物しかすめません。宍道湖において二枚貝はシジミだけ。動物プランクトンは99%がキスイヒゲナガミジンコです。宍道湖ではネオニコチノイド農薬の耐性が弱い動物プランクトンとオオユスリカが一気にいなくなることでワカサギやウナギの餌がなくなってしまったと考えられます」
山室さんは水田でのネオニコチノイド農薬の使用のモニタリングについて、次のように注意を促します。「晴れの日の通常のモニタリングでは検出される濃度は低いですが雨が降った時に水田にたまったネオニコチノイドが一気に流出し濃度が上がります」
欧州では規制
ネオニコチノイド系農薬はミツバチの大量死の原因と疑われヨーロッパでは規制を強化する傾向にあります。ネオニコチノイド系農薬が河川や湖沼の生態系に与える影響について検証されたのは世界で初めてです。
今後の研究について山室さんはこう話します。「今回の結果からネオニコチノイドに対してとても敏感な動物がいることが分かりました。宍道湖で起こっているようなことが海外の汽水域で起こっているとしたら、その影響が沿岸域の生物生態系にも及ぼしていると考えられます。オオユスリカなど淡水の動物が汽水に入ってきた時の耐性や汽水に生息する生物の耐性を調べる必要があります」
研究結果の論文は11月1日、英文の科学誌『サイエンス』に掲載されました。
EU禁止後も残留・汚染
ミツバチに影響 フランス国立科学センターなど調査
ネオニコチノイド系農薬はミツバチの大量死の原因と疑われ、ヨーロッパ連合(EU)では2013年から、ミツバチを引きつけやすいナタネなどの作物に限り3種類のネオニコチノイド系農薬の使用を暫定的に禁止しています。しかし、その後も3種類のネオニコチノイド系農薬がナタネの蜜にまで残り、ミツバチなどの生物に影響を与える汚染レベルであることが、フランス国立科学研究センターやフランス国立農学研究所などの研究グループの調査で明らかになりました。
研究グループはネオニコチノイド系農薬が制限された後の14年から18年までの5年間、フランスの291カ所の農場で栽培されているナタネの蜜536サンプルからネオニコチノイド残留物を分析しました。
その結果、3種類のネオニコチノイド系農薬が蜜から検出され、イミダクロプリドは分析した蜜の43%(調査した畑の約半分の範囲)で、毎年検出されました。
イミダクロプリドが検出された蜜の大部分はイミダクロプリドの濃度が1ミリリットル中0・1から1ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)でしたが、最大濃度が70ナノグラムに達する蜜もありました。
蜜に含まれていたネオニコチノイド系農薬によるミツバチへの死亡リスクのピークは14年と16年にみられ、調査した農場の12%で死亡率が約50%に達するレベルとなっていました。
研究の結果は環境学誌『サイエンス・オブ・ザ・トータル・エンバイロメント』(11月28日付)に発表しました。
これから町内会の年末総会です。その後、忘年会。そんなに遅くまでいるつもりはありませんが、一応記事をアップしておきます。
明日は雨の予報が出ています。変な天気です。