ばらの根を 盗むさゆりの あさはかさ 夢詩香
*「さゆり」の「さ」は、名詞や動詞や形容詞について、その意味を強めたりする言葉です。「若々しい」という意味を添えることもある。「さおとめ」とか、「さわらび」とか。動詞では「さまよふ」などがありますね。
ここではただ、七文字にするために「さ」を入れただけです。句の意味は、そんなことをしなくても自分は十分に美しいのだから、ほかの人の美しさを盗んだりなどしなくてもよいのにという意味なのですが。
そういう芝居を花にしてもらおうと思うとき、ばらの根を盗むようなお馬鹿さんの役を誰にしてもらえるかということを考えました。
すみれやなのはなやさくらには頼めない。彼らは潔すぎる。痛いことはしたくないと強く思うでしょう。いろいろと考えて、ああ、ゆりの花ならやってくれると思ったのです。
奥ゆかしい花ですから、自分を下げることなど何でもない。あなたがたに教えるために、自分の花びらを少し汚すことくらいはしてくれる。だから、ゆりの花に頼んだのですが。
そこはそれ。一文字足りない。それはたぶん、花の苦しみを、誰かが助けなければならないということでしょう。
「さ」の字は、そのために必要なのです。
みんなのために恥ずかしい思いをしてくれる花の気持ちを、見るだけにしておいてはいけない。だれかが彼女に何かを着せてあげなければならない。その場所を開けるために、一文字足りないのだ。
麗しいですね。
ゆりの花が二文字なのは、消えていきそうなほどはかない花だからなのでしょうか。だから、必ず誰かが助けてくれる。助けずにいられなくなる。
誰かのことを思い出します。