長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

それは蜘蛛拍子舞から始まった。

2015年03月23日 23時33分23秒 | お稽古
 “とうらぶ”とは何ぞや……??
 と、しばらく前から気になっていたのですが、先ほど検索してやっと分かりました。
 これまた、遅かりし由良之助。
 しかし、古今の大和の国における若い女子というものは、時代を問わず日本刀の銘柄に憧れるものである、ということが分かりました。

 なぜならば、私が日本の伝統芸能に目覚め、長唄に本格的にのめり込むキッカケとなったのが、二十歳を過ぎた頃に観た『蜘蛛拍子舞(くものひょうしまい)』だったからなのです。
 
 近年、大和屋が歌舞伎の本興行にしばしば掛けるようになりましたが、昭和の終り頃はあまり出ておりませんで、私が観たのは舞踊協会の、歌舞伎役者ではなく舞踊家による舞台でした。
 ですから尚更、長唄や日本舞踊本来の魅力が感じられるライブになっていたのかもしれません。
 拍子舞というのは、踊りの形式の一つで、三味線の音色にのって唄いながら舞うものをいいます。
 登場人物は、源頼光と四天王、例によってモノノケ退治でございます。
 美しい白拍子に化けた女郎蜘蛛の精、頼光、碓井貞光の三人が、御殿の階段にレビューの如く立ち、名だたる刀鍛冶の名前が連ねられた掛け言葉の歌詞を、とうとうと唄うのです。
 「なにこれ、オペレッタみたいでむちゃくちゃ面白い……!!」
 こんな面白い音楽が邦楽にあるのならば、ぜひこれを私もやりたいものである、と二十歳そこそこの小娘は思ってしまったのです。

 刀剣乱舞にハマっていらっしゃる皆さま、いっぺん長唄の「蜘蛛拍子舞」を聴いてみて下さいませ。おもしろいょ。
 戦争を止めていた時代の日本人は、闘う道具であった刀で、こんなにも文化の誉れ高き平和なお芝居をつくっていたのである。

 ご参考までに、曲中の刀工尽くしの歌詞をご紹介いたしますね。
 初世・桜田治助の作詞です。

 ♪花の姿を垣間見に ひがきやすりは天がい重俊 さて薙刀は当麻少将 金剛正枝 力王一王 これらは名に負う大和鍛冶 利剣宝剣名作名物 六百九十四振なり
 九十四振は九十九夜 或る夜その夜の廓(さと)通い 色に乱れし業物と
 名乗って和泉の加賀四郎 さてまた相模の新造五郎 新造五人引き連れて
 紋日物日は月参り 月山 森房 蜘蛛頭 はつゆき平を眺めんと チョキで長船 
 四つ手にのり宗 ようよう三条宗近と 客は女郎に寸延びて 余所で口説を島田の義助
 座敷も新身の付け焼刃 文殊四郎の知恵借って 内外の手前を兼光が 
 まだ居続けとは さりとは長光 大酒に 青江の四郎が捩じ上戸
 ちょっと助光 一文字 腹立ち上戸は仁王三郎 相手に長門の左利き 
 左文字や方々よ あいと石見の酒盛綱 こころ安綱 友成が 君万歳とぞ打ったりける

 天明元年(西暦1781年)、カントが純粋理性批判をドイツで刊行し、アメリカ合衆国の独立が欧州各国に承認されつつあったそんな時代に、江戸中村座の顔見世狂言として上演されたのが、蜘蛛拍子舞だったのでした。

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする