舞台で演奏する曲にゆかりの土地、神社仏閣に詣でるのは、対象に対する純粋な探求心、好奇心というよりも、まず、先様へのご挨拶である。
文化とは礼節である…との先人の言葉を、あるとき偶然に知ったので、以来、時々引用させていただいているけれども、
今日、私たちが安心して文化活動に邁進できるのは、先人たちが苦労して文化を営む土壌を耕して下さったからなのである。
あだやおろそかに享受してはいけないのである。
…というわけで、寺入りの千代の言葉をお借りすれば、日頃、軽く暮らしているわたくしのような罰当たりなものでも、神妙な心持ちになりつつ、物見遊山という、おそらく、日本人独特の感性の所産である、実を言えばそこまでの信心、宗教儀式が目的ではないのだけれども、神域である清々しいところへ詣って、日頃世俗の垢にまみれた自分自身も清められたい気がして、八百万の神さまのもとへちょっと近況報告がてら参ずるわけであるが…
御一方(おひとかた)に片寄るのは他の神々が気を悪くするだろうから、満遍なく博愛の精神で、ほうぼうに伺ったりする…あいまいな多様性を、気づかずして日本列島に棲む我々は身につけているのである。
であるから、多様性を新進な言葉として多用するのは、古い人間には今更感がして、世間の成り行きとはいつになっても迂闊というものなんだなぁ…と感じてしまう。
たぶん、そう気がつくのは人間がようやく、“ひと”として成熟してやっと物事の有態が分かってくるお年頃…還暦過ぎた頃で、経済活動優先の世間を牽引する世代から引退する年代に至ってからのことなので、仕方がない…そんなわけで、日々腹の立つことばかりに直面する…しかしこれは自分が若い彼らを至らぬものとして達観できない、自分自身が至らぬものであるからであろう…と自省が先に立つので、年寄りは無口になるのだ。
…あれれ、愉しかった旅の記憶を、十日えびすのご縁日にちなんで、今回(10月20日…ご縁日の二倍サービスとなっております、吉祥寺は武蔵野公会堂にて)演奏いたします長唄「七福神/しちふくじん」のご説明がてら一筆…と考えておりましたが、失礼いたしました。
関八州に住まいしております東夷(あずまえびす)は、小説や映画で見聞きしているものの、JR東海・新幹線終着駅の新大阪と以西の山陽新幹線管轄に入る神戸駅間には、あまり土地勘の無いもので…社会生活上どうしても必要な事務的手続きが発生した、その機に乗じ、福男のかけっくらで有名な西宮神社へご挨拶に参りました。
(簡潔に…と心がけているのに…年寄りは無口になる分、文章が饒舌になって困ります……)
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あまりにお日様のご機嫌がよいので、散策を諦めJR西宮駅から車にてつけて頂いたのが脇の赤いご門です。
(…今更ですが、赤井御門守とはけだし名ネーミングでありますなぁ…漠然とした職掌のお侍さんのキャラクターとして…)
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さて、朱塗りの立派な大門をくぐり参道を神妙に進みますと、
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右へのカギの手に行き当たり、狛犬さんがおわします。
阿吽…なのですが、左側のお口をきりりと結んだ狛犬さんからご紹介。
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狛犬さんが目くばせする方角へと更に歩を進めますと…
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木の鳥居の傍らに
♪くつばみ揃えて、神の神馬を引き連れ…と七福神の歌詞にも登場する御厩が。
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穏和なお顔立ちに和みながら、参道をずいずいーっと…
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近隣の観光案内が絵馬型取りになっていてオシャレ。
ご当地ならではの鯛の絵馬はお土産に拝領したい。
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…ところが。
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ご本殿が修理工事中で御目文字かなわず…
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仮社にお参り致しました。
芸能の神さま、百太夫さまがお出迎え下さいました。
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神楽のお稽古中なのか、無闇と賑やかなお囃子の音が聞こえてきて、神社における音曲というものも東西では持ち味が違うものであるなぁ…とハタと膝を打ちました。長唄・七福神のお囃子は本来、正にこんな感じなのでしょう。
中の島へ歩を進めますれば、ぉぉ!長唄にしばしば登場なさる宇賀のみたまも鎮座されています。
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御遣いひめの啼きつる方を眺むれば…
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よろずのお魚…この池に於かれましては金銀綾なす錦鯉。
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えびす様が海神様となられた証左の宝船がお祀りされていました。
奉納樽がこれまた素敵にカッコいい。
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ご挨拶も済んで、すかっり晴れ晴れとした私は、最寄りの阪神電鉄西宮駅へ。
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何と…! 駅ビルの名称はその名も“EBISTA”…エビスタ。
簡略にして全てが集約された素晴らしいネーミング。関西の諧謔みここに極まれり。
いちいちが私のツボにはまり、ひたすら感心しつつ駅構内へ、三宮方面ホームに立った私の目の向こうに、反対方向の電車が入線してきました。
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…なんと!! これは甲子園の…野球まんがのキャラクター満載の…ドカベン電車ではありませんかっ…!
中学時代の私は週刊漫画雑誌・少年チャンピオンを至上の愛読書として(週刊誌はクラスの男子から借りて読み、単行本をコレクションしておりました)、ブラックジャック、マカロニほうれん荘、がきデカ、エコエコアザラク、7半ライダー…etc.
中でも水島新司先生著『ドカベン』に至っては、TVアニメは勿論のこと、女子高生漫研時代は二次創作にも手を染めていたのでした。番組主題歌を収めたサントラ盤LPレコードを何度聴いたことか…小さな巨人 里中くん、われら里中親衛隊…♪ ひょっとして、今でも無本で歌えるかも…(いえ、唄いませんけれどもね)
えびす様のお心づくしのお見送りを賜り、すっかり気をよくした私は、次なる目的地へと向かったのでした。
【簡略版 長唄・七福神のご説明】
日本もかなり欧米化が進み、歳時記もすっかりすたれましたが、七福神めぐりを年末年始になさる方も、まだいらっしゃるかと存じます。この曲は七福神というタイトルですが、歌詞中に出てくる七福神の神様はエビスさまのみです。
古事記と日本書紀にかかれている、イザナギ、イザナミのミコトの国生み伝説から始まります。
二人のミコトの間に生まれた最初の子どもがヒルコ神で、骨も皮膚もなくぐにゃぐにゃしていたので、舟に乗せて海に流した、という、現代でも語り継がれている神話、映画やマンガのもとになった神さまです。
原典によっては、アマテラスとツクヨミの次に生まれた三番目の神さまとされ、のちに、海の神さまであるエビスになりました。
やおよろずの神々を身近に感じてくらしてきた、おおらかな日本古来の民間伝承の味わいを持つ、舞踊曲です。
もともとは、江戸三座の市村座が、興行中、毎朝開演する前に演じられた序びらきの番組で、各座に独自のテーマ曲がありました。
演奏を聞き進むにつれ、お気づきになるかと思いますが、縁起のいいものを引く、ひきもの尽くしの部分があります。
これも、劇場にお客さまが沢山引きも切らずご来場くださるように、お客さまを引くという縁起かつぎのひとつかもしれません。
文化とは礼節である…との先人の言葉を、あるとき偶然に知ったので、以来、時々引用させていただいているけれども、
今日、私たちが安心して文化活動に邁進できるのは、先人たちが苦労して文化を営む土壌を耕して下さったからなのである。
あだやおろそかに享受してはいけないのである。
…というわけで、寺入りの千代の言葉をお借りすれば、日頃、軽く暮らしているわたくしのような罰当たりなものでも、神妙な心持ちになりつつ、物見遊山という、おそらく、日本人独特の感性の所産である、実を言えばそこまでの信心、宗教儀式が目的ではないのだけれども、神域である清々しいところへ詣って、日頃世俗の垢にまみれた自分自身も清められたい気がして、八百万の神さまのもとへちょっと近況報告がてら参ずるわけであるが…
御一方(おひとかた)に片寄るのは他の神々が気を悪くするだろうから、満遍なく博愛の精神で、ほうぼうに伺ったりする…あいまいな多様性を、気づかずして日本列島に棲む我々は身につけているのである。
であるから、多様性を新進な言葉として多用するのは、古い人間には今更感がして、世間の成り行きとはいつになっても迂闊というものなんだなぁ…と感じてしまう。
たぶん、そう気がつくのは人間がようやく、“ひと”として成熟してやっと物事の有態が分かってくるお年頃…還暦過ぎた頃で、経済活動優先の世間を牽引する世代から引退する年代に至ってからのことなので、仕方がない…そんなわけで、日々腹の立つことばかりに直面する…しかしこれは自分が若い彼らを至らぬものとして達観できない、自分自身が至らぬものであるからであろう…と自省が先に立つので、年寄りは無口になるのだ。
…あれれ、愉しかった旅の記憶を、十日えびすのご縁日にちなんで、今回(10月20日…ご縁日の二倍サービスとなっております、吉祥寺は武蔵野公会堂にて)演奏いたします長唄「七福神/しちふくじん」のご説明がてら一筆…と考えておりましたが、失礼いたしました。
関八州に住まいしております東夷(あずまえびす)は、小説や映画で見聞きしているものの、JR東海・新幹線終着駅の新大阪と以西の山陽新幹線管轄に入る神戸駅間には、あまり土地勘の無いもので…社会生活上どうしても必要な事務的手続きが発生した、その機に乗じ、福男のかけっくらで有名な西宮神社へご挨拶に参りました。
(簡潔に…と心がけているのに…年寄りは無口になる分、文章が饒舌になって困ります……)
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あまりにお日様のご機嫌がよいので、散策を諦めJR西宮駅から車にてつけて頂いたのが脇の赤いご門です。
(…今更ですが、赤井御門守とはけだし名ネーミングでありますなぁ…漠然とした職掌のお侍さんのキャラクターとして…)
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さて、朱塗りの立派な大門をくぐり参道を神妙に進みますと、
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右へのカギの手に行き当たり、狛犬さんがおわします。
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狛犬さんが目くばせする方角へと更に歩を進めますと…
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木の鳥居の傍らに
♪くつばみ揃えて、神の神馬を引き連れ…と七福神の歌詞にも登場する御厩が。
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穏和なお顔立ちに和みながら、参道をずいずいーっと…
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近隣の観光案内が絵馬型取りになっていてオシャレ。
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…ところが。
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ご本殿が修理工事中で御目文字かなわず…
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仮社にお参り致しました。
芸能の神さま、百太夫さまがお出迎え下さいました。
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神楽のお稽古中なのか、無闇と賑やかなお囃子の音が聞こえてきて、神社における音曲というものも東西では持ち味が違うものであるなぁ…とハタと膝を打ちました。長唄・七福神のお囃子は本来、正にこんな感じなのでしょう。
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簡略にして全てが集約された素晴らしいネーミング。関西の諧謔みここに極まれり。
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中学時代の私は週刊漫画雑誌・少年チャンピオンを至上の愛読書として(週刊誌はクラスの男子から借りて読み、単行本をコレクションしておりました)、ブラックジャック、マカロニほうれん荘、がきデカ、エコエコアザラク、7半ライダー…etc.
中でも水島新司先生著『ドカベン』に至っては、TVアニメは勿論のこと、女子高生漫研時代は二次創作にも手を染めていたのでした。番組主題歌を収めたサントラ盤LPレコードを何度聴いたことか…小さな巨人 里中くん、われら里中親衛隊…♪ ひょっとして、今でも無本で歌えるかも…(いえ、唄いませんけれどもね)
えびす様のお心づくしのお見送りを賜り、すっかり気をよくした私は、次なる目的地へと向かったのでした。
【簡略版 長唄・七福神のご説明】
日本もかなり欧米化が進み、歳時記もすっかりすたれましたが、七福神めぐりを年末年始になさる方も、まだいらっしゃるかと存じます。この曲は七福神というタイトルですが、歌詞中に出てくる七福神の神様はエビスさまのみです。
古事記と日本書紀にかかれている、イザナギ、イザナミのミコトの国生み伝説から始まります。
二人のミコトの間に生まれた最初の子どもがヒルコ神で、骨も皮膚もなくぐにゃぐにゃしていたので、舟に乗せて海に流した、という、現代でも語り継がれている神話、映画やマンガのもとになった神さまです。
原典によっては、アマテラスとツクヨミの次に生まれた三番目の神さまとされ、のちに、海の神さまであるエビスになりました。
やおよろずの神々を身近に感じてくらしてきた、おおらかな日本古来の民間伝承の味わいを持つ、舞踊曲です。
もともとは、江戸三座の市村座が、興行中、毎朝開演する前に演じられた序びらきの番組で、各座に独自のテーマ曲がありました。
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