長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

九夏三伏の暑き日は…♪

2020年07月25日 09時24分16秒 | お知らせ
 鳥の声に目覚める季節が過ぎる。
 早朝、靄にかすむ雑木林からアブラゼミの鳴き声が聞こえてくる。関東者には夏本番のお知らせだ。
 8時を過ぎた頃になると、さぁ、今日もこれから幕開きですよ、と、劇場の1ベルともおぼゆるミンミンゼミが騒ぎ出す。数日前から、夕暮れ時の涼風に乗って、ヒグラシが鳴き始めた。通常運転なら、世界中が夏休み。

 以前、一の字騒動なる記憶をご紹介したが、50年余の時を経て、ついに、決着した。
 正解は、「考え無しに迂闊なことをするな」。
 それに気がついたのは、遅れたこと30年、吉川英治原作・大河ドラマ「太平記」足利高氏・青春グラフィティ的エピソードにての、無口な苦労人・緒形拳as足利貞氏の顔を見ていたときのこと。
 それが我が小学一年生の折の、担任の先生のお教えだったのだろう。
 至極当たり前で単純なことだけれど、上の空に生きているのが習い性のような人間には、気づきにくい基本的な事柄である。

 明日は令和二年では、水無月六日。六月六日である。
 六月五日に於いても雨がざぁざぁ降ってきて、雨にけぶる武蔵野の雑木林は、一転、カラスの声に満たされた。
 恒例の、稽古始めイベントを、今年は夏を諦めたように、粛々と、必要な方だけに行いたいと思う。

 さて、
 長らく、不定期の状態になっておりました吉祥寺稽古場ですが、水曜日の夕刻4時から晩の8時まで、
 ご町内の音楽スタジオにて、定期的に教室を再開することにいたしました。
 人間にとってのアミューズメントは不要不急ではない、という価値観をお持ちの方にお越しいただけましたなら、この上もなく嬉しく存じます。
 吉祥寺駅から数分のごく静かなところです。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。


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コメット君

2020年07月20日 23時23分55秒 | 折々の情景
 旧暦五月はさて、どんな月になりましょうか…などと言っている間に、皐月も本日、晦日を迎えた。
 梅雨の晴れ間にちらりと覗く青い空は、旅情を誘う。罪つくりなやつである。

 「なんだか東京だけ罰ゲームみたいになっちゃってるじゃないさ」
 「寄席はもう開いているらしいね」
 「チドリに座らされるそうですよ、アベックで行っても離ればなれにされちゃうんですって」
 「それって、その時以外はアベックでいるんだからさ、もはや無意味なんじゃ……?」

 千鳥に座るって、ステキな言葉ですね。
 そいや、お裁縫で千鳥掛けってのがあったわね。
 違う意味で千鳥掛けな訳だわね。

 そいや、若かりし頃の宴席での、いざというときの心の持ち唄は、♪唐傘の…でした。
 いざというとき…というのは、ご接待にお呼ばれしたとき、小唄の一つでもご披露…という、昭和の宴席では極々当たり前に見かける、カラオケなんちゅう無粋なものではなく、万事心得た三木のり平が居たりするようなお座敷で、何曲も唄うのも嫌味ですから、ごく短めな一節を…というシチュエーションを想定して。
 長谷川一夫の映画『婦系図(おんなけいず)』だったかしら、真砂町の先生だった古川緑波がおもむろに♪からかさの~と歌ったのを、二十歳前後だった私は、これだっ!!と、早速参考にさせていただいたのでした。
 とはいえ、そんな状況が平成ヒトケタ時代の小娘に訪れるシーンは毛頭ない、と言っても過言ではなく。



 彗星がふたたび、太陽系を訪れたらしい。
 令和二年の宇宙の旅人(たびにん)さん、彼の名をネオワイズ彗星と、発するそうでござんす。
 次に地球で見られるのは、五千年後ということだから、夜空をしばし仰ぎ見ました。
 残念ながら薄雲に阻まれ…流れゆくのは地の流星、その名もJR中央線快速。



 そいや、先年…2013年の暮れにもほうき星がやって来ましたっけ。
 東伊豆のPホテルでの彗星観測プランに参じましたが、太陽の熱でアイソン彗星本人は消滅してしまったのでした。

 けれども、せっかく来たのだから…と、黎明より早起きして、明けゆく海岸で師走の日の出を鑑賞しました。
 藍色の闇から、曙染めに耀く水平線と群雲、寄せる波頭。
 そのとき、波がしらをチチチ…と鳴きながら、千鳥が飛んでゆきました。
 わぁぁぁ、千鳥って本当に、チチチと鳴くのだわ……!!
 と、大自然の奏でる風景にも増して、感動したのを覚えています。

 (長唄「四季山姥(しきのやまんば)」に、チドリの鳴き声を模した三味線の技法があります)

 さて、令和のコメットさんが五千年の時のかなたに失せるその前に、尻尾にめぐり合う機会はまだ、訪れるのでしょうか……。
 
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手札

2020年07月10日 09時55分11秒 | 美しきもの
子雀が翔ぶ稽古をするときの、可愛らしい囀ずりが聞こえたのが6月。
信号待ちの高架下の交差点で、燕がパタパタと翼をはためかせ飛び交っていた昨日はもう、7月。
♪ここらでやめてもいいコロナ~と、小林旭の自動車ショー歌が脳裡を経廻る禍中もつかの間、令和2年は半年が過ぎ、中止・延期の憂き目を見た演奏会や催し物の手当てが、解除宣言とともに急に押し寄せ、落ち着かない。

総棚ざらいをしていた箪笥のあちこちから、過ぎし日々の捨てられぬテレフォンカードがひょっくり、顔を出す。



断捨離は果てもなく、私の記憶は藪のなか、未だ夢の途中。


【追記】
一枚目中央:益田玉城「現代隅田川風景」、目黒雅叙園美術館メトロカード(パスネット)は、昨年末に別れを告げた、営団地下鉄 銀座線 渋谷駅の旧駅改札口で求めたもの。
左右:歌舞伎・新派・新劇など昭和時代の区分にての劇界専門誌『演劇界』定期講読者プレゼントのテレカ。右は十五代目市村羽左衛門、通称うざさま。大正生まれの姉弟子に熱狂的なファンの方がいらして、よくお話を伺ったものでした。彼女の時代は『演藝画報』を定期講読していたそうな。
【追記Ⅱ】
二枚目中央:当代の尾上松緑丈が父上の前名・尾上辰之助を襲名した折の記念品。
江戸歌舞伎には大切なキャラクター、曾我物の五郎時致(ときむね)の拵え。
蝶の意匠の衣裳は五郎のしるし。

週刊少年マガジン 創刊30周年記念で頂いたテレカは、1989.10.27の日付あり。
(在ったことさえ失念しておりました…朝潮太郎 third関、ご免なさい…私の世代では、四代目がお馴染みです。いしいひさいち氏の漫画も流行りました。46代目の横綱・三代目朝潮関出身地のエピソードは、occupied時代を映し、涙を禁じ得ません…)
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