長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

お正月の朝のこと

2022年02月01日 23時30分12秒 | 近況
 今みたび目(個人的印象)の、コロナ禍波襲来警報中。
 新暦のバタバタで、旧来のお正月らしい伸びやかな新春を寿ぐ心持ちを長らく失っておりました。
 なんと、2022年2月1日は旧暦2022年正月朔日でもあります。
 令和四年と書かなかったのは、はて、元号が唯一残っている日本国に置いて旧暦は破棄されてしまった概念であるから、そう記述してよいものか…と迷ったからであります。旧正月を祝う中国でさえ、とうに皇帝暦を廃絶しておりますからねぇ。

 しかし、本日、三味線の体験授業で伺った中学校を失礼する際に、ちらと「今日は小正月で旧暦のお正月に当たります…」と給食の献立を説明なさる先生のお声が廊下越しに聞こえて参りました。
 うれしいですね。
 文化はこのように伝わって、新世代の方々にもお正月を祝う細やかな精神性、EQが育まれてゆくのですね。

 今年度の下半期は、コロナ禍で中断しておりました学校への三味線体験授業が再開され、一年度分を冬季の三カ月ほどに集約して行うスケジュールとなりました。
 先週伺った中学校は、講師の控室が暖かいカウンセリングルームで、偶然にも、その教室に備えられていたライブラリーで、私はとてもとても懐かしい、旧友に再会したのです。

 草思社 刊、谷川俊太郎 訳、堀内誠一 画、『マザーグースのうた』全五巻。
 “○×学級 昭和61年…”と、見返しに蔵書印が押してありました。
 とても綺麗な保存状態で、要支援学級のために、当時の在勤の先生がご用意なさったものでしょうか。
 懐旧の想いもありましたが、教職という使命に対する先生方の情熱を感じ、胸が熱くなる思いで、手に取ってしばし眺めました。

 その時、子ども時代にすっかり諳(そら)んじていたとある詞章、「お正月の朝のこと」が、ついと、脳裡に浮かびました。
 そして驚くまいことか、私の目の前に、ボッティチェリのVenusの誕生をイメージした、貝殻の舟に乗って水平線のかなたから、笛、ヴァイオリン、唄で新年をことほぎ、どんぶらことやって来る三人の女性(にょしょう)の絵が…堀内画伯の懐かしいクレパス画が、半世紀の時を超えて出現したのです。



 文部科学省では一緒の管轄になっていますが、スポーツ庁と文化庁は分離した方がよいと思います。
 オリンピック予算に圧迫され、せっかく備品として各学校でお持ちの三味線のメンテナンス予算が不足しているようです。
 日本の文化は、御存知のように使い捨てするものではなく、修理して代々受け継がれる道具類が、その仕手の技術と同時に存在することで、文化を担っているものです。

 そして、教育はとても大事なものですから、子供のみならず、人間が人間らしく生きていくうえで生涯に亘(わた)って、学習することが肝要です。
 こども庁は、なるほど必要なものでありましょうけれども、統合して教育庁とし、間断なくボーダーレスな役割を持つものとして、世代に跨(またが)る情緒教育、健全な精神を育成する努力をする部署を存続せしむることが、文化国家の繁栄を齎(もたら)すものではないかと、感じる次第です。



 令和四年、お正月の夕空です。
 
コメント
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