長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

羽根の禿(はね の かむろ)

2016年02月11日 11時25分00秒 | お知らせ
 本日は旗日です。
 「旗日(はたび)」も死語かもしれません。

 そして旧暦平成廿八年正月四日。
 昭和の子どもはお正月に羽根つきなぞ致しました。
 ほんの40年ぐらい前のことです。

 ほんの…ではないかもしれませんが、時の流れの実感とは長ずるに及び変わります。
 時間に対する相対的な観念の基準値が変わるからでしょうかしら。
 昭和の中高校生は近未来小説(平たく言えばSF)をよく読んだりしておりまして、印象的だったのが、筒井康隆の…タイトルは失念いたしましたが、時間の流れが時が経つにつれ、加速度的になりしまいには滝のように流れるという、活字もページの中で絵画的に流れていく短編の実験小説風のものがありました。
 十代だった私は、ふうん、そういう発想も小説になるんだなぁ…と思いましたが、今は違います。
 あれは、筒井康隆のその当時の年齢における、時の流れに対する実感だったのだろう、と思います。

 羽根つきの話です。
 羽根はムクロジの実にカラフルな彩色の、たぶん鶏の羽根を5本ぐらいだったでしょうか、つけたもの。

 そいえば、もう5年ほど前、長年のあこがれだった作州津山の津山城を訪れました時、お城の大手門に至る脇のお屋敷の下に、たくさんのムクロジの実が落ちていて、たいそう感激いたしましたことを想い出しました。ムクロジの実でできた羽根も、もうこの世には存在しないのかもしれませんなぁ…。
 (こんな話の調子なので、口調も自然、○×刀自…みたいになっていくことをお許しくださいまし)

 さてそんな羽根ですが、これが意外と跳びます。
 羽子板も、表の絵面はかつぢのぬりえ的なものから、歌舞伎絵の藤娘、道成寺など、板に手描きか印刷の量産された簡略なものでしたが、毎年新しいものが子どもたちに用意されました。
 堅い羽子板にムクロジの実が当たって、カーン、カーンと小気味よいお正月の音の風景。

 長唄舞踊に「羽根の禿」というのがあります。ただ「かむろ」ともいいます。
 むかしはよく舞踊会に出された、小品ながらお正月の清新な空気が感じられる、ほのぼのしみじみとした素敵な曲です。
 羽根の禿というと天王寺屋・中村富十郎丈のお母様・吾妻徳穂先生が晩年、よく舞台で踊られました。
 徳穂先生の、歌舞伎座や国立劇場でご子息の舞台を見守られるお元気なお姿を、よくお見かけしたものでございます。(ぁ、述懐するとまたそんな口調に…)

 とくに私は、曲最終パートの歌詞、
  ♪梅は匂いよ、桜は花よ、いつも眺めは富士の白雪
…が、とてもとても好きです。

 さて、このたび5回目を迎えます、杵徳会家元の唄稽古のお知らせをアップいたしました。
 芸能は、自分もやるから面白い。
 昭和の習いごとは、皆そういうスタンスで接してきたので、本職ではない一般の方々にも伝統的な文化が継続、伝播されていたのです。
 日本の文化は身近なところにあったのに…21世紀になって、なんだか受け止め方が変わってきちゃいましたけれど。

 ご興味のある方は、どうぞお問合せ下さいませ。
 よろしくお願い申し上げます。
コメント
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