奈良のむし探検

奈良に引っ越しました。これまでの「廊下のむし探検」に倣って「奈良のむし探検」としましたが、動物・植物なんでも調べます。

植物を調べる セイバンモロコシ

2021-06-12 18:41:26 | 植物を調べる
しばらくぶりに佐保川の土手を歩いてみると、にょきにょきと大きな草が生えていました。これは何だろうと思って、二株採取して調べてみました。





生えているのはこんなススキのようなイネ科植物です。これが土手のあちこちで生えてきています。イネ科の検索は、長田武正著、「日本イネ科植物図譜」(平凡社、1989)に載っています。この検索表はこの間、クサヨシの検索にも用いました。

①花序は頂生、特異な総包葉はない
②円錐花序をもつ(花序の枝はさらに小枝に分ける)
③円錐花序の枝ははっきりしていて、全体は円錐花序であることがよく分かる
④a 小穂は1小花からなる 第8群
 ヒエガエリ属、フサガヤ、ヒゲナガコメススキ、ヌカボ属、イブキヌカボ、アレチイネガヤ、ノガリヤス属、セイヨウヌカボ属
④b 小穂は見かけ上1小花からなる。すなわち本来は2-3小花のものだが、1小花のみ完全で、他の小花は退化縮小して、多くは1-2個の護頴だけとなる 第9群
 キビ属、クサヨシ、アブラススキ、ヒメアブラススキ、イネ、タカネコウボウ、オオアブラススキ属、モロコシ属、イヌアワ、ササキビ、チヂミザサ属

今回、検索してみると、上の写真でも分かるように、円錐花序になっています。さらに、次に載せるように小穂は1小花あるいは見かけ上1小花からなっているので、この間と同様に④aあるいは④bのどちらかになります。ここからは説明を読まないとよく分かりません。



花穂は枝分かれしているので、その一つを取り出したものがこの写真です。この写真ではよく分からないのですが、よく見ると、柄のない小花と柄のある小花が一か所から出ていることが分かります。



模式図で描くとこんな感じです。図譜の説明を読むと、柄のある花は雄性花で、柄のない花が両性花だそうです。この模式図のように、基部の方は雄性花と両性花、それにその先の花の柄が一組になっています。先端の方は、両性花と2組の雄性花が一組になっています。たぶん、図譜の第9群の説明にあるように、「2個の有柄小穂と無柄の1小穂が一緒になってつき、・・・」というのがこの先端の部分に当たるのでしょう。ということで、これはモロコシ属 Sorghumということになります。



両性花と雄性花を実際の写真に当てはめるとこんな感じになります。



両性花を開けてみました。固い包頴を開くと中には薄い透明の内頴があります。その中には大きな雄蕊が3つ見られます。



さらに一つの雄蕊を外してみました。中に雌蕊らしいものが見られました。たぶん、これはまだ若い雌蕊でこれが成熟すると、上から3番目の写真のようにけば立った雌蕊のようになるのだと思います。このように雌蕊が出る前に雄蕊が先に出ていて、上の写真ではその雄蕊が取れてしまった状態だと思われます。



最後は葉の付け根あたりの写真です。葉耳はすぐに分かるのですが、イネ科に特徴と言われる葉舌はどれだかよく分かりません。この辺りの構造も種の決め手になるようです。この写真を見る限り、葉舌付近には長い毛が見られます。

ところで、桑原義晴著、「日本イネ科植物図譜」(全国農村教育協会、2008)によると、モロコシ属にはモロコシガヤ、セイバンモロコシ、ナミモロコシの3種があるようです。この図譜にはそれぞれの特徴について検索表風に書かれていました。

モロコシガヤ Sorghum nitidum
 根茎は横走しない;茎は60~120cm、葉は幅5~8mm、表面無毛~有毛;小穂は3.5~4mm、淡褐色の毛があり、両性花に20mmほどの芒がある
セイバンモロコシ Sorghum halepense
 根茎は長く横走;茎は1~1.5m、葉は幅15~20mm、両面無毛、小穂は4.5~5mm、無芒
ナミモロコシ Sorghum bicolor
 アフリカ原産栽培種、両性花無芒

ナミモロコシは無芒なので、すぐに除外できますが、モロコシガヤとセイバンモロコシは根茎が横走するかどうかで見分けるのではっきりとは分かりません。また、セイバンモロコシが無芒と書かれていて、図にも芒が描かれていません。ただし、検索表では芒があるという方に属していて、矛盾しています。長田氏の図譜では芒が明瞭に描かれているので、芒があることは確かなのでしょう。ただし、長田氏の説明にも、「長くて太い芒があるが、芒が短く小穂の外まで伸び出さない型もある。・・・有芒ときに無芒。無芒の型をヒメモロコシ forma muticum (Hubb.)とよぶ。」とあるので、芒のないものもあるのでしょう。今回調べた株は芒があるので、その意味ではモロコシガヤとセイバンモロコシの区別がつかないのですが、葉の幅を実測すると16~24mmもあり、たぶん、セイバンモロコシで間違いないと思われます。



長田氏の図譜の説明には、「ススキそっくりの大きな株であるが、葉のへりはさわってもざらつかず・・・」とあるので、葉のへりを生物顕微鏡で拡大してみました。こんなのこぎりの歯のような突起が見られました。以前、ススキの葉についても顕微鏡写真を撮ったことがあるのですが、よく似た構造をしています。こんな構造があるのに、ざらつかないのはおかしいと思うのですが、どうしてでしょうね。


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