この間から、金魚池や用水路で見られるウキクサが気になっていました。大きさから何種類かあるようです。いろいろと調べた結果、ウキクサ、アオウキクサ属、ミジンコウキクサの最低3種はありそうなのですが、アオウキクサ属は種名が分かりませんでした。それで調べてみることにしました。
5月29日に瓶を持って、家の近くの用水路にウキクサを採取に行きました。ちょうど、雨が降った翌日だったので、だいぶ流れてしまっていたのですが、水が溜まっているところに集まっていました。これは採取したときの写真です。上の写真の左側にやや大きなウキクサが見えますが、これがいわゆるウキクサです。今日はその周囲のやや小さなウキクサが対象です。
ウキクサを調べるために、とりあえず検索表を見てみました。まずは、平凡社の「日本の野生植物Ⅰ」に載っている検索表です。
1a 植物体には根がない;出芽嚢は1個で花序をつけず、花序は酔う状態の表面中央に生じ、雄花1個、雌花1個からなり、苞がない ミジンコウキクサ亜科ミジンコウキクサ属
1b 植物体には根がある;出芽嚢は酔う状態の基部両側に2個あり、花序はその1個から生じ、雄花2個、雌花1個からなり、膜質の苞に包まれる ウキクサ亜科
2a 根は3~多数本;葉状体は3~15脈あり、裏面は帯紫色 ウキクサ属
2b 根は1本;葉状体は1~3脈あり、裏面は普通淡緑色 アオウキクサ属
3a 葉状体は花期を除いて水中にあり、卵状長楕円形、縁に微小な鋸歯がある;出芽嚢はやや背面に開口する ヒンジモ
3b 葉状体は水面に浮かび、円形~楕円形または倒卵形で全縁;出芽嚢は葉状体の縁で開口する
4a 根の基部を取り巻く鞘には翼がある;根冠は鋭頭 アオウキクサ
4b 根の鞘には翼はない;根冠は鈍頭
5a 葉状体は左右相称で円形~広卵形、3脈がある コウキクサ
5b 葉状体は左右不相称で広卵形、5脈がある イボウキクサ
5c 葉状体は左右相称で、1脈がある ヒナウキクサ
この検索表に従って、調べていくとにします。検索表の1と2は根の数を見ることになっています。根がないと、ミジンコウキクサ属、根があって3から多数だとウキクサ属、1本だとアオウキクサ属になります。
採取したウキクサの一つを取ってスケールの横に置いてみました。間違いなく、根は1本です。ということで、アオウキクサ属であることが確かめられました。検索表の3は葉状体(ウキクサ本体)が水中か水面かを聞いているので、間違いなく水面です。
検索表には根のほかに葉脈の数について書かれているので、透過光のもとで写真を撮ってみました。ところが、葉脈が見当たりません。ほとんど分からないのですが、辛うじて筋状に見えるところに矢印を付けてみたのがこの写真です。これから、葉脈は1本か、せいぜい2-3本かで、10本以上もあることはまずありえません。
葉状体をさらに拡大してみました。細胞が見えるほかに少し大きな網目模様がありました。
検索表4から先は、平凡社の検索表ではどうもはっきりしません。それで、「図説植物検索ハンドブック」の検索表も見ることにしました。
3b 根は1本、葉状体の裏は淡緑色または淡紫色
4a 根冠は鋭頭;葉状体の裏は淡緑色;根の鞘に翼あり;葉脈3脈 アオウキクサ
4b 根冠は鈍頭;葉状体の裏は淡緑色または紫色がかる;根の鞘に翼なし;葉脈不明瞭
5a 葉状体は円形から広卵形;葉脈は不明ながら3脈 コウキクサ
5b 葉状体は長楕円形;葉脈は不明ながら1脈 ヒナウキクサ
平凡社の検索表に合わせて、番号をつけた検索表がこれです。ここから先はこちらの検索表を見ていくことにします。4ではまず根冠の先端を見ることになっています。
ウキクサの根の先端部分を見てみると、カバーがついているような部分があります。これがたぶん、根冠です。
その先端を実体顕微鏡で拡大してみました。先端は間違いなく鈍頭です。これでアオウキクサでないことは分かりました。
ついでに久しぶりに実体顕微鏡で深度合成もしてみました。大して変わらない写真が得られました。
さらに、生物顕微鏡で先端を撮ってみました。これも深度合成した結果です。ちょっとぎざぎざしていますが、鈍頭であることは確かそうです。
これは根冠の入り口付近の写真です。
検索表4には根の鞘に翼があるかどうかという項目もあります。根の鞘がどれなのかよく分かりませんでした。それで、文献を少し調べてみました。次の論文に電顕写真が載っていました。葉状体から根が出る部分にある鞘を指すようです。この写真はウキクサをひっくり返した写真です。根が見えますが、どれが鞘かよく分かりません。
吉田明希子、「ウキクサの繁殖メカニズムとその農学的応用」、植物科学最前線 14, 87-99 (2023).
それで、少し横から撮ってみました。これでも分かりません。ただ、写真を見ると、ウキクサが二つくっついていて、一つは根が伸びているのですが、もう一つはまだ少ししか伸びていないことが分かります。
それで、今度は生物顕微鏡に対物レンズ10倍を取り付けて深度合成で撮ってみました。やっと根の基部に鞘のようなものが見えることが分かりました。これに翼があるかどうかは分かりませんが、根冠が鈍頭なので、たぶん、翼はないのでしょう。
次の検索表5を見ると、その先は葉脈がはっきりしないと、結局、葉の形で判断するしかありません。ヒナウキクサの葉状体は長楕円形、コウキクサは円形から広卵形なので、おそらくコウキクサの方だろうと思われます。さらに調べるために、図書館で本を借りてきました。角野康郎著、「日本の水草」(文一総合出版、2014)です。この本には検索表が出ていないのですが、説明が載っているのでヒナウキクサとコウキクサの項を見てみました。
コウキクサ
葉状体は広楕円形でやや厚みがあり、葉脈(3脈)は不明瞭。長さ3~4.5mm、幅2~3.5mm。表面は明るい黄緑色だが、日陰では緑色が濃くなる。根は長さ3~8cm、根鞘基部に翼はなく、根端は鈍頭。開花は稀;冬は葉状体のまま越す。
ヒナウキクサ
葉状体は卵形~長楕円形で膨らみはなく葉脈は1本、長さ1.5~2mm、幅1~2mm。脈上に1~3個の目立たない突起が認められる。根の先端は細くなるがとがらない。冬は葉状体のまま越す。
この本には葉状体の形のほか、大きさが出ています。それで、実際に測ってみました。測った葉状体は長さ3.6 mm、幅2.5 mm、根の長さは3.2 cmでした。寸法から見る限りはやはりコウキクサがあっているようです。この本にはそのほか、アオウキクサ属として、ホクリクアオウキクサというアオウキクサの亜種、ナンゴクアオウキクサ、ムラサキコウキクサ、キタグニコウキクサ、イボウキクサ、チリウキクサが載っていますが、いずれもちょっと違うようです。やはり
コウキクサでよいのではと思っています。