奈良のむし探検

奈良に引っ越しました。これまでの「廊下のむし探検」に倣って「奈良のむし探検」としましたが、動物・植物なんでも調べます。

虫を調べる ヒメアリ

2021-06-28 17:32:49 | 虫を調べる
6月14日に咲き始めたヤブガラシの花を撮影していたら、小さなアリが来ているのに気が付きました。



こんなアリです。花ごと採集してきて、ずっと冷凍庫にしまっていました。先日、その花を出してきて解凍すると、小さなアリが3匹ほど採集できていました。早速、いつもの「日本産アリ類図鑑」(朝倉書店)に載っている検索表を用いて調べてみました。とにかく、小さいので検索も大変だったのですが、撮影の方もなかなか大変でした。何とか検索ができて、フタフシアリ亜科のヒメアリらしいことが分かりました。一応、記録として残しておこうと思います。

①腹柄は2節(腹柄節と後腹柄節)からなる;腹部末端の背板は単純で、微小な鋸歯の列はない;頭盾前縁側方に小突起はない
②触角の挿入部は額葉によって多少なりとも覆われている;前伸腹節刺をもつものと持たないものがあるが、触角挿入部が裸出している種の場合は顕著な前伸腹節刺ある;複眼がある
跗節末端の爪は単純;複眼の長径は大腮を除いた頭長の1/4以下;額葉は互いに離れる  フタフシアリ亜科

まずは亜科の検索です。検索の結果、フタフシアリ亜科になったので、その検索過程を写真で確かめていこうと思います。ただし、赤字は確かめなかったり、写真を撮らなかった項目です。1つの検索項目にいくつかの項目が入っているので、たぶん、それらがなくても大丈夫だと思っています。



最初は腹柄が腹柄節と後腹柄節の2節からなるというので、これは分かりやすいです。体長は折れ線で近似して、全体で1.7 mmになりました。



矢印で示したのが頭盾なのですが、その前縁側方に突起はないのは確かです。これはクビレハリアリ亜科を除外する項目です。



次は触角の基部が額葉に覆われていて、それが離れていること。さらに、複眼があって、その長径が頭長の1/4以下であるという点です。額葉は矢印で示した部分で、確かに僅かですが、触角基部がその下にあります。複眼も書いてある通りなので、これで、フタフシアリ亜科になりました。

次は属の検索です。これはなかなか大変でした。

④触角は11~12節;触角棍棒部は2節以上からなる、あるいは不明瞭
⑤後腹柄節は腹部基部端に接続する;前伸腹節気門は前伸腹節後面にまでかかることはない
⑥前伸腹節刺は前方に向かって反り返らないか、あるいは前伸腹節に刺がない
⑦腹柄節の丘部が山型に隆起し、柄部と区別される;前伸腹節背側縁の前方に小突起はない;腹部腹面側方には隆起縁による輪郭はない
⑧触角棍棒部は3節以上からなる、あるいは不明瞭;触角は12節からなる(一部の種では11節)
⑨頭盾前縁に複数の小突起はない;額隆起縁は張り出し、触角挿入部は少なくとも部分的に隠される;触角は12節からなる
⑩頭盾前縁は大腮にかかるまで伸張することはない;触角収容溝はないか、あっても頭部後方角まで伸張しない
⑪大腮は通常の三角状
⑫触角棍棒部は3節からなる
⑬腹柄節後縁は側方から見てほぼ直線状;腹柄節後縁背部は突出しない
⑭頭部や胸部背面に体毛をもつ;後腹柄節は背面から見て幅は長さの1.5倍以下
⑮前伸腹節の後背部は角張ることはあっても、棘もしくは小歯状の突起を形成することはない;頭盾前縁中央に1本の剛毛をもつ ヒメアリ属

この12項目を調べた結果、ヒメアリ属になりました。これも写真で確かめていきたいと思います。ただ、検索の順ではなくて、写真ごとに関連する項目をまとめていきます。なお、これも写真を撮らなかった項目は赤字で示してあります。



最初は触角についてです。この写真では触角が全部で12節あり、先端3節は太くなって棍棒部を形成していることを見ます。



これは前伸腹節と腹柄節あたりを拡大したものですが、後腹柄節が腹部の基部端についていること、前伸腹節後面に刺や小突起などがないことを見ます。



この写真は前伸腹節を後方から見たところですが、前伸腹節気門が後面にかかっていないことを確かめます。



これは腹柄をさらに拡大したものですが、腹柄節が丘部と柄部に分けることができ、さらに、矢印で示した腹柄節後縁はほぼ直線状になることを確かめます。後者は腹柄節後縁の先端が突き出て、中間が凹むウメマツアリ属を除外する項目です。



この項目は額葉があるという亜科の検索の②と同様の内容です。これは触角基部が露出するアミメアリ属を除外する項目です。実は②ではアミメアリ属を除くという注釈が載っていました。



これは頭盾に関する検索です。頭盾前縁に複数の小突起を持つのはアミメアリ属で、前縁が大腮にかかるほど伸長するのはミソガシラアリ属で、いずれも該当しません。



これは頭盾前縁中央から一本の剛毛が出るという項目です。アリ自体が小さいので、写真になかなか撮れなかった項目です。矢印の部分がその剛毛だと思います。これが1本のものと2本が対になって出る属があります。ヒメアリ属は1本なのですが、オオズアリ属やシワアリ属など、多くの属では2本出ています。



これは大腮を写したもので、確かに三角状です。これは大腮がサーベル状のイバリアリ属を除く項目です。大腮の歯は4個までは数えられます。



最後は頭部や胸部背面に毛が生えていることですが、これはハダカアリ属という毛のない属を除外する項目です。ということで、順不同にはなってしまいましたが、ヒメアリ属までたどり着きました。検索をしていて、前伸腹節後面に刺や突起がなく、滑らかになっている点が特徴ではないかと思いました。

最後は種の検索です。

⑯複眼はより大きく、5個以上の個眼からなる;前伸腹節を側方から見たとき、後背縁は丸く、明瞭に角張らない
⑰頭部と胸部の表面に彫刻はなく、滑らかで光沢がある
⑱前伸腹節にしわはない
⑲頭部、胸部は黄色から黄褐色
⑳腹部は胸部より明らかに暗色で褐色から黒褐色;腹部第1節の側方に紋はない ヒメアリ

この5項目を確かめることでヒメアリであることが確かめられます。



これは色に関する⑲と⑳の項目で、書いてある通りだと思いました。色違いのクロヒメアリやフタイロヒメアリ、キイロヒメアリ、それに斑紋を持つフタモンヒメアリなどがいるようです。



これは前伸腹節の形状に関するもので、後面が丸く角張らず、また、しわがないことを見ます。これは後面が角張るカドヒメアリ、しわのあるミゾヒメアリ、シワヒメアリを除外する項目です。



そして、最後は複眼が大きくて個眼が5つ以上あり、さらに、全体に光沢があるというものです。これは先ほど出たカドヒメアリの複眼が小さく個眼が1~2個しかないこと、また、細かい点刻があって光沢のないイエヒメアリを除外する項目です。

ということで、大変ややこしかったのですが、とりあえず、ヒメアリに到達しました。図鑑によると、ヒメアリは体長1.5 mm、頭部と胸部は黄色から黄褐色、腹部は褐色から黒褐色、林縁から草地にかけて生息し、西南日本では最普通種の一つだそうです。


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