4月6日、大和郡山市西部にある松尾寺に行ったときに見つけたハバチについて、翅脈、触角、顔面の写真をブログに出して、セグロカブラハバチではないかと書きました。実は、このときもう少しいろいろな顕微鏡写真を撮っていたのですが、コロナの勉強が忙しくて放りっぱなしになっていました。コロナの勉強もとりあえず終わったので、ここで検索の記録としてまとめておきたいと思います。
松尾寺で見たのはこんなハバチです。
体長は6.2mm。上から見ると黒っぽいのですが、横から見ると、こんな橙色をしています。
検索表にはいつも用いている、吉田浩史著、「大阪府のハバチ・キバチ類」(西日本ハチ研究会、2006)を用いました。まずは科の検索から。ハバチの仲間は腰が細くならない広腰亜目に入っています。この中には11科含まれているのですが、それから科を決める検索を行います。
①触角は複眼下縁よりも上、頭盾の上の顔面より生じる
②触角の形状は様々だが、第3節は第4節以降と同等の太さで、特に発達することはない
③触角は通常糸状か棍棒状
④触角は通常糸状
⑤前胸背板は短く、中央部で狭くなる
⑥頭盾は頭部と明らかに分離される
⑦中胸背板は分割されない
⑧雌の産卵管鞘は棒状に後方に伸長しない;雄の腹部末端に後方に伸びる明瞭な突起はない ハバチ科 Tenthredinidae
検索の結果、予想通りハバチ科に含まれていることが分かりました。そこに至る検索項目を書き出すと、この8項目になります。これを写真で確かめていこうと思います。煩雑さを防ぐために、いつもの通り、検索順ではなく、部位別に見ていきたいと思います。
最初は①の項目で、触角の位置に関するものです。触角が複眼の下縁より下から出ているかどうかで、これはヤドリキバチ科を除外する項目です。写真ですぐに分かりますが、下縁より上なので、①はOKです。次の⑥は頭盾と頭部がはっきりと分かれているかどうかで、頭盾と頭部が融合しているヒラタハバチ科を除外する項目です。これもOKです。
次は触角に関するものです。②では第3節が特に太くなっていないことを確かめます。これはナギナタハバチ、ヨフシハバチ、ミフシハバチの各科を除外する項目です。特に太くなったり発達していることはないので、これもOKです。③と④は触角が糸状かどうか確かめる項目で、櫛歯状のクシヒゲハバチや先端が棍棒状に太くなるコンボウハバチ科を除外する項目です。これもOKです。
これは背側から撮った写真ですが、ちょっと斜めになって見にくくなりました。実は、同じハバチだと思われる個体は4年前にも検索をしていて、ブログに出していました。そのときの方が綺麗な写真が撮れていたので、そちらを参照していただければよく分かるのではないかと思います。⑤の前胸背板は側方では辛うじて見えるのですが、中央部は頭に隠れてほとんど見えません。これは前胸背板が長く伸長するクキバチ科を除外する項目なので、問題ないと思います。⑦は中胸背板の中央部に横溝が入り前後に分割されるクビナガキバチ科を除外する項目です。特に横溝は見えないので、OKでしょう。
最後は⑧です。これは♂だと思われますが、腹部末端に突起はありません。これはキバチ科を除外する項目です。ということで、無事にハバチ科に達しました。次は亜科、属、種の検索をまとめてやっちゃいます。
⑨前翅の基脈と肘脈は亜前縁脈上のほぼ一点で接する。離れる場合、その間隔は第1肘横脈よりも短い
⑩前翅肘脈基部は直線状か、わずかに曲線となる程度
⑪前翅の径横脈を持ち、前翅第1・2反上脈は別の肘室につながる
⑫前翅の基脈は直線的で第1反上脈とほぼ平行
⑬前翅肛室は完全で横脈を持つ ハグロハバチ亜科 Allantinae
⑭触角は10または11節 カブラハバチ属 Athalia
⑮小盾板は黒色;中胸背板は通常広く黒色。時に両側や前半が橙黄色となることもある セグロカブラハバチ A. infumata
検索の結果、ハグロハバチ亜科カブラハバチ属セグロカブラハバチになったので、その検索過程を見ていきます。
実は、亜科の検索は翅脈に関するものばかりです。従って、これ1枚で亜科の検索はすべて片付きます。ハチの翅脈と翅室の名称は独特な用語を用いるので、検索表に従って、その名称で名前を書いておきます。後で、一般的な翅脈の名称を載せておきます。なお、翅脈の名称は「新訂 原色昆虫大図鑑III」によっています。まず、⑨で、基脈と翅脈が交わるあたりを黄矢印で示しました。ハバチ科の検索ではここがもっとも重要で、また、悩ましい所でもあります。これについては以前も書いたことがあるので、そちらを参照してください。いずれにしても、この写真の個体は1点で交わっているので⑨は問題ありません。次の⑩は肘脈基部が強く曲がるシダハバチ亜科を除く項目で、これもOKです。⑪は径横脈を持たないか、反上脈が同じ肘室につながるヒゲナガハバチ亜科を除外する項目です。これもOKです。⑫は基脈が曲がるか、第1反上脈と平行でないシダハバチ亜科の一部やヒゲナガハバチ亜科の一部、ハムグリハバチ亜科を除外する項目です。これもよいでしょう。最後の⑬は肛室が不完全で閉じていないマルハバチ亜科を除外する項目です。これもOKなので、結局、ハグロハバチ亜科になりました。
カブラハバチ亜科の中でカブラハバチ属の触角は10または11節なので、一発でカブラハバチ属になりました。
最後は小盾板や中胸背板が黒いことで、これも一発でセグロカブラハバチになりました。ついでなので、「日本産ハバチ・キバチ類図鑑」の図を見ながら、各部の名称を入れておきました。ということで、ハバチの検索をまとめてみました。実は、3月以降、虫や植物の細部の写真を撮ってはいたのですが、まとめるが面倒で、そのままになっていました。これから少しずつまとめていこうと思います。
次いでにハチ以外で一般的な翅脈の名称を書いておきます。これが前翅です。
そして、こちらが後翅です。
松尾寺で見たのはこんなハバチです。
体長は6.2mm。上から見ると黒っぽいのですが、横から見ると、こんな橙色をしています。
検索表にはいつも用いている、吉田浩史著、「大阪府のハバチ・キバチ類」(西日本ハチ研究会、2006)を用いました。まずは科の検索から。ハバチの仲間は腰が細くならない広腰亜目に入っています。この中には11科含まれているのですが、それから科を決める検索を行います。
①触角は複眼下縁よりも上、頭盾の上の顔面より生じる
②触角の形状は様々だが、第3節は第4節以降と同等の太さで、特に発達することはない
③触角は通常糸状か棍棒状
④触角は通常糸状
⑤前胸背板は短く、中央部で狭くなる
⑥頭盾は頭部と明らかに分離される
⑦中胸背板は分割されない
⑧雌の産卵管鞘は棒状に後方に伸長しない;雄の腹部末端に後方に伸びる明瞭な突起はない ハバチ科 Tenthredinidae
検索の結果、予想通りハバチ科に含まれていることが分かりました。そこに至る検索項目を書き出すと、この8項目になります。これを写真で確かめていこうと思います。煩雑さを防ぐために、いつもの通り、検索順ではなく、部位別に見ていきたいと思います。
最初は①の項目で、触角の位置に関するものです。触角が複眼の下縁より下から出ているかどうかで、これはヤドリキバチ科を除外する項目です。写真ですぐに分かりますが、下縁より上なので、①はOKです。次の⑥は頭盾と頭部がはっきりと分かれているかどうかで、頭盾と頭部が融合しているヒラタハバチ科を除外する項目です。これもOKです。
次は触角に関するものです。②では第3節が特に太くなっていないことを確かめます。これはナギナタハバチ、ヨフシハバチ、ミフシハバチの各科を除外する項目です。特に太くなったり発達していることはないので、これもOKです。③と④は触角が糸状かどうか確かめる項目で、櫛歯状のクシヒゲハバチや先端が棍棒状に太くなるコンボウハバチ科を除外する項目です。これもOKです。
これは背側から撮った写真ですが、ちょっと斜めになって見にくくなりました。実は、同じハバチだと思われる個体は4年前にも検索をしていて、ブログに出していました。そのときの方が綺麗な写真が撮れていたので、そちらを参照していただければよく分かるのではないかと思います。⑤の前胸背板は側方では辛うじて見えるのですが、中央部は頭に隠れてほとんど見えません。これは前胸背板が長く伸長するクキバチ科を除外する項目なので、問題ないと思います。⑦は中胸背板の中央部に横溝が入り前後に分割されるクビナガキバチ科を除外する項目です。特に横溝は見えないので、OKでしょう。
最後は⑧です。これは♂だと思われますが、腹部末端に突起はありません。これはキバチ科を除外する項目です。ということで、無事にハバチ科に達しました。次は亜科、属、種の検索をまとめてやっちゃいます。
⑨前翅の基脈と肘脈は亜前縁脈上のほぼ一点で接する。離れる場合、その間隔は第1肘横脈よりも短い
⑩前翅肘脈基部は直線状か、わずかに曲線となる程度
⑪前翅の径横脈を持ち、前翅第1・2反上脈は別の肘室につながる
⑫前翅の基脈は直線的で第1反上脈とほぼ平行
⑬前翅肛室は完全で横脈を持つ ハグロハバチ亜科 Allantinae
⑭触角は10または11節 カブラハバチ属 Athalia
⑮小盾板は黒色;中胸背板は通常広く黒色。時に両側や前半が橙黄色となることもある セグロカブラハバチ A. infumata
検索の結果、ハグロハバチ亜科カブラハバチ属セグロカブラハバチになったので、その検索過程を見ていきます。
実は、亜科の検索は翅脈に関するものばかりです。従って、これ1枚で亜科の検索はすべて片付きます。ハチの翅脈と翅室の名称は独特な用語を用いるので、検索表に従って、その名称で名前を書いておきます。後で、一般的な翅脈の名称を載せておきます。なお、翅脈の名称は「新訂 原色昆虫大図鑑III」によっています。まず、⑨で、基脈と翅脈が交わるあたりを黄矢印で示しました。ハバチ科の検索ではここがもっとも重要で、また、悩ましい所でもあります。これについては以前も書いたことがあるので、そちらを参照してください。いずれにしても、この写真の個体は1点で交わっているので⑨は問題ありません。次の⑩は肘脈基部が強く曲がるシダハバチ亜科を除く項目で、これもOKです。⑪は径横脈を持たないか、反上脈が同じ肘室につながるヒゲナガハバチ亜科を除外する項目です。これもOKです。⑫は基脈が曲がるか、第1反上脈と平行でないシダハバチ亜科の一部やヒゲナガハバチ亜科の一部、ハムグリハバチ亜科を除外する項目です。これもよいでしょう。最後の⑬は肛室が不完全で閉じていないマルハバチ亜科を除外する項目です。これもOKなので、結局、ハグロハバチ亜科になりました。
カブラハバチ亜科の中でカブラハバチ属の触角は10または11節なので、一発でカブラハバチ属になりました。
最後は小盾板や中胸背板が黒いことで、これも一発でセグロカブラハバチになりました。ついでなので、「日本産ハバチ・キバチ類図鑑」の図を見ながら、各部の名称を入れておきました。ということで、ハバチの検索をまとめてみました。実は、3月以降、虫や植物の細部の写真を撮ってはいたのですが、まとめるが面倒で、そのままになっていました。これから少しずつまとめていこうと思います。
次いでにハチ以外で一般的な翅脈の名称を書いておきます。これが前翅です。
そして、こちらが後翅です。
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