長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『サンセット・サンライズ』

2025-01-25 | 映画レビュー(さ)

 Covid-19による世界的パンデミックは多くの創作物に影響を与えた。しかし、少なくとも映画やTVシリーズがマスクと手洗い、ソーシャルディスタンスの光景を描くことはなかったように思う。全く存在しないものとしてストーリーを進めた作品もあれば、事後として言及した作品や心象風景に留めた作品もある。『サンセット・サンライズ』は3・11から10年の節目を迎える三陸地方の架空の町を舞台にしているが、パンデミックと震災では普遍性がまるで異なる。日本は世界的に見ても珍しいマスク着用文化の国だが、コロナ禍の騒動を一種のシチェーションコメディとして描くのは笑いの瞬発力として随分鈍い。より観客の心を揺さぶるのは3・11を回想する女川出身、中村雅俊の東北弁による味わい深いモノローグだったりするのだ。

 『あまちゃん』から11年を経た宮藤官九郎の脚本を岸善幸監督はグルーヴたっぷりに演出できているとは言えず、コメディとドラマの繊細な配合に苦慮している節が見受けられる。この脚本で131分は長い。それでも素晴らしいチャームの持ち主であるスター、菅田将暉が登場すると途端に映画が華やぎだすのだ。菅田演じる主人公・晋作は、緊急事態宣言をきっかけに家賃6万円4LDKの物件がある三陸の港町、宇田濱にやってくる。感染対策を徹底する自治体にとって東京からの移住者は論外。晋作は2週間の自主隔離を始めるも、眼前に太平洋が広がれば海釣り好きの血が黙ってはいない。地元住民の目を盗み、日がなリールを放り、海の幸に舌鼓を打つ菅田の楽しげな姿だけで大いに笑みがこぼれてくる。

 ヒロイン百香を好演する井上真央のおかげで恋の行方と家族観への問いかけが興味を引くだけに、もう少し的を絞った作劇でも良かったのではないか。映画に賞味期限ができてしまったことは残念だが、東北地方はいつだってあなたを待っていることは付け加えておきたい。


『サンセット・サンライズ』24・日
監督 岸善幸
出演 菅田将暉、井上真央、中村雅俊、竹原ピストル、三宅健、山本浩司、池脇千鶴、小日向文世
※2025年1月17日公開 公式サイト
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