クリント・イーストウッドの監督デビューとなる1971年作。ストーカーの恐怖描くスリラー監督としての技量が発揮されている事はもちろん、この偉大な映画作家のあまりに歪な女性観が如実に現れている点でも興味深い1本である。
イーストウッドが演じるのはKRML(後に市長も務めたカーメルのローカル局)のDJデイブ。深夜にジャズと詩の朗読を流すこの番組に、毎夜エロール・ガーナーのバラード『ミスティ』をリクエストしてくるリスナーがいる。デイブが放送を終え、いつものバーで酒を飲んでいると、隣り合わせた女が声をかけてきた。彼女=イブリンこそが“ミスティの女”なのだ。ほんの火遊びのつもりでデイブは彼女と一夜を共にすると…。
瞬時に恐ろしい形相へと豹変するイブリン役ジェシカ・ウォルターの怪演は53年を経た今でも観客を震え上がらせるには十分。イーストウッドのマゾヒズムはこれまで何度も分析されてきたが、最新作『陪審員2番』では愛娘フランセスカ・イーストウッドにイブリンのイメージを鏡映させていることにぎょっとさせられた。フランセスカが演じた被害者にイーストウッドは特段のシンパシーを寄せておらず、むしろ激しやすく扱いにくい女性として描写し、事件の重要なモチーフであえる“転落”はイブリンの結末から引用されているようにすら見えるのである。そんなイーストウッドの女性恐怖とも言うべき特殊性はデビュー作以後、幾度も発露していったのである。
『恐怖のメロディ』71・米
監督 クリント・イーストウッド
出演 クリント・イーストウッド、ジェシカ・ウォルター、ドナ・ミルズ、ジョン・ラーチ